23 / 26
第五話
予約(3)
しおりを挟む
従業員用の出口を出たところに、野村さんがスマホをいじって立っている姿が見えた。
なんとかスルーをしようとしたけれど、野村さんは見逃してはくれなかった。
「待って、待って」
「あー、まだいたんですかー?」
なんとか笑顔を作れているとは思うけど。
「ひどいなぁ。待ってるって言ったじゃないですかぁ」
もう、行くのが、確定ってことみたいだ。
仕方なしに、彼の隣を歩きながら、ついていく。
そして野村さんが連れて来てくれた店は、駅を挟んだ反対側にあった。
「こっち側ってあんまり来ないんですよね。」
少し古い商店街を抜けていった先、住宅街が始まる境界くらいのところに、その店はあった。
てっきり野村さんが連れてきてくれるような店は小洒落たイタリアンとかかな、と思ったら、昔からあるような定食とかを出すような店だった。
「いらっしゃいっ!」
「おばちゃん、ビールねぇ」
飲むつもりはなかった私に、断りもなく頼む野村さん。
「あ、ごめん、早瀬さんはビールじゃないほうが、よかった?」
店の入口近くの席に座りながら、すぐにテーブルに届いたビールの小瓶から、グラス二つに注いでいく。
私が断るという前提はないんだ。
なんというか、呆れながら、手書きの小さいメニューを見ながら選んでる野村さんを見つめる。
「なにー? そんなに俺ってイケメン?」
「は?」
メニューから目をあげずに笑う野村さん。
「フフフ。冗談です。あ、この店、普通にご飯旨いから。えーと、俺のオススメは、煮魚定食」
こんな時間になっても定食出してくれるんだ、と、驚きながら店の中を見回す。
年季が入った店の壁の色。
お店のお客さんも、地元のおじさんたちが多そうだ。
「じゃあ、それで」
「よし、じゃ、俺も同じの」
「あいよー」
グラスを合わせて乾杯すると、野村さんは一気に飲んだ。
私はそんなにお酒に強いわけではないので、ちびりちびりと口にする。
「早瀬さん」
「はい?」
「俺と付き合わない?」
口にグラスをつけたまま固まる私だったけれど、ゆっくりとグラスを離す。
「急にどうしたんですか。」
今までも、美容室で冗談半分な感じで揶揄われてたけれど。
目の前にいる野村さんの顔は、真面目な表情。
「急にでもないよ。うちの店に来るたびに、それとなくアプローチしてたつもりなんだけど」
半分ほど飲み切ったグラスをテーブルに置くと、グラスの縁を細い指でなぞりながら、熱のある瞳で見つめてくる。
「ま、またぁ、野村さん、私なんかからかって楽しいですか?」
なんとか顔は引きつってなかったと思う。
ちゃんと笑えて返せたと思う。
「俺、本気なんだけど」
「はい、お待ちどうさま~」
ドンドン、と注文した料理がテーブルの上に置かれる。
「おばちゃん、タイミング悪すぎるよ」
ムッとした顔で、運んできたおばさんを睨みつける。
「あら、なに、ごめんなさいねぇ~」
カラカラと笑いながら去っていくおばさんを、あっけにとられて見ていたら、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「早瀬さん、そこ笑うとこ?」
野村さんの情けない声で、余計に笑ってしまって。
「ご、ごめんなさいっ、止まらないんですっ……ぷ、くくくく」
「もう……自棄食いだっ!」
結局、野村さんの返事もせずに私たちは食事だけすると、駅前で別れた。
まだ少し肌寒い風に撫でられた髪を押さえる。
「……黒川さんに会いたいな」
明日、予約の電話をしよう、と思った。
なんとかスルーをしようとしたけれど、野村さんは見逃してはくれなかった。
「待って、待って」
「あー、まだいたんですかー?」
なんとか笑顔を作れているとは思うけど。
「ひどいなぁ。待ってるって言ったじゃないですかぁ」
もう、行くのが、確定ってことみたいだ。
仕方なしに、彼の隣を歩きながら、ついていく。
そして野村さんが連れて来てくれた店は、駅を挟んだ反対側にあった。
「こっち側ってあんまり来ないんですよね。」
少し古い商店街を抜けていった先、住宅街が始まる境界くらいのところに、その店はあった。
てっきり野村さんが連れてきてくれるような店は小洒落たイタリアンとかかな、と思ったら、昔からあるような定食とかを出すような店だった。
「いらっしゃいっ!」
「おばちゃん、ビールねぇ」
飲むつもりはなかった私に、断りもなく頼む野村さん。
「あ、ごめん、早瀬さんはビールじゃないほうが、よかった?」
店の入口近くの席に座りながら、すぐにテーブルに届いたビールの小瓶から、グラス二つに注いでいく。
私が断るという前提はないんだ。
なんというか、呆れながら、手書きの小さいメニューを見ながら選んでる野村さんを見つめる。
「なにー? そんなに俺ってイケメン?」
「は?」
メニューから目をあげずに笑う野村さん。
「フフフ。冗談です。あ、この店、普通にご飯旨いから。えーと、俺のオススメは、煮魚定食」
こんな時間になっても定食出してくれるんだ、と、驚きながら店の中を見回す。
年季が入った店の壁の色。
お店のお客さんも、地元のおじさんたちが多そうだ。
「じゃあ、それで」
「よし、じゃ、俺も同じの」
「あいよー」
グラスを合わせて乾杯すると、野村さんは一気に飲んだ。
私はそんなにお酒に強いわけではないので、ちびりちびりと口にする。
「早瀬さん」
「はい?」
「俺と付き合わない?」
口にグラスをつけたまま固まる私だったけれど、ゆっくりとグラスを離す。
「急にどうしたんですか。」
今までも、美容室で冗談半分な感じで揶揄われてたけれど。
目の前にいる野村さんの顔は、真面目な表情。
「急にでもないよ。うちの店に来るたびに、それとなくアプローチしてたつもりなんだけど」
半分ほど飲み切ったグラスをテーブルに置くと、グラスの縁を細い指でなぞりながら、熱のある瞳で見つめてくる。
「ま、またぁ、野村さん、私なんかからかって楽しいですか?」
なんとか顔は引きつってなかったと思う。
ちゃんと笑えて返せたと思う。
「俺、本気なんだけど」
「はい、お待ちどうさま~」
ドンドン、と注文した料理がテーブルの上に置かれる。
「おばちゃん、タイミング悪すぎるよ」
ムッとした顔で、運んできたおばさんを睨みつける。
「あら、なに、ごめんなさいねぇ~」
カラカラと笑いながら去っていくおばさんを、あっけにとられて見ていたら、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「早瀬さん、そこ笑うとこ?」
野村さんの情けない声で、余計に笑ってしまって。
「ご、ごめんなさいっ、止まらないんですっ……ぷ、くくくく」
「もう……自棄食いだっ!」
結局、野村さんの返事もせずに私たちは食事だけすると、駅前で別れた。
まだ少し肌寒い風に撫でられた髪を押さえる。
「……黒川さんに会いたいな」
明日、予約の電話をしよう、と思った。
0
あなたにおすすめの小説
皇后陛下の御心のままに
アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。
アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。
幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
身分違いの恋
青の雀
恋愛
美しい月夜の晩に生まれた第1王女ベルーナは、国王と正妃の間に生まれた初めての娘。
権力闘争に巻き込まれ、誘拐されてしまう。
王子だったら、殺されていたところだが、女の子なので、攫ったはいいものの、処理に困って、置き去りにされる。
たまたま通りすがりの冒険者家族に拾われ、そのまま王国から出る。
長じて、ベルーナの容姿は、すっかり美貌と品位に包まれ、一目惚れ冒険者が続出するほどに
養父は功績を讃えられ、男爵の地位になる。
叙勲パーティが王宮で開かれ、ベルーナに王子は一目ぼれするが、周囲は身分違いで猛反対される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる