12 / 50
脱サラ爺さん赤ん坊を拾う
物音したる箱なむ一箱ありける 1
しおりを挟む
全容を把握したラファエロは、ふぅと溜息をつきました。
「これが同族かと思うと、恥ずかしいわい」
足下で絶命しているのは、見た目通りの連中でした。
貴重な魔物(モンスター)を捕らえて売ろうと、男たちはまずダイアウルフの子を罠にかけました。そして親を脅して、かつて奴隷契約に使われていた魔導具を使って従属させようとしたのです。
親をおびき出すために痛めつけられた子どもが、一矢報いようと男の喉元に食らいついたのが、惨劇の引き金でした。
仲間を助けようと焦った男たちが子どもを殺してしまい、激怒した親が男たちを襲いました。
もはや捕まえて売るどころではありません。両者は殺し合いになりました。
*
「――そして、待機していた仲間も根絶やしにしたんじゃな」
ラファエロが草をかき分けて進むと、頑丈な檻を搭載した馬車が停まっていました。
周囲にはもちろん死体。ここでの戦闘は奇襲に近かったからか、最初の現場に比べると周囲が荒れていません。
襲撃者を片付けたダイアウルフは、臭いを辿って残党も一掃しました。
ただしダイアウルフも仇を討った後に力尽きてしまったのです。
「欲を持った連中に平和な暮らしを壊されて、さぞ無念じゃったろうなあ」
ラファエロは静かに横たわる親ダイアウルフを撫でました。固まった血で毛並みはゴワゴワです。
静まりかえった空間で、同じ人族である男たちよりも、魔物(モンスター)の方に同情しているとカタリと物音が聞こえました。
「え? ポルターガイスト?」
ゴーストの知り合いは何人かいますが、心霊現象となると話は別です。
おっかなびっくりしながらラファエロは、音の発生源――馬車を覗き込みました。檻の奥に、木箱が乱雑に積まれています。
「ま、まずは透視じゃな」
ビビり――否、慎重さを発揮したラファエロは、安易に近づかず透視魔法で確認することにしました。ちなみにこの魔法は性犯罪に悪用される可能性があるので、使用に制限が設けられています。
許可されるのはクエスト中の斥候職の冒険者、もしくは戦場の兵士のみです。
今のラファエロにはどちらも当てはまっていないのですが、痕跡から魔法を特定するのは非常に高度な技術が必要なので、この程度の事件で検証されることはありません。
つまりバレない。バレなければオッケーなのです。
「――なんてことじゃ!」
木箱のひとつに目をとめたラファエロは、慌てて駆け寄りました。
*
箱を開けた瞬間、赤子特有のふわりとした香りが漂いました。両手で抱えられるくらいの箱の中には、赤ん坊が一人収まっていました。
「ああーう」
ちょうど目が覚めたのか、もぞもぞと身動きしています。
抱き上げると、ふにゃりとした重みと温かさが、ラファエロの涙腺を刺激しました。
鼻がきくダイアウルフが赤子の存在に気付かなかったとは思えません。
始末する前に力尽きたのか、見逃したのか今となってはその真意を知るすべはありません。
「しかし連中の子にしては、扱いがなんとも言えんのう」
「んーう」
襲撃してきたダイアウルフから隠すためと思えば、木箱に入れられていたことは理解できます。
しかし赤子の姿からは、子を守ろうとする親の情を感じることができませんでした。薄汚れたおくるみは、連中のバンダナよりも質の悪い布だったのです。
「山賊だが盗賊だかわからんが、連中と血が繋がっていると思えん見た目じゃな」
「あぅええ」
先ほどからラファエロの言葉に律儀に反応していますが、見知らぬ人間に抱かれているというのに泣き出す気配はありません。
「美しい娘を拐かして産ませたか、それともどこぞから浚ってきたか……」
青みがかった銀髪は、まだ生えそろっていないにも関わらず天使の輪ができています。傷ひとつないミルク色の肌も、薔薇の花のような唇も、うっすら開いた紫水晶のような瞳もまるで妖精のようです。
これだけ美しい赤子なら、身代金目的ではなく奴隷として売り飛ばすこともできたでしょう。
「これが同族かと思うと、恥ずかしいわい」
足下で絶命しているのは、見た目通りの連中でした。
貴重な魔物(モンスター)を捕らえて売ろうと、男たちはまずダイアウルフの子を罠にかけました。そして親を脅して、かつて奴隷契約に使われていた魔導具を使って従属させようとしたのです。
親をおびき出すために痛めつけられた子どもが、一矢報いようと男の喉元に食らいついたのが、惨劇の引き金でした。
仲間を助けようと焦った男たちが子どもを殺してしまい、激怒した親が男たちを襲いました。
もはや捕まえて売るどころではありません。両者は殺し合いになりました。
*
「――そして、待機していた仲間も根絶やしにしたんじゃな」
ラファエロが草をかき分けて進むと、頑丈な檻を搭載した馬車が停まっていました。
周囲にはもちろん死体。ここでの戦闘は奇襲に近かったからか、最初の現場に比べると周囲が荒れていません。
襲撃者を片付けたダイアウルフは、臭いを辿って残党も一掃しました。
ただしダイアウルフも仇を討った後に力尽きてしまったのです。
「欲を持った連中に平和な暮らしを壊されて、さぞ無念じゃったろうなあ」
ラファエロは静かに横たわる親ダイアウルフを撫でました。固まった血で毛並みはゴワゴワです。
静まりかえった空間で、同じ人族である男たちよりも、魔物(モンスター)の方に同情しているとカタリと物音が聞こえました。
「え? ポルターガイスト?」
ゴーストの知り合いは何人かいますが、心霊現象となると話は別です。
おっかなびっくりしながらラファエロは、音の発生源――馬車を覗き込みました。檻の奥に、木箱が乱雑に積まれています。
「ま、まずは透視じゃな」
ビビり――否、慎重さを発揮したラファエロは、安易に近づかず透視魔法で確認することにしました。ちなみにこの魔法は性犯罪に悪用される可能性があるので、使用に制限が設けられています。
許可されるのはクエスト中の斥候職の冒険者、もしくは戦場の兵士のみです。
今のラファエロにはどちらも当てはまっていないのですが、痕跡から魔法を特定するのは非常に高度な技術が必要なので、この程度の事件で検証されることはありません。
つまりバレない。バレなければオッケーなのです。
「――なんてことじゃ!」
木箱のひとつに目をとめたラファエロは、慌てて駆け寄りました。
*
箱を開けた瞬間、赤子特有のふわりとした香りが漂いました。両手で抱えられるくらいの箱の中には、赤ん坊が一人収まっていました。
「ああーう」
ちょうど目が覚めたのか、もぞもぞと身動きしています。
抱き上げると、ふにゃりとした重みと温かさが、ラファエロの涙腺を刺激しました。
鼻がきくダイアウルフが赤子の存在に気付かなかったとは思えません。
始末する前に力尽きたのか、見逃したのか今となってはその真意を知るすべはありません。
「しかし連中の子にしては、扱いがなんとも言えんのう」
「んーう」
襲撃してきたダイアウルフから隠すためと思えば、木箱に入れられていたことは理解できます。
しかし赤子の姿からは、子を守ろうとする親の情を感じることができませんでした。薄汚れたおくるみは、連中のバンダナよりも質の悪い布だったのです。
「山賊だが盗賊だかわからんが、連中と血が繋がっていると思えん見た目じゃな」
「あぅええ」
先ほどからラファエロの言葉に律儀に反応していますが、見知らぬ人間に抱かれているというのに泣き出す気配はありません。
「美しい娘を拐かして産ませたか、それともどこぞから浚ってきたか……」
青みがかった銀髪は、まだ生えそろっていないにも関わらず天使の輪ができています。傷ひとつないミルク色の肌も、薔薇の花のような唇も、うっすら開いた紫水晶のような瞳もまるで妖精のようです。
これだけ美しい赤子なら、身代金目的ではなく奴隷として売り飛ばすこともできたでしょう。
17
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる