魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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呪われた畑

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 今回の依頼は、畑に起きた異変の原因を特定して解決すること。

 ひとしきり状況を聞き終えた師弟は、現地を確認することにしました。

「おや、ジョンも来るんか? 店はいいのかの?」
「紹介して終わりでは、無責任ですから。最後まで付き合うつもりで、店は臨時休業にしました」

 旧知の仲といっても、数年間パウロとは疎遠でした。弟子の修行の一環ということで引きうけていますが、本来であれば一般市民が気軽に頼み事をできる相手ではないのです。
 万が一にもラファエロに失礼のないように――と、ジョンは説明しましたが、本音は逆です。
 この師弟がやらかさないか心配なのです。

 まずラファエロ。
 彼の魔法の腕は不可能を可能にするほどです。
 故に常識が抜け落ちている御仁なので、よかれと思ってとんでもないことをしてしまう恐れがあるのです。

 そしてミカエル。
 学力面では飛び抜けた頭脳の持ち主ですが、師匠であり養父でもあるラファエロを容赦なく弄っているように、慇懃無礼というかデリカシーが欠如しています。

 辺鄙な場所に住むラファエロをわざわざ訪ねて、弟子の練習台でも良いから依頼したいと言うのは、基本的に追い詰められた者です。
 心に余裕のない状態で、こまっしゃくれた少年にあれこれ言われたパウロがカチンときて揉める可能性は大いにあります。
 トラブルを未然に防ぐのは、自分自身のため。己が平和に暮らしたいだけ――と、ジョンは常々言っていますが、それなら最初から見て見ぬふりをすれば良いのです。
 それができない時点で、彼は人並み以上に面倒見の良い男なのでした。



「この辺りは畑が多いんですね」
「昔から住んでいる人が、家のそばに畑を持っているだけですよ」

 周囲を見回すミカエルに、広い土地を放置したら荒れるので、なにかしら育てているのだとパウロは説明しました。

「農業として本格的にやっている家もあれば、家庭菜園くらいにしているところもあります」
「ふぅん。土地が広いので家同士がかなり離れていますね。ご近所付き合いはどうされているんですか?」

 依頼をこなすのはミカエルなので、目についたものがあればすかさず依頼人に確認します。
 ラファエロも同行していますが、彼は保護者であり監督役です。
 余計な口出しは控え、弟子の手に余ると判断したらバトンタッチする予定です。

「……少なくともウチとは交流がありませんね。親の時はどうだか記憶にありませんが」

「ここには農業協同組合ギルドがないんですね」

「あれがあるのは、地域で本格的に取り組んでいる場所ですよ。この村は本業でやっている者も少なければ、好きに育てたものを、市場で個人販売して何とかなるので必要ないんです」

「なるほど。ところで案山子の見た目が統一されているのは、何か意味があるんですか?」

 ミカエルは案山子を指さしました。
 黒い毛糸や、黒く染めた麻紐で作った髪の毛。大きな三角帽子は、ただ載せてあるのではなく、風で飛ばないよう固定されています。帽子と同じ布で作られた服は、ガウンのような簡単な作りですが、帽子と組み合わせることによって、魔法使いのローブに見えないこともありません。
 道すがら数えたところ、八体も同じデザインの案山子を見かけました。
 民俗学も嗜んでいるミカエルですが、この辺りにそんな伝説があったとは知りませんでした。

「ああ! あれは大魔法使い様がモデルです」
「わし!?」

 ラファエロは思わず声を上げました。

「わしの実家は木こりじゃったし、わし自身も農業とは縁もゆかりもないんじゃが……」

「直接的な繋がりはなくても、有名な方が近所に住まれているということで。少しでもあやかろうとしただけです。深い意味はないんですが、気分を害されたならすみません」

「別にそのくらいで気を悪くしたりはせんが」

「そうですよ。うちの師匠は心が広いので、ご自分の磔祭が通年で開催されていたところで気にもとめませんよ」

「それはちょっと嫌かも」

 ミカエルのせいで磔刑に処されているように見えてしまい、顔を顰めるラファエロでした。



 畦道を歩くことしばし。村の中心地から離れた場所にある田畑のなかでも、一際端の方にパウロの畑がありました。

「ここには師匠がいないんですね」

「わしここにおるけど! いない者として扱うとか酷くない!?」

「すみません、言葉が悪かったですね。パウロさんの畑では、師匠人形が鳥葬されていないんだな、と」

「言い直した方が悪くなっとる! ワザとじゃろ! さては、昨夜ベッドの中に持ち込んだ本を取り上げたことを根にもっとるんじゃな。読書は一日十時間までじゃ!」

「いや、その数字はおかしくありませんか」

 ラファエロの言葉に、ジョンが待ったをかけました。

「え? そう?」

 子育て初心者のラファエロは、弟たちを育て上げたジョンを大いに頼りにしていました。

「ですよね! 子どもは遊ぶのが仕事と言いますし、ぼくにとって読書は遊びと同等と考えれば、起きている時間=読書時間でいいですよね!」

「期待しているところ悪いけど、十時間は長すぎるって意味だからな」

 ジョンの言葉を聞いたミカエルの瞳は、たちまち死んだ魚の目になりました。まだ朝市で売られている魚の方が、生気があるかもしれません。

「ふむ。世間では何時間ぐらいが適切なんじゃ?」
「お二人とも、それよりも今は依頼に集中しましょう。パウロさん、話が脱線してしまって、すみません」

 制限解除どころか、更に厳しくなりそうな気配を感じて、ミカエルは話を強引に戻しました。

「構いませんよ。うちは案山子じゃなくて、虎挟みを仕掛けているので足下に気をつけてくださいね」

 パウロは罠を仕掛けている場所を指さしました。

「……畑の面積のわりに、数が多い気がするんですが」
「四個セットで売られていたので、そのまま設置しただけですよ」
「農具って、どこで売っているんですか?」
「予算を伝えて、鍛冶屋に依頼するんです」
「……なるほど」
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