飛ばない鳩

荷居人(にいと)

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鳩と横断歩道とタクシーと

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「あー、失敗した」

そう後悔によるものでひとり呟いたのは全てが終わった後。

今日も仕事に向かうため朝バスに乗って向かうのは駅。いつもバスは学校へ向かう学生と会社へ向かうだろうサラリーマンたちで溢れている。

これはいつもの光景でどの時間のバスに乗っても仕事へ間に合うように乗る限り免れることはできない。

なので最初の言葉はこの時点では当てはまるものはない。私が後悔したのはバスに降りた後である。

それは降りたバス停から駅の構内へ向かうために通る横断歩道で起こった。横断歩道を渡ろうと前を向くと向こうから歩いて来たのはバス停に向かうだろう人と

向かってきた人は鳩を通りすぎ、鳩は人を怖がりもせず堂々と横断歩道を真っ直ぐにゆっくりとした足取りで歩く。

そんな鳩を見て私は鳩がまだ半分も歩かない間に横断歩道を渡り切り、人の邪魔にならないだろう位置で鳩を見守ることにした。

よちよちと私が来た方向へ横断歩道から離れることなく真っ直ぐ歩いていく鳩がようやく半分を越した時横断歩道を通りすぎようとするタクシーが横断歩道手前で止まる。

人が渡ろうとしていたからである。あの人が通り過ぎたらタクシーは動いてしまうんだろうか?少しハラハラしながら鳩をじっと見る私。

ついに人が横断歩道を渡りきるが、タクシーは横断歩道を渡り歩く鳩に気がついていたのだろう。ゆっくりと歩く鳩を見守るように動き出すことはなかった。

ただ鳩が横断歩道を真っ直ぐと歩いている。ただそれだけのことなのに目が離せなかった。

そしてついに鳩は一度も飛ぶことなく横断歩道をその足で渡り切り、タクシーはそれを確認するとようやく動きだしタイヤで横断歩道を踏んで発進するのだった。

たった数分の出来事。鳩を見守ったのは私とタクシーの運転手ぐらいだろう。

何となくいいものを見たような私はついひとりで笑ってしまう。まるで鳩が人の真似をしていたようで。

そして冒頭へ戻る。

「あー、失敗した。動画撮るんだった」

滅多に見ることがないだろう鳩が横断歩道を真っ直ぐに歩く瞬間を誰かに語りたい気分になった私はひとり心の中で後悔をする。

動画はなくても語ることはできると仕事帰りに職場の人に話せば

「動画撮ればよかったのに」

そう私が思ったことと同じことを笑いながら言われて二度同じことで後悔するのだった。

私の心の動画では今日も鳩が横断歩道を堂々と歩く姿が写し出されている。

END




あとがき
2019/7/17に会った出来事です。何故かその鳩が忘れられない私。凄い和んだというか癒された私です。

読者の皆様もふとした思わぬ出来事に癒される瞬間がありますか?
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