お薬いかがですか?

ほる

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第一章

33.

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アエラウェの容赦ない揺さぶりによって魂を飛ばしかけていたマリールは、バルドに救出されて事無きを得た。

薬術士の製薬作業を初めて目の当たりにした一同は、その術式の多さと謎の記号に驚かされたが、青い薬+プラスの肌のアンチエイジング効果を聞いて驚きもぶっ飛んでしまったようだ。特に女性陣が。


「えーと、それでは続きを。完成したこの液体の薬を、携帯しやすいように乾燥させて丸めます。あ、エドナさん達の飴の方はどうですか?」
「こっちはさっきの騒ぎでちょっと焦がしそうになったけどね、なんとか大丈夫だよ。」
「あ、じゃあ先に飴の成形に入りましょうか。ちょっと待ってくださいね、きれいに洗ってある手袋を…はい、これ使ってください!」


マリールは背負い鞄から手袋を三つ取り出し、二つをエレンとエドナに渡す。

「熱いので火傷しないように気をつけてください。作って頂いた飴を私の作る薬に使う分と分けて…うん、これくらいならなんとか触れるかな。」


エドナとエレンが作ってくれたまだ熱い草飴の塊を四分の三程鍋から取り出し、残りの飴は鍋ごと背負い鞄の時間停止ポケットへと仕舞わせて貰う。薬の鍋は粉末になるまで水分を飛ばす為に、時間進行のポケットに入れておいた。


「ではこれを熱い内に素早く棒状に伸ばして…はい、それくらいの細さです。それをこれくらいの長さにカットして、丸めていきます。まだ温かい内に、切った飴を平らの台の上で転がして…。」


大体1センチ四方の大きさにカットした飴を台の上で盆の底で上から少し押すように転がしていけば、丸く成形された沢山の小さな青い飴が一気に出来上がる。これだけで飴としては十分だか、薬に似せる為にはもう一手間必要だ。


「これを薬に似せる為に、砂糖を塗してさらに糖衣していきます。これで草飴の完成です!」


砂糖を多めにふりかけて、さらに台の上で転がしていく。そうして完成した草飴は、見た目はマリールの作る青い薬とまったく同じものだった。


「へえ。飴の作り方は知ってたけど、初めて作ったよ。なかなか熱くて、しかも熱い内に成形しなくちゃならないなんて、大変なもんなんだねぇ。」
「そうなんですよね、熱い内に形を整えないとだから…でも色違いの飴を組み合わせて模様を作ったり、切ったら絵が出てくる飴とか、動物の形に成形したものとか色々出来て楽しいですよね。」
「…お嬢ちゃん、それも飲食組合にレシピ登録した方がいいんじゃないかい?」
「ええ~。きっともう、どこかの国で既に『異界の迷い子』先輩がやってますよ。それに売るほど作るのはめんどくさくて…。」


飲食組合に提出する、粉末のスープストックや草飴のレシピ登録の申請書類。あれも記入するのが面倒だった。作り方を分かりやすく文にして書くというのがあんなに大変な事だったとは。薬はもう何度も書いて暗記しているし術式を記入するだけで良いが、新たな料理のレシピとなると一から考えなくてはならない。マリールは正直もうやりたくないと思っていた。



「それでは、製薬の続きしますね~。 まだ熱い飴を薄く平らに伸ばして、粉末状にした先程の薬を線上に盛ります。これを飴でくるっと包んで転がして棒状にして、ここからはさっきと同じ作業で…完成です!」
「…なんで飴が熱いままなんだい?」
「きっと保温させておいたのよ。ほら、温石とかで。」


エドナが首を傾げるが、エレンが違う答えを当て嵌めてくれる。養い親からも鞄の事は知られない方が良いと言い聞かされてきたので、マリールも黙ってにっこり微笑むだけに留めた。


出来上がった草飴と青い薬をそれぞれ皿に分けて台の上に並べる。


「ほんと、こうして並べても飴だなー。」
「薬だなんて思わないよこれ。」
「マリーちゃんさー、飴として売る時っていくらで売るの?」
「あー…考えてませんでした。普通、このくらいの飴って御幾ら位で売ってるんですかね?」


ホビット達に言われて、そう言えば飴としての売価の事を考えていなかったと気づく。できれば薬で売る十個一銀貨で売りたいが、飴だからそうもいかない。


「飴としてなら、砂糖の仕入れ値と草と水と熱量用の魔石代、それから入物と人件費を合わせた数の三倍くらいが妥当かねぇ…。」
「…今作られた飴の数を数えましたら、薬じゃない方は五百三十二個、薬の方は三百七個ありました。大体一升瓶の砂糖の7割が飴、3割が薬に使用されている量ですね。」
「砂糖一升瓶が銀貨1枚だから…砂糖の原価は銅七枚が飴、三枚が薬だね。となると…飴の方は十個で半銅貨一枚ってところかねぇ。薬の方はいつもいくらで売ってたんだい?」
「十粒で銀貨一枚です。…高いですよねぇ。」

飴の砂糖だけの原価が十個で半銅貨一枚に対して薬は一粒一銅貨一枚。飴の方はその他に経費も掛かるので少し価格は上がるが、草飴に本物の薬を一粒混ぜて売るにしても、飴として売るなら銅貨1枚以上なんて値段はとても付けられない。やはり薬の価格設定は強気過ぎたかとマリールは眉尻を落とす。


「安っ!」
「安すぎますよ、マリールさん!」
「お嬢ちゃん、頭悪いの!?」


フレスカの酷い言い様にはホビット達も頷くしかない。飴ではなく薬なのだからその分価格はもっと付けて良い筈だ。しかも効果が凄い。


「だけど、飴として売るには高すぎて…。」
「…そうね。付加価値を付けて売ってみたら?」
「付加価値?」
「そう。草飴に付加価値。例えばそこにいらっしゃるエルフさんとかね。」
「私?」


フレスカから名指しされて、アエラウェも驚く。一体何をさせる気なのだろうか。


「エルフさんが草飴が好きで買っているって知ったら、エドナ、貴方いくらで買う?」
「銀貨一枚でも買うね!!」
「うわ、エドナばあさん金持ってるなー。」
「ばか、アエラウェさんのファンクラブ最初に作ったのエドナばあさんだぞ。」
「いつも「アエラウェ様」って呼んで、アエラウェさんにだけ敬語使ってるもんなー。」


フレスカにアエラウェの話を振られて、エドナはカッと目を見開く。アエラウェの好きなものなら買い占める勢いで買う。勿論自分でも味わうが、アエラウェが貰ってくれるのなら貢ぐ。
良く貴族のご婦人方が見目の良い吟遊詩人や演劇俳優に夢中になって貢いでいるが、そんな感じでアエラウェも崇拝されていた。

アエラウェは憂い顔で頬に手を当てる。


「…私が気に入ってるくらいで、本当に皆買ってくれるのかしら?」
「俺達には理解出来ないけどなー。」
「まあ、試しにやってみたらどうだ。売れなければ他に考えればいい。」
「そうね。それじゃ一瓶、飴九個に薬一粒入りを銅貨三枚で売りましょ。銅貨一枚と半銅貨5枚がマリーちゃんで、半銅貨5枚が売り出してくれるエドナ。残る銅貨一枚は私ね。」
「…「売れるかしら?」 って不安がってた割りに強気だ。」
「しっかり宣伝費取るあたり。」
「エルフってこんなにがめつかったっけ…?」


しかもマリールの最初に売っていた一瓶十個入り銀貨一枚。つまり薬一粒銅貨一枚の値段に、半銅貨五枚をちゃっかり上乗せさせている。

アエラウェの宣伝も付けて、青い薬は飴として無事売られる事が決まったのだった。
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