お薬いかがですか?

ほる

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プロローグ

「お薬いかがですか?」

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「お嬢ちゃん、一人でメルクまで旅をしているのかい?」
「はい。メルクから船が出ていると聞いたので。」


自分の身体の3分の一はありそうな大荷物を背負い、ぽてぽてと独りで歩いていた幼い少女を見かけ、畑で作業していた人の良さそうな農夫は自分の荷馬車で送ってくれると乗せてくれた。
遠慮する少女についでに野菜を売りに行くからと言って。

道の悪い畦道を木の車輪がついた荷馬車が進んでいくものだから、馬を操縦している農夫も、その隣に座っている少女も、車輪が小石や出っ張りに乗り上げる度に身体が小さく跳ね上がる。

もう少し先に見える森を抜ければ、目的地の街へやっと辿り着く。
少女は痛むお尻を我慢して、親切な農夫に笑顔で答える。

こんな幼い少女が船に乗る為に独りで旅をするなんて余程の事だろう。
農夫は傷まし気に眉を寄せて、だが詳しくは聞けないでいた。
この少女の面倒を見てやれる余裕が無いからだ。聞いてしまったらとても放って置けなくなるだろう。


「…メルクは港町だからなぁ。人も多いから気をつけなきゃならないよ? 悪い噂も沢山あるから…。」
「悪い噂?」
「ああ、なんでも…」


農夫が言いかけたところで、急に荷馬車を引いていた老馬が嘶き歩みを止めた。森の中で沢山の人が何やら争っているようだ。馬の暴れて鳴く声も尋常ではない。


「しまった、盗賊か…? すぐに離れよう!…あ、こら!」


農夫が手綱を引き、馬の鼻先を横にずらして進路を変える。だが少女はぴょんと御者席から飛び降りてしまった。驚いて操縦にもたつく農夫が止める間もなく森に入り、ゆっくりと騒ぎの元へと近づいていく。

馬の姿が目視できる程近づく頃には、先程まで森に響いていた争う音は止んでいて、少女の耳には苦しそうな呻き声がいくつも聞こえていた。


まだ生きている。


呻き声に近づいてみれば、商人の一団だろう。少し身なりの良い者が一人。従者の姿が3人。護衛らしき装備を身につけた者が一人。

商人の荷馬車は幌がついて大きく立派で、馬が4頭で引いている。とても護衛一人で旅をするようには見えない。雇った護衛が裏切ったのだと、容易に想像がつく。

少女は身なりの良い、恐らく雇い主の商人の傍にしゃがみこむ。救いを求めて少女に目線を向けた商人は、もうすぐ命を落としそうな程に、切られた腹からドクドクと血を流していた。

少女は腰のポーチから飴玉の入った瓶を取り出して一粒つまむと、にっこりと笑い、こう言った。


「お薬いかがですか?」


死に掛けの商人は差し出された飴玉を、絶望に染まる瞳に映すのだった。
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