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第3章 しつこい男は嫌われますわよ
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翌朝は日の出前には宿を出た。
宿屋のおばさんは、わざわざ私たちのためにと、お昼用にとパンと小さなリンゴを持たせてくれた。こういう些細な心遣いに、胸がいっぱいになってしまう。辛うじて泣きはしなかったけど、ちょっとうるっとした。
町を出ると、シャイたちを走らせながら、私たちはひたすらモンテス伯爵領を目指した。街道沿いには、広大な畑が広がり、魔物の影も見えないことに、安心する。所々に森や丘などはあるものの、人手が入っているところが多いと、なかなか魔物も現れないのだろう。
結局、町を出て二日目の夕方には、モンテス伯爵領の領都に到着した。
ほとんど走りっぱなしだった私たち。あまりにもボロボロ状態だったせいか、領都の門の衛兵たちに、不審者のように見られてしまった。こういう時に冒険者のギルドカードの存在がありがたいのだろう。カードを見せただけで、皆が「ああ」という顔になったのだから。
私たちはすぐに冒険者ギルドへと向かった。送金がちゃんとされてるか、心配だったのだ。キャサリンからは、私とキャサリンの口座、それぞれ送金されてるはずだ、とは言われたけれど、ちゃんとゴードン辺境伯領まで戻るのに十分な資金か不安なのだ。
さすが領都の冒険者ギルド。この前の出張所的なのとは規模が違う。石造りの立派な建物のドアを開けて中へと入っていく。真正面の受付カウンターは、五人の受付がいるみたいで、それぞれに列が出来ていたので、私たちは一番短そうな所に並んだ。
結論として、送金は無事にされていた。これで十分なのか、不安ではあるものの、まずはこの領都で寝泊まりは出来そうで安心だ。
「お嬢様」
「何、キャサリン」
「こちらで、指名依頼をしないといけないのですが」
お金を確認しながら、アイテムボックスにしまっていると、キャサリンが声を潜めて話しかけてきた。どうも、お金を受け取っている間に伝達の鳥が届いたようだ。
「……ああ! そうね。そうだったわね。で、その指名する相手の名前は?」
「それが、その……」
「どうしたの?」
「……ランクAの冒険者、ヘリウス・オラ・ウルトガ……様です」
キャサリンの言葉に頭が真っ白になった。
オラは、我が国であればオルと変換される。そう、王族という意味だ。その上、ウルトガ、というのは……我が国の北にある獣人の国、ウルトガ王国の王家。
「まさか、王族の方が、冒険者を!?」
「……お嬢様、そちらではなくてですね」
キャサリンの顔が青ざめている。何が違うのだろうか?
「お、ようやっと、俺の出番かな」
「キャッ!?」
背後からいきなり声をかけられて、思わず声をあげてしまう。
「ヘ、ヘリウス様っ」
キャサリンが青ざめた声で、身をそらせながら立上る。
――え?
「おう、だが『様』はいらねぇよ」
聞き覚えのあるイケボに、ゆっくりと振り返って見ると……。
「この前は、よくも人攫い扱いしてくれたなぁ?」
ニヤリと悪そうな笑みで私を見下ろしていたのは……あのケモミミイケメンだった。
宿屋のおばさんは、わざわざ私たちのためにと、お昼用にとパンと小さなリンゴを持たせてくれた。こういう些細な心遣いに、胸がいっぱいになってしまう。辛うじて泣きはしなかったけど、ちょっとうるっとした。
町を出ると、シャイたちを走らせながら、私たちはひたすらモンテス伯爵領を目指した。街道沿いには、広大な畑が広がり、魔物の影も見えないことに、安心する。所々に森や丘などはあるものの、人手が入っているところが多いと、なかなか魔物も現れないのだろう。
結局、町を出て二日目の夕方には、モンテス伯爵領の領都に到着した。
ほとんど走りっぱなしだった私たち。あまりにもボロボロ状態だったせいか、領都の門の衛兵たちに、不審者のように見られてしまった。こういう時に冒険者のギルドカードの存在がありがたいのだろう。カードを見せただけで、皆が「ああ」という顔になったのだから。
私たちはすぐに冒険者ギルドへと向かった。送金がちゃんとされてるか、心配だったのだ。キャサリンからは、私とキャサリンの口座、それぞれ送金されてるはずだ、とは言われたけれど、ちゃんとゴードン辺境伯領まで戻るのに十分な資金か不安なのだ。
さすが領都の冒険者ギルド。この前の出張所的なのとは規模が違う。石造りの立派な建物のドアを開けて中へと入っていく。真正面の受付カウンターは、五人の受付がいるみたいで、それぞれに列が出来ていたので、私たちは一番短そうな所に並んだ。
結論として、送金は無事にされていた。これで十分なのか、不安ではあるものの、まずはこの領都で寝泊まりは出来そうで安心だ。
「お嬢様」
「何、キャサリン」
「こちらで、指名依頼をしないといけないのですが」
お金を確認しながら、アイテムボックスにしまっていると、キャサリンが声を潜めて話しかけてきた。どうも、お金を受け取っている間に伝達の鳥が届いたようだ。
「……ああ! そうね。そうだったわね。で、その指名する相手の名前は?」
「それが、その……」
「どうしたの?」
「……ランクAの冒険者、ヘリウス・オラ・ウルトガ……様です」
キャサリンの言葉に頭が真っ白になった。
オラは、我が国であればオルと変換される。そう、王族という意味だ。その上、ウルトガ、というのは……我が国の北にある獣人の国、ウルトガ王国の王家。
「まさか、王族の方が、冒険者を!?」
「……お嬢様、そちらではなくてですね」
キャサリンの顔が青ざめている。何が違うのだろうか?
「お、ようやっと、俺の出番かな」
「キャッ!?」
背後からいきなり声をかけられて、思わず声をあげてしまう。
「ヘ、ヘリウス様っ」
キャサリンが青ざめた声で、身をそらせながら立上る。
――え?
「おう、だが『様』はいらねぇよ」
聞き覚えのあるイケボに、ゆっくりと振り返って見ると……。
「この前は、よくも人攫い扱いしてくれたなぁ?」
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