47 / 64
第一章
46.
しおりを挟む
「あの日連れられて行ったのは、最初は確かに警備兵達が駐屯している詰所でした。すれ違う警備兵や他の騎士達に挨拶をされ、あの大きな身体の騎士が、そこそこの立場である事を知ったのです。」
騎士たちの挨拶にも権高に振舞えるのは、この街の駐在騎士の上位でなければおかしいだろう。この大きな騎士が権力を持つ立場なら、これから何をされても揉み消されてしまうだろう事は容易に想像が出来た。
現に詰問部屋ではギーア達が何を訴えてもにやにやと笑うだけで、訳のわからない罪状を一方的にでっち上げられたのだ。
「詰所で私達は何故か盗んだ品を売り捌く商人だったとして捕らえられ、まるで罪人のように地下牢に入れられました。けれどその牢の奥には先がありましてね…。」
この牢で何をされるのかと身構えたギーア達を、大きな騎士は剣の鞘で小突きながら奥へと進ませた。薄暗い地下牢の入り口からはランダムに積み上げられた石の壁にしか見えないその先は、二枚の壁が前後に重なり奥へと続く入り口を隠していた。
「…暗いなー暗いなーと思いながら歩き続けて、地下道を半刻程でしょうか。いえ、長く感じただけで、もしかしたらもっと短い時間だったかもしれません。どこまで続くのかも分からない暗い道を延々と歩かされ、やっと突き当たりに扉が見えてきたのですよ…。これでやっと地下道から外へ出れる! そう思ったら、そこは…。」
ギーアは思い出しながら話しているのだろう、何も無い一点を見詰めて、顔を強張らせながらも語っていく。一体そこに待ち構えていたのは何なのか。
まるでギーアの記憶を体感させられるているようなその語り口に、バルド達はゴクリと生唾を飲み込み、続きを待った。
「どこか違う建物の地下牢でした。」
「また地下牢かい!!」
期待させておいてまた地下牢は無い。バルドとエレンはガクリと項垂れて、エドナは思わず話の途中で口を挟んでしまった。この調子ではギーアの説明は描写が細か過ぎて、肝心の要点が出てくるまでにそうとう時間が掛かりそうだ。
「…ゴホッ。いや、詰所の地下に道が作られているのは知らなかった。その建物はどこか分かるか? 特徴でもいい。」
バルドは軽く咳払いをして、気を持ち直してからギーアに問い掛けた。
確かモブスカは「山に捨てられた」と言っていた。ならば少なくとも山に行くまでは生きていた筈だ。死んでから捨てられたならそこが山だと知る筈も無い。何かしらの手掛かりになるものを見てはいないだろうか。
「外へ出される際はまた違う地下道を通りましてね。地下道は三つに分かれていて、来た道とは違い距離も短かったので建物の近くには出たと思うのですが…肝心の捕らえられていた建物の特徴は分からず。その代わり、近くに目立つ建物があったのを覚えています。」
やはりだ。バルドはギーアに視線で続きを促す。エドナ達も緊張した面持ちで、ギーアの答えを待った。
「この世界では珍しい三階建ての建物で、高い屋根裏にも部屋があるのか窓がついていました。」
「…商業ギルドか。」
このメルクの街で、二階建て以上の建物なんてものは二つしかない。富裕層や貴族達の屋敷でも二階建てが主流で、三階建ては商業ギルドと領主館くらいしかない。
「その騎士は何でわざわざその建物に連れて行ったのかねぇ。」
詰所で尋問も、何なら拷問でも出来るのに、わざわざ連れて行った理由が分からない。エドナは眉を顰めて首を捻った。
「…その、詰所では度が過ぎる拷問は他の騎士様に見咎められ、止められるらしいです。それが煩わしいらしく…。その屋敷の地下牢には、思い出したくもない程の拷問器具が種類豊富に揃えられておりました…。」
拷問器具という言葉に、蹲っていたモブスカは「ひっ」と悲鳴を上げる。
あれは尋問する為の道具ではなく、人を限界まで生かしながら嬲り楽しむ為の器具だ。エドナ達はガタガタと震えているモブスカを、痛ましい目で見詰めた。
「…騎士達も全てがガルクスの手下では無い、か。」
バルドはハウノの言葉を思い出す。
警備兵はその領地の民間から招集される者が殆どだが、国や領主からの派遣で騎士階級の者も配置されていた。指揮を執るのはやはり訓練された騎士でなくては難しいからだ。国や領主からの支持ならガルクス以外の騎士も加担していそうだが、そうでも無いようだ。
バルドは国の指示ではないと分かって、僅かに心を落ち着かせた。この国の冒険者ギルドも信用できない今、国を相手取ってマリールを取り戻すには対抗手段が無さ過ぎる。バルドの祖国に頼るにも、弱い者には手を出さないをモットーにしているザンザ帝国は動きそうも無い。動いたとしても考えるより先に拳が出てしまうお国柄だ。後の事を考えると、それはなるべく避けたかった。
「俺は商業ギルド周辺を探してくる。エドナ達も店があるだろう? 何か分かったら連絡する。」
部屋の出入り口へと歩くバルドを、エドナとエレンが止めた。
「今何時だと思ってるんだい。店の方は来る前に準備を済ませて、優秀な店員達に任せて来たから大丈夫だよ。」
「それにモルガさんの店に行かれるのでしょう? モルガさんも店を閉めてからこの籠を届けに来たと思うので、店に行っても居ないと思いますよ?」
エレンが改めて籠を見る。最高級品だと言う宝石箱は触れるのも恐ろしいが、やはりとても美しかった。だが良く見ると、宝石箱に何かが挟まっているのが見えた。
「…これ、中に何か入ってませんか?」
「何だって?」
エレンが気付いたのは、蓋と箱の間から極僅かにはみ出る白い紙の角。
触れるのも怖いのでギーアに頼み、蓋を開けてもらった。
全員が箱の中を覗き込む。
「…メモ、ですかね?」
箱に入っていたのは真っ白な小さな紙切れ。ギーアは何も書いていないそれを取り出して、裏面を確認した。すると、急いで書いたのか、筆跡が乱れた文字が小さく記されている事に気付く。
「フレ…ス、カ?」
「「「フレスカ!?」」」
以外な人物の名前に、バルド達は揃って声を上げた。
騎士たちの挨拶にも権高に振舞えるのは、この街の駐在騎士の上位でなければおかしいだろう。この大きな騎士が権力を持つ立場なら、これから何をされても揉み消されてしまうだろう事は容易に想像が出来た。
現に詰問部屋ではギーア達が何を訴えてもにやにやと笑うだけで、訳のわからない罪状を一方的にでっち上げられたのだ。
「詰所で私達は何故か盗んだ品を売り捌く商人だったとして捕らえられ、まるで罪人のように地下牢に入れられました。けれどその牢の奥には先がありましてね…。」
この牢で何をされるのかと身構えたギーア達を、大きな騎士は剣の鞘で小突きながら奥へと進ませた。薄暗い地下牢の入り口からはランダムに積み上げられた石の壁にしか見えないその先は、二枚の壁が前後に重なり奥へと続く入り口を隠していた。
「…暗いなー暗いなーと思いながら歩き続けて、地下道を半刻程でしょうか。いえ、長く感じただけで、もしかしたらもっと短い時間だったかもしれません。どこまで続くのかも分からない暗い道を延々と歩かされ、やっと突き当たりに扉が見えてきたのですよ…。これでやっと地下道から外へ出れる! そう思ったら、そこは…。」
ギーアは思い出しながら話しているのだろう、何も無い一点を見詰めて、顔を強張らせながらも語っていく。一体そこに待ち構えていたのは何なのか。
まるでギーアの記憶を体感させられるているようなその語り口に、バルド達はゴクリと生唾を飲み込み、続きを待った。
「どこか違う建物の地下牢でした。」
「また地下牢かい!!」
期待させておいてまた地下牢は無い。バルドとエレンはガクリと項垂れて、エドナは思わず話の途中で口を挟んでしまった。この調子ではギーアの説明は描写が細か過ぎて、肝心の要点が出てくるまでにそうとう時間が掛かりそうだ。
「…ゴホッ。いや、詰所の地下に道が作られているのは知らなかった。その建物はどこか分かるか? 特徴でもいい。」
バルドは軽く咳払いをして、気を持ち直してからギーアに問い掛けた。
確かモブスカは「山に捨てられた」と言っていた。ならば少なくとも山に行くまでは生きていた筈だ。死んでから捨てられたならそこが山だと知る筈も無い。何かしらの手掛かりになるものを見てはいないだろうか。
「外へ出される際はまた違う地下道を通りましてね。地下道は三つに分かれていて、来た道とは違い距離も短かったので建物の近くには出たと思うのですが…肝心の捕らえられていた建物の特徴は分からず。その代わり、近くに目立つ建物があったのを覚えています。」
やはりだ。バルドはギーアに視線で続きを促す。エドナ達も緊張した面持ちで、ギーアの答えを待った。
「この世界では珍しい三階建ての建物で、高い屋根裏にも部屋があるのか窓がついていました。」
「…商業ギルドか。」
このメルクの街で、二階建て以上の建物なんてものは二つしかない。富裕層や貴族達の屋敷でも二階建てが主流で、三階建ては商業ギルドと領主館くらいしかない。
「その騎士は何でわざわざその建物に連れて行ったのかねぇ。」
詰所で尋問も、何なら拷問でも出来るのに、わざわざ連れて行った理由が分からない。エドナは眉を顰めて首を捻った。
「…その、詰所では度が過ぎる拷問は他の騎士様に見咎められ、止められるらしいです。それが煩わしいらしく…。その屋敷の地下牢には、思い出したくもない程の拷問器具が種類豊富に揃えられておりました…。」
拷問器具という言葉に、蹲っていたモブスカは「ひっ」と悲鳴を上げる。
あれは尋問する為の道具ではなく、人を限界まで生かしながら嬲り楽しむ為の器具だ。エドナ達はガタガタと震えているモブスカを、痛ましい目で見詰めた。
「…騎士達も全てがガルクスの手下では無い、か。」
バルドはハウノの言葉を思い出す。
警備兵はその領地の民間から招集される者が殆どだが、国や領主からの派遣で騎士階級の者も配置されていた。指揮を執るのはやはり訓練された騎士でなくては難しいからだ。国や領主からの支持ならガルクス以外の騎士も加担していそうだが、そうでも無いようだ。
バルドは国の指示ではないと分かって、僅かに心を落ち着かせた。この国の冒険者ギルドも信用できない今、国を相手取ってマリールを取り戻すには対抗手段が無さ過ぎる。バルドの祖国に頼るにも、弱い者には手を出さないをモットーにしているザンザ帝国は動きそうも無い。動いたとしても考えるより先に拳が出てしまうお国柄だ。後の事を考えると、それはなるべく避けたかった。
「俺は商業ギルド周辺を探してくる。エドナ達も店があるだろう? 何か分かったら連絡する。」
部屋の出入り口へと歩くバルドを、エドナとエレンが止めた。
「今何時だと思ってるんだい。店の方は来る前に準備を済ませて、優秀な店員達に任せて来たから大丈夫だよ。」
「それにモルガさんの店に行かれるのでしょう? モルガさんも店を閉めてからこの籠を届けに来たと思うので、店に行っても居ないと思いますよ?」
エレンが改めて籠を見る。最高級品だと言う宝石箱は触れるのも恐ろしいが、やはりとても美しかった。だが良く見ると、宝石箱に何かが挟まっているのが見えた。
「…これ、中に何か入ってませんか?」
「何だって?」
エレンが気付いたのは、蓋と箱の間から極僅かにはみ出る白い紙の角。
触れるのも怖いのでギーアに頼み、蓋を開けてもらった。
全員が箱の中を覗き込む。
「…メモ、ですかね?」
箱に入っていたのは真っ白な小さな紙切れ。ギーアは何も書いていないそれを取り出して、裏面を確認した。すると、急いで書いたのか、筆跡が乱れた文字が小さく記されている事に気付く。
「フレ…ス、カ?」
「「「フレスカ!?」」」
以外な人物の名前に、バルド達は揃って声を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる