伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き

実川えむ

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第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

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 ミーシャと語り合った翌日、彼女はさっさと帰ってしまった。つれないなぁ、と思うのは、ちょっと彼女に甘えてしまっていたせいもあるかもしれない。
 それと同時に、私はキャサリンを再び、護衛として側にいることを許した。
 どうにも、私の心の中には子供な部分が根強くあるらしく、素直に謝れなかったけれど、キャサリンは泣きそうな顔で土下座をしてきたので、許すことにしたのだ。

 ヘリウスとは、相変わらず、微妙な関係である。
 以前ほどの嫌悪感を感じないのは、彼が真面目に、辺境伯の私兵たちと訓練をしている姿を見ているせいかもしれない。母も、彼が参加するのを止めない。
 そして、相変わらず、私に気をつかって、極力近寄って来ないこともあるかもしれない。

「でも、ウザい」

 そうなのだ。近寄ってはこないけど、ずっと視線を感じている。
 あれは、本人曰く、見守っている、といいたいのかもしれないが、完全にストーカーだ。
 それなのに、嫌悪感が減退しているのは、自分が番というシステムを理解したせいなのだろうか。自分でもわからない現象に、困惑するしかない。

 しばらくの間は、比較的穏やかな生活を送っていたのだが、ついに、王都から母宛に手紙が届いてしまった。それも、私を王都に出頭させよ、という召喚状だ。
 なんでも、私の方が不義密通の疑いがあるとかで、召喚に応じない場合、おじいさまを代わりに処刑するというのだ。意味不明である。

「そんなことしたら、我々が離反するのが、わからないのかね」

 執務室で手紙をヒラヒラさせながら、呆れたように言う母。
 ちゃんと玉璽も押された正式な文書に、この扱い。さすがである。

「……おじいさまは大丈夫でしょうか」

 私は不安になりながら、母に問いかける。

「フッ、あの人を殺せるような者が、王都にいるとは思えないが……あの人も、王家の茶番に付き合ってやる必要もないだろうに。そもそも、なんだい、この不義密通ってのは。浮気してたのは、あのボンクラのほうだろうに」
「……あちらでは、なかったことにしたのでは」

 執事のドナルドが、忌々しそうにそう言う。ドナルドは王都の屋敷で執事をしているポールの父である。結構な年齢のはずなのに、矍鑠としてしっかり現役でカッコいい。

「ああ、あのバカ令嬢を、始末でもしたかね」

 母の呆れたような声とは裏腹に、言われた内容に、思わず息をのむ。

「ま、まさか、そのようなこと」
「しないとは言えないねぇ。あの女のことだ。自分の思い通りにならなければ、邪魔者はさっさと消してるだろうさ……だろう? ベー」

 ベーと呼ばれはのは、短髪の黒髪に、顔の下半分を黒い布で隠した、黒装束を着た小柄で性別不詳の者。

 ――何時の間に!? まるで忍者みたい!?

 感情のない黒い目が、母へと向けられる。

「……王都では、伯爵家の令嬢は病没された、との噂が出ております」
「まさか、マリアンヌが?」

 あんな健康そのもので、ちょっとやそっとじゃ死にそうにもない女が、そんな簡単に? と思ったのも一瞬。
 むしろ、存在を消して、王妃が王太子のために、匿ってる可能性だってあるんじゃ、という疑いの心を消すことはできなかった。

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