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第8章 狼は実は大型犬だったようですわ
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獣人がスキンシップが多いのは理解した。獣人同士だけではなく、人に対しても、頭をなでたり、ハグしたり、好意の表れなのは、わかっているつもりだ。
ただ、その中でも、私が言いたかったのは……獣人特有の、所謂、発情期の発散させる行為のことだ。
それを身近な年長者が行うというのは、彼らにしてみれば、オムツを変えるような行為と一緒なのだと、聞かされた時には、唖然とした。
――あ・り・え・な・い。
そう、人として、ありえない感覚なのだ。
だけど、彼らにしてみれば、それが常識であり、一般的に行われているのだというのだ。その延長で、そのまま恋人になったり、婚姻につながる場合も、稀にあるらしい。
パティの場合、そうなりたいと思ってしまったのかもしれないけれど、元々、へリウスにはその気はなかったのだろう。
しかし。
その獣人にとって普通なことであっても、私には、許せないのだ。
私は、ゴクリと唾をのみこみ、どう言うべきか、言葉を選びながら話し始める。
「えと、その……貴方がパティにしたようなこと、これからも他の誰かにもするんだったら、絶対、無理」
「……パティにしたこと?」
首を傾げているあたり、全然、まったく、思い当たっていないことが容易に想像できた。
女の私から、こんなこと言わせるなんて。恥ずかしくて、頬が赤くなる。
「はぁ……」
思いっきり溜息をつくと、ビクンッと肩を揺らして、一気に不安そうな顔になった。
「わ、悪い、どうにも、思い浮かばなくて……ど、どの行為のことを言ってるんだ?」
「……貴方、ミーシャが言ってたこと、覚えてないんではなくて?」
こっちは恥を忍んで、言っていたのにっ!
「え、あいつ、なんか言ってたっけ……」
まったく理解していないへリウスに、堪忍袋の緒が切れた。
「まぁっ! あんな破廉恥な行為をしておいて、覚えていないなんてっ! 獣人には当たり前であっても、私たち人族には不貞行為にあたるのよ! それを理解していないなら、絶対、無理! 嫌! さっさと城から出てって!」
立ち上がって叫ぶ、私の猛烈な怒りに、へリウスの顔色が真っ青になる。
「ふ、不貞行為!? え? あ、もしかして、発情期のアレかっ!」
アレか! じゃないわよっ!
これ以上叫ぶのははしたない、と思って我慢するんだけど、体がブルブルと震えるのは抑えられない。
「あ、いや、アレは、しない、大丈夫だ!」
「何が大丈夫なのよっ!」
「アレは、番がいない者しかできないんだ」
「貴方には、私がいたじゃないっ!」
そう、番がいたらできないなんて、言い訳に過ぎない。
「ちゃ、ちゃんと、番っていないとダメなんだよ!」
……はい?
「だから、その、ちゃんと番になっていると、アレはできなくなるんだ」
「なによ、それじゃ……私と番っていないから、ああいう行為をしたっていうの?」
「あ、う、うん、まぁ、それが、普通のことだったし……」
私の顔から表情が抜け落ちた。
「じゃぁ、何。へリウス。その理屈だと、貴方は、私が他の男性と、そういうことをしても、理解できる、ということよね?」
「なんだと! そんなこと許さないっ!」
そう叫んで立ち上がったと同時に、自分がしたことを思い返したのか「あっ」と声を漏らして、固まった。
ただ、その中でも、私が言いたかったのは……獣人特有の、所謂、発情期の発散させる行為のことだ。
それを身近な年長者が行うというのは、彼らにしてみれば、オムツを変えるような行為と一緒なのだと、聞かされた時には、唖然とした。
――あ・り・え・な・い。
そう、人として、ありえない感覚なのだ。
だけど、彼らにしてみれば、それが常識であり、一般的に行われているのだというのだ。その延長で、そのまま恋人になったり、婚姻につながる場合も、稀にあるらしい。
パティの場合、そうなりたいと思ってしまったのかもしれないけれど、元々、へリウスにはその気はなかったのだろう。
しかし。
その獣人にとって普通なことであっても、私には、許せないのだ。
私は、ゴクリと唾をのみこみ、どう言うべきか、言葉を選びながら話し始める。
「えと、その……貴方がパティにしたようなこと、これからも他の誰かにもするんだったら、絶対、無理」
「……パティにしたこと?」
首を傾げているあたり、全然、まったく、思い当たっていないことが容易に想像できた。
女の私から、こんなこと言わせるなんて。恥ずかしくて、頬が赤くなる。
「はぁ……」
思いっきり溜息をつくと、ビクンッと肩を揺らして、一気に不安そうな顔になった。
「わ、悪い、どうにも、思い浮かばなくて……ど、どの行為のことを言ってるんだ?」
「……貴方、ミーシャが言ってたこと、覚えてないんではなくて?」
こっちは恥を忍んで、言っていたのにっ!
「え、あいつ、なんか言ってたっけ……」
まったく理解していないへリウスに、堪忍袋の緒が切れた。
「まぁっ! あんな破廉恥な行為をしておいて、覚えていないなんてっ! 獣人には当たり前であっても、私たち人族には不貞行為にあたるのよ! それを理解していないなら、絶対、無理! 嫌! さっさと城から出てって!」
立ち上がって叫ぶ、私の猛烈な怒りに、へリウスの顔色が真っ青になる。
「ふ、不貞行為!? え? あ、もしかして、発情期のアレかっ!」
アレか! じゃないわよっ!
これ以上叫ぶのははしたない、と思って我慢するんだけど、体がブルブルと震えるのは抑えられない。
「あ、いや、アレは、しない、大丈夫だ!」
「何が大丈夫なのよっ!」
「アレは、番がいない者しかできないんだ」
「貴方には、私がいたじゃないっ!」
そう、番がいたらできないなんて、言い訳に過ぎない。
「ちゃ、ちゃんと、番っていないとダメなんだよ!」
……はい?
「だから、その、ちゃんと番になっていると、アレはできなくなるんだ」
「なによ、それじゃ……私と番っていないから、ああいう行為をしたっていうの?」
「あ、う、うん、まぁ、それが、普通のことだったし……」
私の顔から表情が抜け落ちた。
「じゃぁ、何。へリウス。その理屈だと、貴方は、私が他の男性と、そういうことをしても、理解できる、ということよね?」
「なんだと! そんなこと許さないっ!」
そう叫んで立ち上がったと同時に、自分がしたことを思い返したのか「あっ」と声を漏らして、固まった。
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