2 / 3
第ニ章
邂逅
しおりを挟む雅人は夢を見ていた、幼い子供が1人で泣いている。気づくと己が子供になっていた。母親に見捨てられ寄る辺のない、幼き日の自分自身だった。そっと後ろから抱きしめられる。青髪で長髪の美青年が、雅人の額から目元へと優しく口づけをしていく。安心した様に雅人の体から力が抜けていく。唇にキスが落とされ、甘く吸われる内に心が癒されていくのを感じた。
「Ven a mí lo antes posible, Masato…」
(早く私の元へおいで、雅人…)
耳元へ口づける様に囁かれる。
ガヤガヤとした声に雅人は目が覚めると、ベッドの上に寝ていた。
「ここは…」
簡素な宿舎の部屋の様だった。声のする方へ窓から下を見ると、仕事に向かう男達が宿舎から出て行く所だった。今、雅人は労働者が寝泊りする寮に滞在している事を思い出した。
足音がして昨日リーアンと名乗った男が部屋へと入ってきた。
トレーに湯気の立つスープとパン、チーズにスライストマト等を乗せて運んできた。
食物の匂いを嗅ぐと腹がぐーっと音を立てた。そういえば、昨日は何も口にせずに寝てしまった。
「Masato, es arroz.」
(雅人、飯だ)
リーアンがそう言ってトレーをベッド横のローテーブルに置いた。気のつく男だなと、雅人は思った。顔よし、体よし、気立てよし、ホストだったら人気になりそうだ。
彼は、先に大食堂で食事して来た様だ。俺は、見つかったらまずいみたいだ。内緒でリーアンが連れ込んでるから、こういう所は恐らく規則とかにふれるんだろうな…。男娼連れ込み禁止とか…、俺は男娼じゃねぇぞ、ホストだし。
食事を終えた雅人に、リーアンが歩みより、寝癖のついた雅人の髪を撫でた。
「Voy a salir hoy a entregar mi espada al castillo. ¿Masato también viene?」
(今日は出かける、城へ刀剣を届けに行くんだ。雅人もくるか?)
「え、何?」
リーアンは雅人の身支度を手伝うと、一旦部屋から出て行き、戻って来た時には正装していた。
「Vamos」
(さあ、行こう)
リーアンに手を引かれて、建物を出て、工房を抜け、門扉迄来ると、外に何台もの荷を積んだ馬車が待っていた。その内の一台に、飛び乗ると、御者席に座った。
「¡Vamos!」
(出発だ!)
一団の中から号令がかかると、先頭馬車が動き出した。
雅人は、何となく剣を積んだ馬車を見て、これだけ大量の刀剣を運ぶって事は城に奉納するのかもしれないと悟った。
スマホゲームでしか見た事のない城塞が見れるのかと、思わず唾を呑み込んだ。
馬車に初めて乗ったけど、こんなに揺れると思わなかった。リーアンに捕まってないと振り落とされそうだ。石畳みだから、車輪が振動して御者席の板の上では、尻が痛くて堪らない。つくづく元の世界では、柔な暮らしをしてたか実感してしまう。
商店が並ぶ坂を上へ上へと登っていくと次第に、巨大な城門が近づいて来た。
下を潜る時、城門の上を見上げたら、夜は降ろされてる頑強な鉄の吊るし門扉が引き上げられており、本当に違う世界にいる事を実感し始めた。ここでは、敵から身を守る為の戦争は日常にある事なのだ。
恐らく武器庫へ刀剣を納める為、敷地内を郡団が向かっている最中、雅人は突然強い視線を頭上から感じた。上を仰ぎ見ると、巨大な石造りの城が聳え立っていた。
頭の中に突如声が響いてきた。
「Fundar」
(見つけた)
「あ…」
雅人が頭を押さえていると、リーアンが心配して顔を覗き込んできた。
大丈夫と言おうとして、トパーズ色のリーアンの瞳を見つめていたら、彼の瞳に恐怖の色が浮かんだ。彼の瞳の中に、雅人の背後から迫り来る翼竜を見たのが最後だった。
ブラックアウト
雨がざあーと沢山降っている。振り返ると祖父母の家が見えた。雅人は今、中学生の頃の自分になっていた。前を見ると傘をさした母親が雅人の手を引いていた。失踪していた母親が突然現れて、今迄の事を話したいから食事に行こうと言われ、恋しさからついて行った。黒塗りの車に乗せられ、そこから2度と祖父母の元へ帰して貰えなかった。別れの言葉も言えず終いだった。
車に乗り込む少年の自分を、気づくと遠くから見ていた。雨に濡れる雅人の隣に、青い髪の美青年が寄り添っていた。
「No te pasa nada, solo extrañaba a tu madre」
(君は何も悪くない、母親が恋しかっただけだ)
「爺ちゃん、婆ちゃんに別れも言えなかった…っ」
雅人の頬に涙が伝う、そっと長い指で美青年は雫を拭うと雅人の頬に優しくキスをしていく。
目覚めると真っ白な空間に寝ていた為、一瞬死んで天国にいるのだと思った。良く見ると天蓋付きの真っ白なシーツのベッドに寝かされていた。香が焚かれていて頭がぼうっとする。
その後の事は薄らとしか覚えていないが、意識の目覚めた雅人を見知らぬ人々が、甲斐甲斐しく湯浴みをさせ、体に香油を塗り、髪を耳元で切り揃え、髪に金の輪飾りを付け、煌びやかな細身の衣装を着せた。
まるで王様に謁見する客人の様な扱いだ。
耳に青い宝石のついたイヤーカフを付けられた。
そのまま迎えに部屋に来た者に連れられて、長い廊下を歩かされた。窓から外の景色を流し見ると遥か下に城下街が広がっていた。
ここは…まさか、城内なのか。
暫く歩き続けると、大広間へと出た。
此処で誰かを待つ様だ。
チクタクと巨大な壁に据えられた大時計が時を刻む。
突然、騒がしくなり誰か来た様だ。
雅人は、頭がはっきりせず、毛足の長い絨毯に沈む自分の足を見ていた。
「リヴィエラ・アルファス・ダルメン…*%#○×€☆王子の御成~」
何か今、言葉が聞き取れた気がする。名前は長過ぎて聞き取る事を脳が拒否した。
その時、部屋の空気が変わった。
青い光、いや長い青い髪の美丈夫が風を切って歩いてきた。長身で腰の位置が高く非常に足が長くスタイルが良い。その顔は…、余りの美しさに、雅人は目を見張った。
俺は彼を知っているー。
美丈夫の視線が彷徨い、雅人の上で止まった。長い足で一瞬で間合いを詰めると雅人をじっと見つめた。
いや、でも夢の中で見た彼の瞳は緋色だった。今は深い青色の瞳が静かに凪いでいる。
「雅人…」
彼が静かに呟くと、雅人をそっと抱き寄せた。
「あっ」
雅人は、腕の温もりに安らぎを感じた。
この腕を知っているー。
青年の胸元に埋めた顔をそっと上げると、そのままキスが落ちてきた。
眦に涙の雫が滲んだ。
青年は指先でそっと雅人の涙をぬぐった。
雅人が身じろぐと腕が離された。
それを名残惜しく感じる自分がいる。
「雅人…会いたかった。そなたは美しいな」
雅人の頬を手で挟むと静かに告げた。
「俺もう、おっさんだし綺麗なんかじゃ…」
雅人は恥ずかしくなってぶつぶつ呟いた。
「そなたは、老人には見えないぞ?」
「はあ?誰も老人何て言ってねぇよ!」
雅人が無気になると、青年がクスリと笑った。揶揄われただけの様だ。
「あ、俺会話出来てる…」
雅人が言葉が聞き取れる事に気づくと、青年は優しく雅人の耳に触れながら告げた。
「この魔具は、如何なる世界の言語をも変換出来る物。例え、種族が違えど通づる事が出来る」
雅人の耳からイヤーカフを外すと見せた。美しいサファイアに似た宝石が散りばめられている。
ただの装飾品ではなかったのか…。
とすると、こんな物が有るって事は、この世界に召喚された事があるのは俺だけじゃ無いって事か。
0
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない
結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。
人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。
その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。
無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。
モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。
灰銀の狼と金灰の文官――
異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
