61 / 81
第9章 ケモミミに絆されてしまったようです
54
しおりを挟む
私たちが、ああだ、こうだとやっている間に、城内がかなり騒がしいことになっていた。
「どうかしたの」
部屋から出たら、こんな状況になっていることに戸惑った私は、ドアの前に立っていたキャサリンに問いかけるが、彼女も詳しい話はわからないようだ。
「まずは、ファリアのところに戻ろう」
冷静なへリウスの言葉に素直に頷くと、私たちは母のいる執務室へ向かう。
その間、何人かとすれ違ったが、一様に緊張した面持ちで、私たちに声をかけてくる余裕もなさそうだった。
……何があったのか。
不安な思いのまま、執務室のドアをノックすると、すぐに入室の許可が入った。
「お母様、何事ですか」
デスクの前には厳しい顔の母と、久しぶりに国境の砦から城に戻ってきていた私兵団の団長で、次期辺境伯の叔父が立っている。
「メイリンか……王都からこちらに戻る途中だった親父が襲われたらしい」
「なっ!? そ、その襲った者たちは、バカですか!?」
お祖父様が辺境伯をしているのは、伊達じゃない。
今でこそ母が前面に出て戦うことが多いようだけれど、それまでは、お祖父様がいるからこそ、この国境が守られているといっても過言ではなかった。
いまだに、隣国ナディス王国では『トーレスの銀髪のオーガ』という異名で呼ばれているらしい。私には、ただただ優しいお祖父様だけど。そんな人相手に襲ってくるなんて。
「まぁ、バカなんだろうな。相手側は、ほぼ壊滅状態らしいから」
「じゃぁ、なぜ」
「そのバカどもが、魔物を集魔香で誘きよせたらしい」
そう答えたのは、お祖父様そっくりの叔父。だいぶ若いけど、次代の『トーレスの銀髪のオーガ』の片鱗を見せている。
「そ、それでも、お祖父様でしたら」
「確かに、親父一人だったらよかったんだが、今回、王都の屋敷にいる者たち、全員でこちらに戻るところだったらしい」
逃亡する時に、王家とのあれやこれやを押し付けてしまった、お祖父様。結局、あんな手紙が届くあたり、まったく話は通らなかったのだろう。
その上、嫌がらせなのか、いろいろと妨害工作があったそうで(商人たちとのやりとりとか、警備に関するいちゃもんだとか)、さすがのお祖父様も最終的には、「こんなところにいられるかっ!」と、怒り爆発だったそうな。
「……王家もバカなの?」
「まぁ、バカな奴もいるということだろうな」
王妃がどうこう、というよりも、その指示を受けている者がバカなんだろう。
「で、警護の者もいるにはいるんだが、同行者の中の数人に怪我人も出てしまって、移動に時間がかかっているようだ」
バカはバカなりに、やらかしてくれた。
お祖父様たちはゴードン辺境伯領に向かう所だったから、その魔物に追いかけられるような形になっているらしいんだけど、どうも、半分は王都方面へと向かっているらしい。それも、かなりの数が。
「……ねぇ、それって、もはや、スタンピードなんじゃないの?」
私の言葉に、皆が口をつぐむ。否定の言葉が出てこないあたり、皆、同じようなことを考えていた、ということなのだろう。
「メイリン、貴女はこの城に残りなさい。ルドルフは急ぎ国境に戻れ、私は親父を迎えに行ってくる」
「お母様……」
「最近、国境付近で怪しい動きがあるんだよ。ルドルフも、その報告に今日は来ていたんだが。今回はちょいとばかり、タイミングが良すぎる。万が一ということもある。ナディスのバカ共が絡んでいないとも限らないからね」
母の言葉に、まさか、ナディス王国まで絡んでくる可能性があるなんて、と、驚いてしまう。
「ヘリウスは、メイリンとともにこの城を任せるよ。あんた、それでも一応、王子様なんだろ、お姫様くらい守り通せよ」
……王子様ってキャラじゃないと思うんだけど。
思わず、顔をひくつかせる私をよそに、へリウスは頬を染めて、胸をはり、「任せろ!」と自信満々だ。
「どうかしたの」
部屋から出たら、こんな状況になっていることに戸惑った私は、ドアの前に立っていたキャサリンに問いかけるが、彼女も詳しい話はわからないようだ。
「まずは、ファリアのところに戻ろう」
冷静なへリウスの言葉に素直に頷くと、私たちは母のいる執務室へ向かう。
その間、何人かとすれ違ったが、一様に緊張した面持ちで、私たちに声をかけてくる余裕もなさそうだった。
……何があったのか。
不安な思いのまま、執務室のドアをノックすると、すぐに入室の許可が入った。
「お母様、何事ですか」
デスクの前には厳しい顔の母と、久しぶりに国境の砦から城に戻ってきていた私兵団の団長で、次期辺境伯の叔父が立っている。
「メイリンか……王都からこちらに戻る途中だった親父が襲われたらしい」
「なっ!? そ、その襲った者たちは、バカですか!?」
お祖父様が辺境伯をしているのは、伊達じゃない。
今でこそ母が前面に出て戦うことが多いようだけれど、それまでは、お祖父様がいるからこそ、この国境が守られているといっても過言ではなかった。
いまだに、隣国ナディス王国では『トーレスの銀髪のオーガ』という異名で呼ばれているらしい。私には、ただただ優しいお祖父様だけど。そんな人相手に襲ってくるなんて。
「まぁ、バカなんだろうな。相手側は、ほぼ壊滅状態らしいから」
「じゃぁ、なぜ」
「そのバカどもが、魔物を集魔香で誘きよせたらしい」
そう答えたのは、お祖父様そっくりの叔父。だいぶ若いけど、次代の『トーレスの銀髪のオーガ』の片鱗を見せている。
「そ、それでも、お祖父様でしたら」
「確かに、親父一人だったらよかったんだが、今回、王都の屋敷にいる者たち、全員でこちらに戻るところだったらしい」
逃亡する時に、王家とのあれやこれやを押し付けてしまった、お祖父様。結局、あんな手紙が届くあたり、まったく話は通らなかったのだろう。
その上、嫌がらせなのか、いろいろと妨害工作があったそうで(商人たちとのやりとりとか、警備に関するいちゃもんだとか)、さすがのお祖父様も最終的には、「こんなところにいられるかっ!」と、怒り爆発だったそうな。
「……王家もバカなの?」
「まぁ、バカな奴もいるということだろうな」
王妃がどうこう、というよりも、その指示を受けている者がバカなんだろう。
「で、警護の者もいるにはいるんだが、同行者の中の数人に怪我人も出てしまって、移動に時間がかかっているようだ」
バカはバカなりに、やらかしてくれた。
お祖父様たちはゴードン辺境伯領に向かう所だったから、その魔物に追いかけられるような形になっているらしいんだけど、どうも、半分は王都方面へと向かっているらしい。それも、かなりの数が。
「……ねぇ、それって、もはや、スタンピードなんじゃないの?」
私の言葉に、皆が口をつぐむ。否定の言葉が出てこないあたり、皆、同じようなことを考えていた、ということなのだろう。
「メイリン、貴女はこの城に残りなさい。ルドルフは急ぎ国境に戻れ、私は親父を迎えに行ってくる」
「お母様……」
「最近、国境付近で怪しい動きがあるんだよ。ルドルフも、その報告に今日は来ていたんだが。今回はちょいとばかり、タイミングが良すぎる。万が一ということもある。ナディスのバカ共が絡んでいないとも限らないからね」
母の言葉に、まさか、ナディス王国まで絡んでくる可能性があるなんて、と、驚いてしまう。
「ヘリウスは、メイリンとともにこの城を任せるよ。あんた、それでも一応、王子様なんだろ、お姫様くらい守り通せよ」
……王子様ってキャラじゃないと思うんだけど。
思わず、顔をひくつかせる私をよそに、へリウスは頬を染めて、胸をはり、「任せろ!」と自信満々だ。
11
あなたにおすすめの小説
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
憎しみあう番、その先は…
アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。
俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。
そんな二人が番だった…。
憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。
* 残忍な表現があります。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる