1 / 64
プロローグ
「お薬いかがですか?」
しおりを挟む「お嬢ちゃん、一人でメルクまで旅をしているのかい?」
「はい。メルクから船が出ていると聞いたので。」
自分の身体の3分の一はありそうな大荷物を背負い、ぽてぽてと独りで歩いていた幼い少女を見かけ、畑で作業していた人の良さそうな農夫は自分の荷馬車で送ってくれると乗せてくれた。
遠慮する少女についでに野菜を売りに行くからと言って。
道の悪い畦道を木の車輪がついた荷馬車が進んでいくものだから、馬を操縦している農夫も、その隣に座っている少女も、車輪が小石や出っ張りに乗り上げる度に身体が小さく跳ね上がる。
もう少し先に見える森を抜ければ、目的地の街へやっと辿り着く。
少女は痛むお尻を我慢して、親切な農夫に笑顔で答える。
こんな幼い少女が船に乗る為に独りで旅をするなんて余程の事だろう。
農夫は傷まし気に眉を寄せて、だが詳しくは聞けないでいた。
この少女の面倒を見てやれる余裕が無いからだ。聞いてしまったらとても放って置けなくなるだろう。
「…メルクは港町だからなぁ。人も多いから気をつけなきゃならないよ? 悪い噂も沢山あるから…。」
「悪い噂?」
「ああ、なんでも…」
農夫が言いかけたところで、急に荷馬車を引いていた老馬が嘶き歩みを止めた。森の中で沢山の人が何やら争っているようだ。馬の暴れて鳴く声も尋常ではない。
「しまった、盗賊か…? すぐに離れよう!…あ、こら!」
農夫が手綱を引き、馬の鼻先を横にずらして進路を変える。だが少女はぴょんと御者席から飛び降りてしまった。驚いて操縦にもたつく農夫が止める間もなく森に入り、ゆっくりと騒ぎの元へと近づいていく。
馬の姿が目視できる程近づく頃には、先程まで森に響いていた争う音は止んでいて、少女の耳には苦しそうな呻き声がいくつも聞こえていた。
まだ生きている。
呻き声に近づいてみれば、商人の一団だろう。少し身なりの良い者が一人。従者の姿が3人。護衛らしき装備を身につけた者が一人。
商人の荷馬車は幌がついて大きく立派で、馬が4頭で引いている。とても護衛一人で旅をするようには見えない。雇った護衛が裏切ったのだと、容易に想像がつく。
少女は身なりの良い、恐らく雇い主の商人の傍にしゃがみこむ。救いを求めて少女に目線を向けた商人は、もうすぐ命を落としそうな程に、切られた腹からドクドクと血を流していた。
少女は腰のポーチから飴玉の入った瓶を取り出して一粒つまむと、にっこりと笑い、こう言った。
「お薬いかがですか?」
死に掛けの商人は差し出された飴玉を、絶望に染まる瞳に映すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる