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第2章 新入社員の私に人気俳優の彼
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卒業と同時に、大学時代から住んでいた学生会館から、今のマンションに引っ越してきた。駅から少し歩くけど、会社のある駅まで三駅だったら全然近いと思った。家賃はちょっと高いな、と思ったけど、場所やセキュリティとか考えたら、これくらいが妥当かなと。
駅前のコンビニで、から揚げと牛乳買って、家に向かう。野菜不足だよなぁと、思いながら、とぼとぼと歩く道は、人通りも少ない。
そろそろ見慣れているはずの、街灯のポツンポツンとついた通りは、マンションまで繋がっている気がしない。
あの角を曲がれば、と思った時、ふと、誰かにつけられてる? と感じた。
歩くペースを変えずに、肩から下げている鞄のショルダーの部分をギュッと握った。足音が聞こえるわけでもないけど、なんとなく不安を感じたのだ。
鞄の小さいポケットからマンションの鍵を出して握った。
あの角を曲がったら、もうマンションは目の前。そのままのペースで曲がってから、猛ダッシュ。
この時ほど、通勤用のスニーカー履いててよかったと思ったことはない。
マンションのエントランスに入り、すぐに鍵をあけてエレベーターホールへ向かう。久しぶりに全速力で走ったから、息があがる。
こういう時に限って、エレベーターは最上階まで行ってしまってる。
さすがに、鍵がなければこのマンションには入ってこれないだろう、と思って、ふっとエントランスホールを見ると、グレーのパーカーにキャップを被った背の高い男が、鍵を使って入ってきた。
「な、なんだ。同じマンションの住人か」
一人で何焦ってるんだ、と苦笑いしながら、やっと来たエレベーターに乗り込んだ。
私の部屋のあるフロアの『5』のボタンを押す。さっきの人は、乗るのかな、でも、ちょっと怖いし、と、すぐに『閉』のボタンを押してしまった。
ゆっくりと閉まっていくドア。
ガツンっ
「キャッ!」
さっきの男が、閉まる瞬間に手をいれてドアを止めると、無言で乗り込んでくる男。あんまり怖いものだから、見上げることもできなかった。
それでもなんとか声を震わせながら、「な、何階ですか?」と聞いたのに、何も答えず、奥の方に立つ男。
ひ、ひえぇぇぇ。こ、怖すぎるっ!
たとえ、ぽっちゃりで男に興味もたれなかろうとも、怖いものは怖い。
早く、早く、早く……!
後ろの男は、何をするでもなく、微動だにしない。
それが余計に怖い。
ヴルルルルル ヴルルルルル
スマホの着信の振動音。慌てて、鞄をあけてみるが、私のではない。
ヴルルルルル ヴルルルルル
早く出ればいいのに、男はずっと鳴らしたまま。
ようやく五階に到着し、速足で自分の部屋の前へ。あの男も五階で降りたみたいだけど、ちょうど反対側のほうに歩いていく。
手が震えて、なかなか鍵が入らない。
し、深呼吸しよう、深呼吸!
大きく息を吸い込んで、思い切り吐き出して、鍵を差し込む。よし、入った!
ドアを開けて部屋に入ってすぐに鍵をかけ、チェーンもつけた。
「こ、怖かった」
薄ら、目に涙を浮かべながら、その場にしゃがみ込んだ。
駅前のコンビニで、から揚げと牛乳買って、家に向かう。野菜不足だよなぁと、思いながら、とぼとぼと歩く道は、人通りも少ない。
そろそろ見慣れているはずの、街灯のポツンポツンとついた通りは、マンションまで繋がっている気がしない。
あの角を曲がれば、と思った時、ふと、誰かにつけられてる? と感じた。
歩くペースを変えずに、肩から下げている鞄のショルダーの部分をギュッと握った。足音が聞こえるわけでもないけど、なんとなく不安を感じたのだ。
鞄の小さいポケットからマンションの鍵を出して握った。
あの角を曲がったら、もうマンションは目の前。そのままのペースで曲がってから、猛ダッシュ。
この時ほど、通勤用のスニーカー履いててよかったと思ったことはない。
マンションのエントランスに入り、すぐに鍵をあけてエレベーターホールへ向かう。久しぶりに全速力で走ったから、息があがる。
こういう時に限って、エレベーターは最上階まで行ってしまってる。
さすがに、鍵がなければこのマンションには入ってこれないだろう、と思って、ふっとエントランスホールを見ると、グレーのパーカーにキャップを被った背の高い男が、鍵を使って入ってきた。
「な、なんだ。同じマンションの住人か」
一人で何焦ってるんだ、と苦笑いしながら、やっと来たエレベーターに乗り込んだ。
私の部屋のあるフロアの『5』のボタンを押す。さっきの人は、乗るのかな、でも、ちょっと怖いし、と、すぐに『閉』のボタンを押してしまった。
ゆっくりと閉まっていくドア。
ガツンっ
「キャッ!」
さっきの男が、閉まる瞬間に手をいれてドアを止めると、無言で乗り込んでくる男。あんまり怖いものだから、見上げることもできなかった。
それでもなんとか声を震わせながら、「な、何階ですか?」と聞いたのに、何も答えず、奥の方に立つ男。
ひ、ひえぇぇぇ。こ、怖すぎるっ!
たとえ、ぽっちゃりで男に興味もたれなかろうとも、怖いものは怖い。
早く、早く、早く……!
後ろの男は、何をするでもなく、微動だにしない。
それが余計に怖い。
ヴルルルルル ヴルルルルル
スマホの着信の振動音。慌てて、鞄をあけてみるが、私のではない。
ヴルルルルル ヴルルルルル
早く出ればいいのに、男はずっと鳴らしたまま。
ようやく五階に到着し、速足で自分の部屋の前へ。あの男も五階で降りたみたいだけど、ちょうど反対側のほうに歩いていく。
手が震えて、なかなか鍵が入らない。
し、深呼吸しよう、深呼吸!
大きく息を吸い込んで、思い切り吐き出して、鍵を差し込む。よし、入った!
ドアを開けて部屋に入ってすぐに鍵をかけ、チェーンもつけた。
「こ、怖かった」
薄ら、目に涙を浮かべながら、その場にしゃがみ込んだ。
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