魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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呪われた畑

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「畑に異常を感じたあなたは、まず近所の住民を疑った。師匠――じゃなくて案山子を置かずに、虎挟みを設置したのは、畑に細工したであろう人物を捕まえるためです」

 ミカエルの指摘に、パウロの顔が強ばりました。

「なっ、なにを根拠に――!」
「農具は受注生産なのに、四個セットで売っていたなんておかしな話です。咄嗟に嘘をついたから、矛盾してしまったんですよね」

 強靱な肉体を持つ獣人であっても、虎挟みに足を挟まれたら重症になります。パウロは自らの手で報復してやるつもりだったのです。
 しかし犯人が再び現れることは無く、畑の状態が悪化したまま時間だけが過ぎていきました。

「あなたは畑を元に戻し、なおかつ犯人を見つけてとっちめてやりたかった。だからぼくたちに依頼したんです」
「何故そこでミカエル達に繋がるんだ?」

 ジョンに質問されたミカエルは淡々と答えました。

「余所者だからです。田舎の人間関係は複雑です。何年も地元を離れていたパウロさんには、住民の相関図がわからなかった。迂闊に犯人捜しをしたら、村八分にされてしまうかもしれない。だから、移住者で村の住民とは距離を置いて暮らしているぼくたちに目をつけた」

「パウロ、そうだったのか……?」

 旧友の目を見ることができず、パウロは俯きました。
 ジョンのことは信頼しています。でも犯人がジョンの側にいるかもしれないと考えると、うかつに相談できませんでした。

「魔法使いなら畑の改善だけじゃなく、誘導次第で犯人捜しと、お仕置きまでセットで頼めると考えたんでしょう」

 三人の視線を浴びたパウロは、ゆるゆると頷きました。

「しかし、パウロが犯人というのはどういうことなんじゃ?」
「実はお隣も堆肥を作って販売しているんですが、ここと違って臭いがしませんでした」
「材料が違うんじゃないのか? うちは家畜の糞尿を使った動物質堆肥だが、落ち葉や野菜屑を使った植物質堆肥なら――」
「いいえ。鶏糞を使った堆肥でしたよ。実物を見せてもらいました」
「山羊と鶏でそんなに差が出るものなのか?」

 ジョンの言葉に、ミカエルは首を振りました。

「完熟した堆肥はほとんど臭いがしません。パウロさんが未完熟の堆肥を畑にまいたのが異常の原因です」

 堆肥は熟成の過程で堆肥は高温状態になります。この期間に病原微生物や雑草が死滅するのですが、生き残った状態で畑にまいたため、雑草が蔓延り、微生物によって土壌の窒素が消費されて作物の育ちが悪く、ガスも発生して酸素不足になり作物障害が起きたのです。

「ちょっと待て。パウロが堆肥を使ったのは、初年度からだろ。その理屈だと去年から失敗しているはずだ」

「初年度は手際が悪かったから難を逃れたんでしょう。未熟な堆肥を撒いてしまっても、土中で発酵が終わるのを待ってから作付けすれば問題ありません。初めての農業でスムーズに作業できなかったから、去年は作付けする頃には肥料が完熟していた。勤勉なパウロさんは、前回の反省を活かして無駄なく作業したから、今年は未熟なまま作付けしてしまった――これが真相です」

「そんな――! おれはちゃんと本の通りにしたのに!」

「発酵石は、あくまで触媒として反応を促進させるだけです。あの本は気温の高い地域で書かれた本で、この辺りは涼しい土地です。同じ日数でも反応速度が違います」

「っじゃあ、どうすればよかったんだ!」

 我慢できず叫んだパウロに怯むこと無く、ミカエルは指を立てました。

「ご近所付き合いです」

「――え?」

「ご近所付き合いって響きからして煩わしいですよね。若い人なら、言葉だけで嫌厭するのも無理はありません。言い方を変えましょう。お互いの利益のために、隣人と協力し合うんです」

 この場の誰よりも若い少年が訳知り顔で語りました。

「お隣に済んでいるのは美人三姉妹です」
「え!?」

 パウロの口から出た音は先ほどと一緒ですが、含まれる感情が先ほどとは違います。

「女性だけで暮らしているので、防犯面で不安があるようです。ボディガード兼男手として、市場や取引先にパウロさんが同行するだけで、だいぶ違うと思います」

 お世辞にも強そうには見えないパウロですが、男が側にいるだけで避けられるトラブルもあります。

「本で学べるのは理論だけです。協力する代わりにお隣から実践的な堆肥作りを学ばせてもらったり、いっそ自分で作るのは止めて完成品を譲ってもらえばいいでしょう。――だって、自己完結型農業を目指した理由って、人付き合いをせずやっていくためでしょ。お隣と協力するなら、全部自力で頑張る必要ありませんよね」

 両親と同じ方法でしてもよかったのに、パウロはあえて労力が増す方法を選びました。それは従来通りだと、他人から肥料を購入しなければいけないからです。

「でも、今更ご近所付き合いなんて……」
「パウロさんなら、簡単だと思います」
「どうして言い切れるんだ?」
「お隣のお姉さん達、みんな長い髪を結ってました。多分、髪を切りに行けないからだと思います」

 清楚な長女、色気のある次女、可愛らしい三女。
 似合う髪型はそれぞれ違うはずなのに、揃って似たようなヘアスタイルでした。
 女性向けのお洒落な美容室は町にしかありません。都会から逃げてきた姉妹が髪を切りに行くとしたら、村の床屋になるのですが、若い女性には入りにくいのでしょう。

「話を聞く限りパウロさんは、忙しない働き方に疲れたのであって、美容師の仕事が嫌いになったわけじゃないんですよね。ひっきりなしにお客さんが来る店で長年働いていたってことは、人気のお店の美容師だったんじゃないですか?」

「まあ、あの町では一番だったかな」

 加えてパウロは『一日に五人くらいの客』と言っていました。
 それでいてまともに休憩時間を取れていなかったのですから、一人あたりに時間をかけるタイプの高級店だと推測できます。富裕層に接客していたパウロであれば、男性不信気味の姉妹を不快にさせることはないでしょう。

「ちょっと遅れたけど、これから引っ越しの挨拶に行きましょう。ぼくも付き添いますから、心配無用です」
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