伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き

実川えむ

文字の大きさ
19 / 81
第3章 しつこい男は嫌われますわよ

17

しおりを挟む
 ギルドカードを手に入れた私たちは、残り少ないお金で、できるだけ身の回りの物を買うことにした。
 ギルドで武器や防具、道具などを安く売ってる場所を聞き、町の中を歩いていく。勧められた店はけっこう近くにあった。きっと、みんなまとめて買うんだろう。密集してあったのはありがたかった。

 まずは、互いの格好を隠せるようなマント、それに身を護る武器も手に入れなくちゃいけない。キャサリンは元々帯剣しているけれど、私の武器といえるものは……乗馬に使う鞭くらいしかない。この先、野営は必須だろうから、そのための食料や魔物除けもだ。

「さすがにテントは買えないわねぇ……」

 サンプルの下に置いてある値段を見て溜息が出る。

「お嬢様……まさか、本気で冒険者になろうなどと……」
「やぁねぇ、キャサリン。私にできるわけないでしょう」

 余剰金でもあれば買いたいところだけど、そんな余裕なんかないからね。
 実際、冒険者など無理な話なのだ。魔物とまともに戦ったことなどないのに、討伐のクエストなど受けられるわけもない。そもそも、今の低ランクでは、薬草採取くらいしか受けることが出来ないことは、私でもわかる。

 結局買えたのは、二人分のマント(それも古着)と、私が使えそうな短剣、魔物除けのお香に、水筒。それに、干し肉や固いパンが少しだった。これで正直、どこまで行けるのか、不安ではあるけれど、まずは先に進むのが先だ。
 私たちは買い物を終えると、すぐに宿に戻る。戻ったら急いで母に連絡をしなくては。お金を送ってください、と。

「キャサリン、お母様って冒険者の登録してるのかしら」
「っ!? え、ぞ、存じませんっ」

 今更ながら、思いついたことを呟いてみれば、キャサリンも知らないという。
 あれ、冒険者同士じゃないと送金できないんだっけ? 失敗した。そこんとこ確認してない。

「ん~、もう、ギルドに戻る気力ないから、あちらに丸投げしちゃいましょう。たぶん、お母様なら、色々知っていそうだし」
「そ、そうですね」
「で、連絡しおわったら、キャサリンは早く寝ること!」
「い、いえ、私は護衛ですから」
「……寝不足の護衛で、ちゃんと私を守れるの?」
「っ!?申し訳ございません……」

 たぶん、さっきのことを思い出しているんだろう。彼女の罪悪感を利用するのは悪いけど、ちゃんと休んでもらわないとね。
 まだ日は高いけれど、明日は早くにこの町を出なくては。目的地のモンテス伯爵領までは、確か乗合馬車で三日ほどと聞いた。馬で走れば、二日くらいで行けるはず。
 キャサリンが伝達の魔法陣で鳥を飛ばしたのを見て、すぐさまクリーンをかけてベッドに押し込む。多少の抵抗をはあったものの、ベッドに入ってしまえば、やっぱり疲れてたのか、すぐに寝息をたてはじめた。

「さてと、後は何が出来るかしら」

 無意識に耳に手をやり、考え込む。

 ……ん?

 あ、忘れてた。
 屋敷から出ていくときに、着替えの際に、邪魔になりそうなネックレスなどは取ってきたけれど。

「やだ、ピアスつけたままじゃない」

 ぶら下がるタイプのイヤリングだったら気が付いたけれど、ピアスのことはすっかり忘れていた。血のように赤くて小指の爪ほどの大きさのルビーのピアス。
 ピアスの穴は、ゴードン辺境伯領にいた時に母が開けてくれた。
 王都に来た時までは母のくれたシンプルな小さな緑色の魔石をつけていたけれど、いつだったか、アルフレッド様からのプレゼントで頂いた物に変えたのだった。普段からつけていたものだから意識すらしていなかった。
 もう私には愛着のない物となっているけど。

「これ、売れたりしないかしら」

 取り外した二つのルビーのピアスを掌に転がすと、私はニンマリと悪い顔になっていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

憎しみあう番、その先は…

アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。 俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。 そんな二人が番だった…。 憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。 * 残忍な表現があります。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...