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最終章「掴み取る未来。君となら」
第54話「過去と夢」
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後方に吹き飛ばされた王はたたらを踏みながらも体勢を立て直す。
こちらに向けられたその冷たくも熱い眼差しを見つめながら、王の胸の奥、忘れていた何かが呻き出す。
それはかつて自分にも向けられていた、人間からの深い感情。
「だから人間は嫌いだ」
王が俯きがちに呟いたその一言を正也と櫻が捉えた。
隙を見逃さずに斬りかかろうと腰を落とした櫻を、正也が手で制す。
「一体この世の何を信じているというんだ」
離れたところにいるリンもまた隙を見逃すまいと銃口を向ける。
正也はまたとしてもそれを手で制し、哀れみすら含んだ目を王に向けた。
「良い機会だ。俺がずっと疑問に思っていたことを聞きたい」
王は俯いたまま返事をしない。正也はそれを肯定と受け取った。
「吸血鬼の王、お前もたった一人の人間を愛したはずだ」
王はそれを鼻で笑った。
「何故そう思う」
「俺の存在がその証拠だ」
「無理やりに、という可能性は考えなかったか?」
「無いだろう。その場合はまず産まないし、産んだとしても愛情を込めない。家族を知らない子供は、家族を求めない」
「……それで、何が聞きたい」
「そんなお前が、何故そんなに人間を憎む?」
王は鼻から長く息を吐き、赤黒い星の瞬く頭上を徐に見上げた。
リンは照準越しに息を呑んだ。
今の王の所作と、田んぼに目をやったスズの所作が似ていたから。
「東欧の小さな村、とある諸侯が治める地域に生まれた」
王が発した言葉、それは急激に人間としての体温を帯び、櫻とリンの中の恐怖心が揺らいでいく。
「母は悪魔と交わったのだろう。最も、今では確かめる術もないが」
「迫害、されてきたのか」
正也のその問いに一拍置き、王は首を横に振った。
「元々悪魔崇拝を行ってきた村だ。我は何一つ不自由なく育った」
「じゃあ、何で」
「自由が、欲しくなった」
「自由」
思わず、といったように呟いたのは櫻だ。
自分の両手に視線を落とす王を見つめ、緊張していた身体がふっと脱力する。
「十の頃、村を飛び出した。覚えている。裸足で小石や小枝を踏んで、何回も転んで傷だらけだった。そして暗い森の中、途方に暮れていたとき、出会った」
「その人が」
「ああ、もう声も、顔も忘れた」
王の心の中を涼しいそよ風が吹き抜ける。
それはあのとき自分に差し伸べられた手と同じく、そこにあるがもう触れられない。
「五つ、いや六つ離れていたか。背が高かった。花を編む細い手に、度々見惚れた」
「愛していたのか」
「愛していた。愛されていた」
じゃあ何故と、さらに問い詰めたそうな正也を見つめ、王は自嘲気味に笑った。
「先程、愛が無ければ子供にも愛を込められないと言ったな」
直後、王の纏う妖気がさらに勢いを増す。
絶望、不安、後悔を燃料にして。
「眷属にしたのだから、それは関係無い」
王のその笑みを目の前にして、正也の瞳孔が縮小していく。
その光景、そのなれ果てを想像し、呼吸が浅くなっていく。
「お前……お前、何てことをッ」
「くっ、はははは……」
王の乾いた笑いが響く度、纏うオーラも強大になっていく。
「そうか、怒るか。お前は、怒るか」
「何がおかしい。何がッ」
「人間の本質とは何だと思う。小僧」
正也は聞かれ、答えられない。
既に喉元にナイフを突きつけられているかのような鋭いプレッシャーを前に、動けない。
「不安だ。そして、そこから発生する失敗と、その正当化」
それに激しく賛同するかのように、王に乗っ取られたグレイヴの身体が大きく跳ねる。
「それが全てだ」
「ッ……!」
「我は人間の本質を憎んだ」
王は自分の右手を見つめる。
「間違いだったとわかっている。だからこそ、同じ過ちは繰り返させない」
そしてそれを、あのとき吸血の痛みに悶えるパートナーの首を絞めたのと同じように強く握り締めた。
「魂が同じ者たちで、不安や疑いの無い世界を創る。綺麗なものを、綺麗なままにする」
正也は強大なプレッシャーを放つ王から目を離せない。
「同質の魂を保つために、我は生き続ける」
しかしそのとき、櫻に服を引っ張られた。
振り向き、目が合って、僅かに笑った。
「そうか。確かに、やりやすくなったな」
「なに?」
正也は俯きがちに息を吐き、一歩踏み出すと同時に血契刀の切っ先を王に向ける。
地を這う黒いオーラが鎖のようにその脚に巻き付いても、知らんとばかりに蹴散らして歩く。
それを見たリンの胸の奥から痛快さが込み上げ、心底楽しそうに笑った。
「これは青い者同士の戦いだ」
「青い、だと?」
「ああ、我儘対我儘」
次の瞬間、銃声。
銃弾を弾いた王の鋭い視線の先、リンは角度を変えようと走り出していた。
「早く始めなさいよ! 世紀の大喧嘩を!」
「言われなくてもッ」
瞬間、正也は駆け出す。
右、左、右。
正也の素早く思い斬撃を黒翼で弾きながら、王の視線が正也に集中していく。
――そのとき。
「よしよししてやるから跪けよ。お坊ちゃん」
背後から正也を飛び越えた櫻が王に斬りかかった。
こちらに向けられたその冷たくも熱い眼差しを見つめながら、王の胸の奥、忘れていた何かが呻き出す。
それはかつて自分にも向けられていた、人間からの深い感情。
「だから人間は嫌いだ」
王が俯きがちに呟いたその一言を正也と櫻が捉えた。
隙を見逃さずに斬りかかろうと腰を落とした櫻を、正也が手で制す。
「一体この世の何を信じているというんだ」
離れたところにいるリンもまた隙を見逃すまいと銃口を向ける。
正也はまたとしてもそれを手で制し、哀れみすら含んだ目を王に向けた。
「良い機会だ。俺がずっと疑問に思っていたことを聞きたい」
王は俯いたまま返事をしない。正也はそれを肯定と受け取った。
「吸血鬼の王、お前もたった一人の人間を愛したはずだ」
王はそれを鼻で笑った。
「何故そう思う」
「俺の存在がその証拠だ」
「無理やりに、という可能性は考えなかったか?」
「無いだろう。その場合はまず産まないし、産んだとしても愛情を込めない。家族を知らない子供は、家族を求めない」
「……それで、何が聞きたい」
「そんなお前が、何故そんなに人間を憎む?」
王は鼻から長く息を吐き、赤黒い星の瞬く頭上を徐に見上げた。
リンは照準越しに息を呑んだ。
今の王の所作と、田んぼに目をやったスズの所作が似ていたから。
「東欧の小さな村、とある諸侯が治める地域に生まれた」
王が発した言葉、それは急激に人間としての体温を帯び、櫻とリンの中の恐怖心が揺らいでいく。
「母は悪魔と交わったのだろう。最も、今では確かめる術もないが」
「迫害、されてきたのか」
正也のその問いに一拍置き、王は首を横に振った。
「元々悪魔崇拝を行ってきた村だ。我は何一つ不自由なく育った」
「じゃあ、何で」
「自由が、欲しくなった」
「自由」
思わず、といったように呟いたのは櫻だ。
自分の両手に視線を落とす王を見つめ、緊張していた身体がふっと脱力する。
「十の頃、村を飛び出した。覚えている。裸足で小石や小枝を踏んで、何回も転んで傷だらけだった。そして暗い森の中、途方に暮れていたとき、出会った」
「その人が」
「ああ、もう声も、顔も忘れた」
王の心の中を涼しいそよ風が吹き抜ける。
それはあのとき自分に差し伸べられた手と同じく、そこにあるがもう触れられない。
「五つ、いや六つ離れていたか。背が高かった。花を編む細い手に、度々見惚れた」
「愛していたのか」
「愛していた。愛されていた」
じゃあ何故と、さらに問い詰めたそうな正也を見つめ、王は自嘲気味に笑った。
「先程、愛が無ければ子供にも愛を込められないと言ったな」
直後、王の纏う妖気がさらに勢いを増す。
絶望、不安、後悔を燃料にして。
「眷属にしたのだから、それは関係無い」
王のその笑みを目の前にして、正也の瞳孔が縮小していく。
その光景、そのなれ果てを想像し、呼吸が浅くなっていく。
「お前……お前、何てことをッ」
「くっ、はははは……」
王の乾いた笑いが響く度、纏うオーラも強大になっていく。
「そうか、怒るか。お前は、怒るか」
「何がおかしい。何がッ」
「人間の本質とは何だと思う。小僧」
正也は聞かれ、答えられない。
既に喉元にナイフを突きつけられているかのような鋭いプレッシャーを前に、動けない。
「不安だ。そして、そこから発生する失敗と、その正当化」
それに激しく賛同するかのように、王に乗っ取られたグレイヴの身体が大きく跳ねる。
「それが全てだ」
「ッ……!」
「我は人間の本質を憎んだ」
王は自分の右手を見つめる。
「間違いだったとわかっている。だからこそ、同じ過ちは繰り返させない」
そしてそれを、あのとき吸血の痛みに悶えるパートナーの首を絞めたのと同じように強く握り締めた。
「魂が同じ者たちで、不安や疑いの無い世界を創る。綺麗なものを、綺麗なままにする」
正也は強大なプレッシャーを放つ王から目を離せない。
「同質の魂を保つために、我は生き続ける」
しかしそのとき、櫻に服を引っ張られた。
振り向き、目が合って、僅かに笑った。
「そうか。確かに、やりやすくなったな」
「なに?」
正也は俯きがちに息を吐き、一歩踏み出すと同時に血契刀の切っ先を王に向ける。
地を這う黒いオーラが鎖のようにその脚に巻き付いても、知らんとばかりに蹴散らして歩く。
それを見たリンの胸の奥から痛快さが込み上げ、心底楽しそうに笑った。
「これは青い者同士の戦いだ」
「青い、だと?」
「ああ、我儘対我儘」
次の瞬間、銃声。
銃弾を弾いた王の鋭い視線の先、リンは角度を変えようと走り出していた。
「早く始めなさいよ! 世紀の大喧嘩を!」
「言われなくてもッ」
瞬間、正也は駆け出す。
右、左、右。
正也の素早く思い斬撃を黒翼で弾きながら、王の視線が正也に集中していく。
――そのとき。
「よしよししてやるから跪けよ。お坊ちゃん」
背後から正也を飛び越えた櫻が王に斬りかかった。
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