吸血鬼な俺と、美しく狂った祓魔師の話――これは最悪で最強の共犯契約

渋谷 楽(シブヤ ガク)

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第7章「共鳴する心、動き出す運命」

第47話「共犯者たち」

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『まずい。このままじゃ』

 流れ弾を恐れない神殿の守り手たちの銃撃によって、櫻の精神は削れていく。

 正也の一振りと櫻の的確な状況判断は的確だが、戦況を覆すまでには至らない。

 そのとき、遠くから一発の銃声が櫻の耳に届く。

『とうとう幻聴まで聞こえるようになったか』

 櫻が自嘲気味に笑った次の瞬間、風が吹いた。

 その風は櫻の火照った身体を僅かに冷やし、彼女に顔を上げる余裕をもたらした。

「――ボロボロね。みっともない」

 そこには、こちらに背を向けるリンの姿が。

 戦場が、動きを止めた。

「君、何で」

 目を見開く櫻。

 しかし、リボルバーを握ったリンは笑みを浮かべながら振り向いた。

「何でって、あなたが言ったんでしょ。一緒に行こうって」

「でも、良いのか」

「良いの」

 リンは前に向き直り、そして空を見上げる。

「やっと、胸が軽くなった気がするから」

 スズや櫻と比べてまだ短い黒髪が風に揺れ、櫻は目を細めた。

「おいおい、やっと来たのかよ」

 傷だらけの正也は悪戯っぽい笑みを浮かべながらリンに並び立つ。

「覚悟は出来てんのかよ」

「そっちこそ、ここまで来てやっぱり無理でしたは無しだからね?」

「こっちの台詞だ」

「何をしている。筧」

 神殿の守り手の一人がリンに銃口を向ける。

「これが何を意味するかわかっているのか」

「ええ、もちろん、わかってる」

 リンは俯きがちに、薄ら笑いを浮かべながら答える。

「これは裏切り。明確な裏切り」

「お前は混乱しているんだ。早く戻れ筧リン!」

「あんたらが知ってる筧リンはもう死んだ!」

 瞬間、発砲。

 男の持っていたリボルバーが弾き飛ばされる。

「いや、正確には、生きていなかったと言うべきね」

 あまりに突然の出来事によって静寂に包まれる戦場の中、リンは落ち着いた所作でリロードをする。

「改めて自己紹介するわ。私は筧リン」

 そして、次の標的に素早く照準を合わせた。

「良い顔で死ぬ女よ」

 再び、銃声。

 それを合図に、櫻と正也は走り出す。

「殺すなッ!」

 リンの怒号が響き渡り、櫻は口角を吊り上げる。

「嫌いじゃないよ。そういうのッ!」

 リボルバーを吹き飛ばされた男の懐に、櫻は素早く侵入する。

 そして、その首を素早く手刀で叩いた。

「クソッ!」

 櫻に襲われた仲間を守ろうと構えたリボルバーを、リンはまたもや吹き飛ばした。

「お前ッ」

「わかってる」

 男の怒りのこもった目を、リンは力強く見つめ返した。

「理想を追うには大きな責任が伴うこと」

 櫻は素早い動きで無防備になった男の首を絞める。そして、ぐったりとしたその身体をゆっくりと床に降ろした。

 正也もまた血契刀の柄でみぞおちを突き、瞬く間に一人を無力化させた。

「良い景色を、見せてあげる」

「良い、景色」

「もう、誰も死ななくて良い世界を」

「そうか」

 男は呟き、泣きそうな顔で微笑む。その背後に櫻が現れる。

「頑張れよ」

 そう言い残し、彼もまた櫻の手刀によって意識を失った。

 人間二人と吸血鬼一人。静寂に包まれた戦場に三人の戦士が残った。

「これで、良かったのかな」

 リンはそう呟き、夕焼け空を見上げる。

「何が良かったかなんて結果が出てみないとわからないのだろう」

 リンは振り返る。櫻は、そんなリンを泣きそうな笑顔で見つめた。

「でも今の君、良い顔してる」

 リンはハッとして櫻の目を見つめる。頬にかかった黒髪を、風が掻き上げる。

「今までずっと独りで、辛かったな」

「ッ……私、私、ずっと」

「わかってる。わかってるよ」

 リンはおぼつかない足取りで櫻に向かう。

 櫻はそんなリンを力強く抱き締めた。

「ありがとう。出会ってくれて」

 櫻の胸の感触、温かい匂い、頬にかかる髪に包まれて、リンの目からとめどなく涙が溢れる。

「生きててくれて、ありがとう」

「お姉ちゃん」

 そして、全てが決壊した。

「お姉ちゃん! お姉ちゃぁぁん!」

 風が通り過ぎていく屋上で、二人の少女の泣き声だけが響く。

 初夏の空気、暖かくなってきた風。

 正也は抱き合う二人を見て微笑む。

 しかしそのとき、正也の耳に音質の悪い声が届く。

 それはただの雑音のようで、しかし、正也に悪い予感をよぎらせた。

「――二人とも! こっちに!」

 正也のただならぬ声色に、二人は顔を上げる。

「早く!」

 膝をついて切羽詰まった表情を浮かべる正也に急かされ、涙を拭って駆け寄る。

「これ」

 正也が手に取ったのは無線機。

 そして、櫻とリンは目を見開いた。

「王の眷属を名乗る吸血鬼集団が神殿に侵入した。数が足りない。至急応援を!」

「まさか」

 リンが呟く。

「神殿の位置が特定されたと言うのか」

 そう言った櫻の脳裏に蘇るのは、血から記憶を得られるグレイヴとの戦闘。

「あのとき……!」

「何が、起きるんだ」

 正也はリンを見上げ、問う。

 リンは呼吸を整え、恐る恐る口を開いた。

「王が、目覚めるかもしれない」

 彼女のその一言は、二人の覚悟の炎を微かに、そして冷たく揺らしたのだった。

第7章「共鳴する心、動き出す運命」完

 第7章、読んでいただきありがとうございました。第5章からここまでリンのエピソードとなりました。クソ隊長に唾吐いたところ良かったですね。天国のスズも笑ってくれていることでしょう。さて、物語はいよいよクライマックスに突入していきます。もう少しだけお付き合いをよろしくお願いします。

 毎日21時更新です。
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