伯爵令嬢はケダモノよりもケモミミがお好き

実川えむ

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第9章 ケモミミに絆されてしまったようです

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 私は今、王都へ向かう街道側にある城壁の上に立っている。
 目の前には、開墾された土地が広がっている。スタンピードの話が来た時点で、城壁周辺の木々が伐採された。まだ、いくつかの場所で伐採は続けられている。
 魔物たちが領都に接近した場合に、大規模魔法の内容によっては火災が起こる可能性があるからだ。
 土の精霊を貸してもらえたんだし、このスタンピードが落ち着いたら、耕してもらってもいいかも、なんて考えている私の隣には、キャサリンと文官の一人が、この領都周辺の地図を開いて見ている。
 そして私の背後には、その土の精霊たち。大量の黄色い光の球が浮かんでいて、周囲からは、不気味なモノでも見るような目を向けられている。まぁ、確かに、不気味だけどさ。
 まだ、街道にはお祖父様たちの姿は見えないし、魔物の気配も感じられない。空は普通に青くて、全然、スタンピードの気配すらないけれど、それが目に入ってからでは遅すぎる。

「とりあえず、まずは街道沿いに高い壁を立ててくれる?」

 私の言葉に、黄色い光たちが一気に街道の方へと飛んでいく。その飛んでいく方向へと、ドドドッと勢いよく高さが三メートルくらいありそうな土壁が作られていく。

「……凄いですね」
「うん、凄い」

 キャサリンと文官が呟いている。私も唖然としてしまったが、目の前を黄色い光がふよふよと浮かんで、『これで終わり?』みたいに見ているように見えたので、慌てて次の指示を出した。



 結局、日が傾き始めた頃、伐採された土地の半ばくらいの所に、ぐるりと領都を囲むように分厚い土壁が出来上がっている。元々ある城壁よりも高さも厚みもあって、丈夫そうだ。
 土壁の内側には、かなり深い堀があり、底はとげとげ。落ちたら、悲惨な状態になるのは目に見えている。万が一、土壁を登ってこられても、そこに落ちてくれれば、少しは戦力を削れるのではないか、と期待している。
 そして街道だけがこの領都への入口になり、一気には入って来れない。お祖父様たちが入ってきたらすぐに入口を閉めれば、例え追いつかれていたとしても、大量の魔物を相手にすることにはならないはずだ。

「メイリン様っ!」

 城壁に備え付けられている展望台の方から、衛兵の一人が小型の望遠鏡を手に、駆け寄ってきた。

「ご、ご領主様の馬車が見えてきましたっ」
「やっとね!」

 私は慌てて街道の方へと目を向けるけれど、まだ土壁のところまで来ていないのか、姿が確認できない。
 森の方のかなり遠くで、何かが爆発したかのように土埃が舞っているのが見えた。そして、あちこちで、いくつか煙があがり始めた。さすがに森の中、火の魔法は使えないのか、木々の間からは、土の大きな棘があちこちで生えたり、いくつもの氷の槍が日の光にきらめいたりしている。凄い。

 ――馬車が見えた!

 街道を走る馬車の様子を見るために、思わず城壁の端で身を乗り出す。
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