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第10章 やっぱり、ケダモノよりもケモミミが好き
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実際、猫、というよりも、もっと獰猛な黒豹とか、そんな感じの獣人。しなやかな身体が黒い服で隠しきれていない。むしろ強調すらしている。黒く太い尻尾が苛立たしそうに、ブルブルと揺れている。なかなかに精悍な顔立ちで、裏仕事とかしてそう……な感じ。
「モルダー」
「我が姪が、誠に申し訳なきことを」
「……うむ」
どうもへリウスの知り合いっぽい。彼の部下か何かだろうか。
ていうか、モルダーさんの姪って……全然、似てないな。パティ。
「ぐぅ……お、おじざっ、ん……ぐ、ぐるじぃぃ……」
「黙れっ」
ふおぉぉぉっ。
怒り駄々洩れのオーラに、私が言われたわけじゃないのに、畏怖に身体が震える。パティの方も、恐怖に目を見開いている。
「まさか、自分の身内がヘリウス様の番様に手を出そうなどとするとはっ! この場で切って捨てないだけ、ありがたいと思えっ」
うん、やめて。
ここ、私の部屋。血まみれにされたくはない。
どうもモルダーさんは、ひっそりと私の護衛をしてくれていたらしい。元々、ウルトガ王国の王族専用の影護衛の人だそうで、へリウスが依頼してくれてたようだ。
王族専用の方にだなんて……なんか、こちらの方が申し訳なくなるんだけど。
「そ・れ・と、王太子殿の護衛殿、貴方までなぜこんな時間にここにいるのかなぁ?」
へリウスにぐりぐりと床に押し付けられた護衛騎士は、苦痛のあまり、顔が凄いことになっている。二人いたうちの一人だろう。もう一人は、ちゃんと護衛しているのだろうか。
「あー、へリウス? とりあえず、そのぉ、一応は王太子付きだからさ、ほどほどにね」
「あ゛?」
「いや、後々、面倒なことになるかなぁ、と」
「ふんっ、面倒になる前に、身ぐるみ剥いで森にでも放り込めば、魔物が消してくれるぞ?」
「なっ!?」
怖い顔で意地悪なことを言うへリウスに、護衛騎士は真面目に受け取ったのか、カタカタ震えだしている。
……いや、マジで、王太子の護衛がこれでいいのか?
そんな呆れているところに。
「メイリンっ、大丈夫……か?」
うん、王太子もちゃんと服着てるね。
……もしかして、この状況、王太子たちの陰謀的な感じ?
全然、上手くいってないけどね。
「ええ、大丈夫ですわ……へリウスたちが防いでくれたので……まさか……まーさーかー、王太子様の護衛騎士が襲ってくるとは、思いもしませんでしたわ~」
「ひっ!?」
冷ややかに見下ろす私に、王太子の顔が青ざめている。彼の後ろにいるもう一人の護衛騎士も顔が白い。
「せっかく、お部屋をご用意したのに、ずいぶん早くにお立ちになるようですね? 残念だわぁ~。今日には戻られるはずのお祖父様やお母様にも、ご挨拶させていただきたかったんですが」
全然、そんなことは思ってもいないけど。
むしろ、お祖父様たちにこんなことがバレたら、本当に命はないと思うの。
「さぁ、さっさと王都にお帰りを……帰り道のご無事をお祈りいたしておりますわ」
ニヤリと笑った私の顔は、よっぽども恐ろしかったのか……王太子だけでなく護衛騎士までもが、酷い顔色になっていた。
自業自得である。
「ああ、それと……あんまり辺境に酷いことをなさると、『守護の枝』がどうなるか、お考え下さい、と、王妃様にお伝えくださいな」
じろりと睨みつけて、そう言い放つ。
これは、ほとんど、はったりである。
しかし、私が強く願えば、『守護の枝』は私の元に来てくれる。それは、あのスタンピードで実感した。たぶん、彼らもそれを見越して、王太子をこちらにやったのかもしれない。
「そうそう、忘れていたがな」
ずるりんと、護衛騎士を持ち上げて、もう一人の方へと放り投げる。受け取る方のことも考えてあげなさいよ。二人ともが尻もちついてて気の毒になる。
「近々、我が国の者がそちらに伺うことになるだろう……私とメイの婚姻のことでな」
「なっ!?」
へリウスの悪そうな顔に、一方の王太子の顔は真っ白。
私の方は寝耳に水で、そんな話、聞いてないしっ。
「へ、へリウス?」
「すまんな、メイ。番の話はすでに本国に話してあってな……そのぉ、もう、あちらは乗り気なのだよ」
き、聞いてないよぉぉっ!
「モルダー」
「我が姪が、誠に申し訳なきことを」
「……うむ」
どうもへリウスの知り合いっぽい。彼の部下か何かだろうか。
ていうか、モルダーさんの姪って……全然、似てないな。パティ。
「ぐぅ……お、おじざっ、ん……ぐ、ぐるじぃぃ……」
「黙れっ」
ふおぉぉぉっ。
怒り駄々洩れのオーラに、私が言われたわけじゃないのに、畏怖に身体が震える。パティの方も、恐怖に目を見開いている。
「まさか、自分の身内がヘリウス様の番様に手を出そうなどとするとはっ! この場で切って捨てないだけ、ありがたいと思えっ」
うん、やめて。
ここ、私の部屋。血まみれにされたくはない。
どうもモルダーさんは、ひっそりと私の護衛をしてくれていたらしい。元々、ウルトガ王国の王族専用の影護衛の人だそうで、へリウスが依頼してくれてたようだ。
王族専用の方にだなんて……なんか、こちらの方が申し訳なくなるんだけど。
「そ・れ・と、王太子殿の護衛殿、貴方までなぜこんな時間にここにいるのかなぁ?」
へリウスにぐりぐりと床に押し付けられた護衛騎士は、苦痛のあまり、顔が凄いことになっている。二人いたうちの一人だろう。もう一人は、ちゃんと護衛しているのだろうか。
「あー、へリウス? とりあえず、そのぉ、一応は王太子付きだからさ、ほどほどにね」
「あ゛?」
「いや、後々、面倒なことになるかなぁ、と」
「ふんっ、面倒になる前に、身ぐるみ剥いで森にでも放り込めば、魔物が消してくれるぞ?」
「なっ!?」
怖い顔で意地悪なことを言うへリウスに、護衛騎士は真面目に受け取ったのか、カタカタ震えだしている。
……いや、マジで、王太子の護衛がこれでいいのか?
そんな呆れているところに。
「メイリンっ、大丈夫……か?」
うん、王太子もちゃんと服着てるね。
……もしかして、この状況、王太子たちの陰謀的な感じ?
全然、上手くいってないけどね。
「ええ、大丈夫ですわ……へリウスたちが防いでくれたので……まさか……まーさーかー、王太子様の護衛騎士が襲ってくるとは、思いもしませんでしたわ~」
「ひっ!?」
冷ややかに見下ろす私に、王太子の顔が青ざめている。彼の後ろにいるもう一人の護衛騎士も顔が白い。
「せっかく、お部屋をご用意したのに、ずいぶん早くにお立ちになるようですね? 残念だわぁ~。今日には戻られるはずのお祖父様やお母様にも、ご挨拶させていただきたかったんですが」
全然、そんなことは思ってもいないけど。
むしろ、お祖父様たちにこんなことがバレたら、本当に命はないと思うの。
「さぁ、さっさと王都にお帰りを……帰り道のご無事をお祈りいたしておりますわ」
ニヤリと笑った私の顔は、よっぽども恐ろしかったのか……王太子だけでなく護衛騎士までもが、酷い顔色になっていた。
自業自得である。
「ああ、それと……あんまり辺境に酷いことをなさると、『守護の枝』がどうなるか、お考え下さい、と、王妃様にお伝えくださいな」
じろりと睨みつけて、そう言い放つ。
これは、ほとんど、はったりである。
しかし、私が強く願えば、『守護の枝』は私の元に来てくれる。それは、あのスタンピードで実感した。たぶん、彼らもそれを見越して、王太子をこちらにやったのかもしれない。
「そうそう、忘れていたがな」
ずるりんと、護衛騎士を持ち上げて、もう一人の方へと放り投げる。受け取る方のことも考えてあげなさいよ。二人ともが尻もちついてて気の毒になる。
「近々、我が国の者がそちらに伺うことになるだろう……私とメイの婚姻のことでな」
「なっ!?」
へリウスの悪そうな顔に、一方の王太子の顔は真っ白。
私の方は寝耳に水で、そんな話、聞いてないしっ。
「へ、へリウス?」
「すまんな、メイ。番の話はすでに本国に話してあってな……そのぉ、もう、あちらは乗り気なのだよ」
き、聞いてないよぉぉっ!
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