お薬いかがですか?

ほる

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第一章

61. 騎士=変態です。

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「また、あの人は勝手に……」

 茶番のような遣り取りを聞きながら、ガウェインは今日だけで何度も自分を苛んでくる頭痛を少しでも和らげようと、額に手を当て蟀谷を揉んだ。
 アエラウェが絡むと暴走してしまうイクスは何とかならないものだろうか。このまま無視してガルクスを連行してしまいたいが、きっとまた面倒な抵抗に合うだろう。今度はイクスによって。
 深く深く溜息を吐くガウエインに、バルドはある種の同情を覚える。周囲に振り回されて苦労する姿は、己の姿と重なって見えた。

「お互い、苦労するな……」
「冒険者ギルドの……」

 労わる様に掛けられた言葉に、ガウェインはのろのろと顔を上げる。それからガルクスを縛る蔓縄の先をエドナに手渡すと、ガルクスに聞こえないようバルドを促し、距離を取った。バルドの腕にはマリ―ルが居るが、致し方ない。
 距離を十分取った後、ガウェインは苦々しい表情で重い口を開いた。これから頼む内容は、騎士として決して褒められるものではないと自覚して。

「……すまない。冒険者ギルドへの協力要請として扱ってくれて構わない」

 騎士は領主、もしくは国に所属する者達だ。その騎士から冒険者ギルドへの要請は、余程の戦力不足や緊急性があるものでもなければ滅多に無い。冒険者ギルドへの借りを作る事。それは騎士の力量不足でもあり、恥であるからだ。
 だが、今回の要請はそれだけではなく、ガウェインの騎士としての信念を曲げる事でもあった。一般人を囮に使い、証拠集めまでやらせようとしているのだ。警備兵の中に信用できる人手があれば、こんな事は決して頼まなかった。
 バルドはガウェインの言わんとする事を直ぐに理解出来たが、ひとつ、確認しておきたい事があった。

「……伝手はあるのか?」

 恐らくガウェインは、メルク領主ごとガルクスを貴族裁判で裁くつもりだ。だが騎士クラスとは云え一介の警備兵が、そう易々とそこまで出来るものではない。貴族裁判を開くには貴族院の許可が必要で、大抵そこに書類が届く前に握り潰されてしまう。ましてメルクの領主は人命に手を出し儲けている。その辺りの手回しは済んでいる事だろう。
 バルドの問いに、ガウェインは考え込むように視線を落とした。だが直ぐに視線を戻すと、告げて良いものか躊躇っていた口を開く。

「警備兵として配置されているが、我々の主はメルク領主ではない」

 領主の騎士ではないという事は、各地に騎士を派遣し受け入れさせる事が可能な者だ。それはすなわち。

「国が……関わっていないと信じて良いのか?」
「……少なくとも、我々は仕えている主を信じている」
「そうか……」

 それを聞いて、バルドはイクスを見る。何故か自分にだけ絡んでくるイクスだが、街の者には好かれている真面目な青年だ。ふと視線を感じて自分の胸元へ目線を落とせば、マリールが不安そうな顔でバルドを見つめていた。
 バルドが安心させるようにマリールの頭を撫でてやれば、ほっと力を抜いて、その手に自ら頭を摺り寄せてきた。「大丈夫だ」との意思表示だろう。

「……その要請、うち以外の冒険者ギルドに情報を漏らさず出来るか?」

 ガウェインが訝し気に眉間に皺を寄せるが、バルドは構わず言葉を続けた。
 
「メルクを拠点にしていた冒険者が、隣街からの指名依頼を受けて殺されている。隣町の冒険者ギルドはガルクスと繋がり、護衛として雇わせた冒険者に商人を襲わせていた」
「っ! まさか、その証拠があるのか!?」

 ガウェイン達とて、メルク周辺で商人が盗賊に襲わる事件が頻発しているのは承知している。自分達が港側の警備に出ている時に限ってそれが起きるのだから、不正をしている者が警備兵の中に居るだろう事も、それがガルクスであろう事も容易に見当が付いていた。
 だが、なかなかしっぽを掴めないでいたのだ。被害者は全て亡くなっていて、証拠の品になりそうな何もかも、スライムによって消化されてしまっているのだから。もし証拠があるのなら、是非にも欲しい。
 急いたガウェインがバルドに詰め寄る。だが、出てきた答えは理解しがたい言葉だった。

「ガルクスとその部下に殺された、冒険者と商人に聞いた」
「……なん、だと?」

 ガウェインは寸の間、彼らしからぬ間抜けた顔をした後、みるみる内に怒りで蟀谷に青筋を立てた。殺された者にどうやって聞いたというのだ。こんな時に言う冗談にしては質が悪すぎる。責めるように睨むガウェインに、バルドは表情を崩さぬまま真顔で告げた。

「この子の薬の効果を見ただろう。あの薬の他に、欠損を修復してしまう薬と、一度死んでも条件と運が良ければ蘇生出来る薬がある」
「なっ……」

 驚愕に目を見開いたガウェインが、マリールを見る。確かに先程ガルクスを治した薬の効果は驚くものだった。だがそれ以上の薬を、この小さな子供が持っているという。青い薬の効果を目の当たりにしても、到底信じられない話だ。
 まだ疑うガウェインに、それも仕方ないだろうとバルドは溜息をついた。実際見ないと受け止める事は出来ないだろう。

「この子はエリスティア共和国の保護する『異界の迷い子』だ。マリール、タグを見せてやってくれ」

 マリールはこくりとひとつ頷くと、襟元からするすると紐を手繰り寄せタグの裏面を見せた。見せられたガウェインはというと、例の如くマリールのタグを見て固まっている。色々と問い質したい項目もあるが、というか何だこの石の色はとも思ったが、バルドの言う通り『異界の迷い子』である事は、そこにはっきりと記されていた。

「……」
「画期的な薬を開発し、広める為に旅をしているそうだ。だが、何故かゴルデア国だけで薬の販売許可が下りないらしい」
「……そんな薬の噂は、全く届いていない」
「どういう仕組みかは解らんが、情報が制限されていると見ている」
「……それで、他国との連絡云々か。ならば猶更、この子供を連れて行くのは危険ではないか?」

 ガウェインはバルドの腕の中にいるマリールをまじまじと見詰める。他国では頻繁に現れるらしいが、この国に産まれ、この国から出たことが無いガウェインは『異界の迷い子』を見るのは初めてだ。それにエルフのアエラウェでも珍しいのに、存在すると聞いたこともないハーフエルフとは。優位性は勿論、見目も希少性も揃っているとなれば、狙われるのも当然だった。

「でも、私が行かないと領主館に直ぐには入れないんですよね?」
「それは……だがやはり、許可を取ってからの方が正しいと私は思う。モルガという女性だけでなく、君達までみすみす危険に晒す事は出来ない。――囮になど、したくない」

 フレスカの言う通り、魔導具の鏡が壊された時点で、もう既に証拠隠滅に動いているだろう。故にガルクスをこのまま捕え尋問しても、領主達が無関係である証拠を用意する時間を与えるだけだという事も、ガウェインは分かっている。下手するとガルクスさえも無罪放免となる可能性もだ。
 だが、領主達を追い込む為にこれからやろうとしている事は、マリールの屁理屈に乗って、マリールとアエラウェを囮に現場を押さえようというものだ。これ以上犠牲を増やさない為に、マリール達を犠牲にしようとしている。
 ぎりりと音がするほど自らの拳を握り締め、苦し気に漏らすガウェインの言葉に、マリールはきょとんと目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。

「うっわ~! すっごく優しい騎士様じゃないですか!! ――良かったですね? フレスカさん!」
「……別に」

 いつの間に近くへと来ていたのか。突然話を振られたフレスカが、つい、とそっぽを向いた。その横顔が少し嬉しそうに見えるのは、マリールの気のせいではないだろう。
 
「俺もびっくりー」
「この国の騎士、皆ガルクスみたいなのかと思ってた!」
「なー?」
「あら、この子達は良い子よ? ……ちょっと変な方向に行っちゃった子もいるけど」
「アエラウェ様……! 良い子だなど、そんな……!!」

 突然沸いて出てきた気配と声に、ガウェインはぎょっと身を縮ませた。聞こえないようにと距離を取っていたのに、いつの間にかホビット達やアエラウェとイクスまで背後に立っている。
 慌ててガルクスを探し視線を向ければ、先程と同じ場所でエドナに縄を解けと捲し立てていた。一番聞かせたくないガルクスには聞こえていないようだ。ほっと胸を撫でおろしたガウェインに、トートがにやりと笑った。

「でもわかんないぞ~。イクスって騎士さんみたいに変態かも」
「だな! 二人も変態騎士いるもんなー!」
「なーなー、アンタ何の変態なんだ?」
「一緒にしないでくれ……!」

 茶化すホビット達に言い返して、思い詰めていたガウェインの強張りが少し緩む。マリールとバルドは顔を見合わせて、それから ふ と顔を崩して笑った。

 ホビット達によって、騎士=変態と広まるのも、あっという間かもしれない。
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