おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ

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第5章 クリスマスの私と人気俳優の彼

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 クリスマスイブ。『それって美味しいんですか?』と言いたくなるくらい、まったくクリスマスらしいことの予定なし。
 遼ちゃんは映画の撮影がずっと続いているようで、地方に行ってていないし。

『ごめんね』

 うっ。いいもん。お仕事だもんね。仕方ないもんね。
 そういう私も、仕事が忙しいといって、なかなか会うタイミングが合わなかったのも事実。
 事務所の公式サイトに載ってるイケメンに撮れてる自撮り写真を見ながら、我慢する日々。今まで会ってもスマホに一緒に撮るのを忘れちゃう。これじゃ、ファンと変わらない。首にしたネックレスとL〇NEでのやりとりだけが、私と遼ちゃんが繋がってる証。
 会わない時間が愛を育てるって昔の歌にはあったけど、私はどんどん『自信がない自分』が育ってる。

 続々とフロアの人々が帰っていく中、うちのチームだけ残っている。

「神崎、そろそろ上がれば?」
「あー、あと少し……やりたいことがあるんで……」

 というか、下手に家に帰って、いろいろ考えたくない、という情けない理由があるものだから、自然と情けない顔になる。

「んー、じゃあ、時間区切ろう。今日みたいな日に、だらだら仕事しても精神衛生上よくない」

 ニヤっと笑って時計を見上げる本城さん。

「神崎、この後、予定ないのか?」

 顔をあげずに、聞いてくる笠原さん。そんなこと聞くなんて、辛すぎる。

「残念ながら、ございません」
「本城は?」
「……それ、聞く? この時間に?」

 苦笑いしながらも、相変わらずパソコンから顔をそらさない笠原さん。

「じゃあ、あと一時間で終わらせよう。で、飲みに行こうぜ。寂しい者同士で」
「さ、寂しい者……悲しいです……」

 はぁ、とため息をつき、一時間後に終わらせるように気持ちを引き締める。結局、強引に終わらせて会社を出るはめになる。

「なんか、情けないわねぇ」
「はっはっは、仕方ないだろ」
「ていうか、色気がないというか」
「なんだよ、文句言わずに、飲め」

 ガード下の飲み屋。仕事があがった頃に入ろうと思ってた店は満席で、寒さに負けて、放浪の旅は断念。駅の近くのこの店に入った。
 コートの襟をたてながら、アルコールの力が暖房代わり。確かに同僚三人で、ガード下の飲み屋で、つまみをつつきつつ飲んでる姿には、色気の『い』の字もない。

「というか、なんで本城、予定ないって」

 笠原さんの頭の少し上あたりを、まるで睨むように見ながら、ぽつりと言ったのは。

「今、冷却期間中」
「はぁ!?」

 初耳だったのか、笠原さんが驚いた顔で本城さんを見つめた。

「なんだ、それ。聞いてないし」
「私は今言ったし」
「てか、崇《たかし》も水臭いよなぁ」
「言う必要もないし」

 ぶすっとした顔で、おでんをつつく本城さん。

「あ、坂本さんって、崇っていうんですか」
「うん……って、なんで神崎さんが知ってるのよ」

 笠原さんを睨む本城さん。

「まぁ、なんだ。別にいいじゃん」

 苦笑いしながら、空いているグラスを戻す仕事をする。さすが、フットワーク軽い。

「冷却期間って、このまま別れるのか?」
「……わかんない」
「なんだよ、俺はすっかり結婚式のスピーチを任せられると思って、準備してたのに」
「ぷっ。あんたに頼むとは限らないでしょうが」

 本当に二人は仲がいいんだなぁ、と、つくづく思う。

「……しばらく離れてみて、やっぱりお互いが必要って思えば、戻るだろうし、いなくてもなんとかなっちゃった、っていうなら、そのまま別れるだろうし」
「冷めてんなぁ」
「なんかねぇ、お互いが結婚を意識したタイミングがずれてたっていうか。今は、二人ともが、仕事が楽しいっていうか。まぁ、坂本くんは異動決まったばっかりで、余裕もないし」
「本当にタイミングって大事なんですね……」

 しみじみ思いながら、梅酒をちびり。

「そうよ~。本当に大事。ここぞ! という時が来たら、迷わずGO!よっ!」

 経験者の発言は重い、と、つくづく思った。
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