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僕はオセロ国の第二王子リバース・オセロ。4歳にして天才魔法使い。何故なら僕は前世の記憶を持つ転生者だからか覚えがいいのだ。でも戦闘力は皆無。その理由は前世の世界に影響されて争いの嫌いな平和主義だから。何事も話し合いで解決が一番いいよね!

そんな平和主義な僕はたった今、冒険者になることを決めた。理由は後程話すとして……冒険者になるためには、王子でもある僕の場合国王である父の許可がいる。まあ、4歳だからどちらにしろ親の許可もいるのだけど。

そんなわけで、父のいる謁見の間の前までふぅふぅ言いながら来た。4歳児の短い足の辛さをなめないでもらいたい。

そして息を整え、ばーんっと………登場したかったけど謁見の間の扉は重かったので、自分で開けるといいながら、んしょんしょと押すもびくともしない。そんな頑張る僕を見かねてか、謁見の間の扉の前で見張りをしていた二人がそっと手伝ってくれた。

優しさはしっかり受け取って、僕がひとりで頑張って扉を開いたことにしよう。そんな華麗な登場で国王と王妃である父と母はそれを瞬時に理解してか、ぱちぱちと拍手をしてくれた。

「まあまあ、ここの扉は重いでしょうに!すごいわ!」 

「さすがは我が息子!」

正直、大げさである。が、甘え上手な僕はあえてえっへんと威張るのだ。子供って本当に大変。

そんなわけで存分に褒められた後、目的のために話を始める。

「おとうしゃま!ぼくぼうけんしゃになりましゅ!」

「いいよ!誰か、許可証を」

「はっ!」

「子供の成長は早いわね………。いってらっしゃい、気をつけてね」

「いってまいりましゅ!」

はい、会話終了。さすが国王たる父、国母たる母も、どちらも負けずと心が広い。すぐ許可がもらえたので、許可証も受け取りいざ出発である。

既に必要な荷物は僕の得意な魔法のおにもつぽいぽいにいくらでも積み込んであるので問題はない。

【おにもつぽいぽい

四次元に荷物をいくらでもいれられる便利な空間魔法。呪文を唱えるだけで異次元が開き、持ち歩きたい荷物を放り込むだけ。

放り込んだ物を取り出す時は、思い浮かべれば異次元から手に飛んでくる。呪文を再び言えばその異次元空間は閉じて消える。

また呪文を言えばいつでも使用可能。時間経過がないため物が腐ったりする心配がない】

もちろん大事な許可証も空間魔法ですぐしまう。ちなみに僕の二番目に好きな魔法である。なんせ手ぶらで冒険者になれるのだから。

一番目は………また使うときが来た時に説明しよう。ん?僕、誰に説明してるんだろ?………まあ、いっか!

そんなわけで謁見の間を飛び出し冒険者の始まりだ!と思ったら兄とぶつかってしまった。

「す、すまない………大丈夫か?リバー」

「うん、だいじょうぶだよ!」

年齢差が4歳と15歳とでは身長から体型まで全然違う。なので当然ぶつかれば僕が転んでしまうのだ。そんな僕にびっくりしながら、謝罪と共に僕の愛称を呼んで兄は慌てて僕を助け起こしてくれた。

「そうか……」

ほっと安心したようにする兄はこの国の王太子。僕が何をしてしまっても許してくれる優しい兄で、婚約者とも仲が良く、兄が婚約者を大事にしているのが遠目で見てもわかるくらいでお似合いの二人と言われている。

「おにいしゃま、おねえしゃまをしあわちぇにしてね?」

「ああ……もちろんだ」

しかし、それは最近までの話。二人はついに学園を卒業して盛大な結婚式を終えた。つまり、夫婦となったのだ。それが僕が冒険者になる理由のきっかけでもある。

何故か?それは最近お義姉様になった人、今では兄の妻が僕の好きな人だったから。婚約ならまだしも、結婚ならば諦めるしかない。人妻の略奪は現実的ではないし、何より結婚式でお義姉様の幸せそうな顔を見たら邪魔なんてできるはずもなかった。

つまり僕の失恋は決定したわけである。結果、それを違うことに気を向けることで傷を癒すために考えたのが冒険者になること。

こうして考えられたのも、お義姉様の幸せそう顔以外に、相手が僕を転生者と知らずして4歳の恋をバカにせず、優しい兄がお義姉様の相手だったこともある。

正直兄がお義姉様を蔑ろにするクズだったなら、とことん表に出るのが恥ずかしくなるように、徹底的に抹殺してやると考えたこともあった。でも、結果はそうする必要もなくて、二人を見守るだけしかできなかったんだけど……ね。

まあ、たまーにね?少し妬ましかった気持ちが表に出たのか、つい………兄の大事な部分に事故を起こしたこともあったけど、うずくまりながらも許してくれた兄。本当に優しい兄である。僕ならしっかり報復………いや、僕なりの平和的解決を決行してしまうかな?

ま、それも今ではいい思い出だ。数日前のことだけど、過去は過去だから……ね?

そんな過去は置いといて、せっかく兄に会えたなら冒険者になることの報告はしとこうと思い直す。

「あの、ぼくね、ぼうけんしゃになりゅの」

「冒険者?父上が許可したのか?」

報告すれば、え?と驚いたように兄から返しが来る。

「うん、いいよ!って」

「か、軽い………。確かに冒険者は何歳からでもなることは可能だが、子供がなるのは、親の教育の付き添いがほとんどだ。それに冒険者にはなれても大人がいないことには依頼が………………」

父の返事を教えれば苦笑しながらも、兄なりに僕を心配してくれているのがわかった。にしても僕子供だから大人の冒険者仲間が必要だなと兄の言葉で思ったが、何故か僕をじっと見て急に兄が言葉を止める。

「おにいしゃま?」

「不思議だな……。リバーなら問題ない気がする。寧ろ、一人でも………」

さっきの心配とは一転。兄は僕をなんだと思っているのか。

「どういうことかな?」

「ひぇっ」

問いかけただけなのに。何故かたまにこうして兄は僕に怯える。僕が転生者なことは誰にもバレてないだろうし、まだまだぴちぴちで、可愛いが旬時の4歳なのに。

「もうどうちたの?おにいしゃま」

そんな失礼だけど優しい兄を、同じく優しい僕は許してあげることにする。せっかくだから謝礼として、どぉぉぉしても兄が僕を心配だと言うから、お金になりそうなものはもらってあげた。

冒険者はお金がかかるからね!優しい兄を持てて僕は幸せです!僕が心配だからって涙目になりながら見送ってくれる兄のなんて優しいことだろう!

「うう………っ私の弟怖すぎない………っ?」

「しゅっぱーちゅ!」

なんだか、兄が自立しようとする弟を心配してか何か言ってるけど、こんな感じで追加準備も終わり、僕の冒険の第一歩が始まった。
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