魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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脱サラ爺さん赤ん坊を拾う

物音したる箱なむ一箱ありける 1

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 全容を把握したラファエロは、ふぅと溜息をつきました。

「これが同族かと思うと、恥ずかしいわい」

 足下で絶命しているのは、見た目通りの連中でした。
 貴重な魔物(モンスター)を捕らえて売ろうと、男たちはまずダイアウルフの子を罠にかけました。そして親を脅して、かつて奴隷契約に使われていた魔導具を使って従属させようとしたのです。

 親をおびき出すために痛めつけられた子どもが、一矢報いようと男の喉元に食らいついたのが、惨劇の引き金でした。
 仲間を助けようと焦った男たちが子どもを殺してしまい、激怒した親が男たちを襲いました。
 もはや捕まえて売るどころではありません。両者は殺し合いになりました。



「――そして、待機していた仲間も根絶やしにしたんじゃな」

 ラファエロが草をかき分けて進むと、頑丈な檻を搭載した馬車が停まっていました。
 周囲にはもちろん死体。ここでの戦闘は奇襲に近かったからか、最初の現場に比べると周囲が荒れていません。
 襲撃者を片付けたダイアウルフは、臭いを辿って残党も一掃しました。
 ただしダイアウルフも仇を討った後に力尽きてしまったのです。

「欲を持った連中に平和な暮らしを壊されて、さぞ無念じゃったろうなあ」

 ラファエロは静かに横たわる親ダイアウルフを撫でました。固まった血で毛並みはゴワゴワです。
 静まりかえった空間で、同じ人族である男たちよりも、魔物(モンスター)の方に同情しているとカタリと物音が聞こえました。

「え? ポルターガイスト?」

 ゴーストの知り合いは何人かいますが、心霊現象となると話は別です。
 おっかなびっくりしながらラファエロは、音の発生源――馬車を覗き込みました。檻の奥に、木箱が乱雑に積まれています。

「ま、まずは透視じゃな」

 ビビり――否、慎重さを発揮したラファエロは、安易に近づかず透視魔法で確認することにしました。ちなみにこの魔法は性犯罪に悪用される可能性があるので、使用に制限が設けられています。
 許可されるのはクエスト中の斥候職の冒険者、もしくは戦場の兵士のみです。
 今のラファエロにはどちらも当てはまっていないのですが、痕跡から魔法を特定するのは非常に高度な技術が必要なので、この程度の事件で検証されることはありません。
 つまりバレない。バレなければオッケーなのです。

「――なんてことじゃ!」

 木箱のひとつに目をとめたラファエロは、慌てて駆け寄りました。



 箱を開けた瞬間、赤子特有のふわりとした香りが漂いました。両手で抱えられるくらいの箱の中には、赤ん坊が一人収まっていました。

「ああーう」

 ちょうど目が覚めたのか、もぞもぞと身動きしています。
 抱き上げると、ふにゃりとした重みと温かさが、ラファエロの涙腺を刺激しました。
 鼻がきくダイアウルフが赤子の存在に気付かなかったとは思えません。
 始末する前に力尽きたのか、見逃したのか今となってはその真意を知るすべはありません。

「しかし連中の子にしては、扱いがなんとも言えんのう」
「んーう」

 襲撃してきたダイアウルフから隠すためと思えば、木箱に入れられていたことは理解できます。
 しかし赤子の姿からは、子を守ろうとする親の情を感じることができませんでした。薄汚れたおくるみは、連中のバンダナよりも質の悪い布だったのです。

「山賊だが盗賊だかわからんが、連中と血が繋がっていると思えん見た目じゃな」
「あぅええ」

 先ほどからラファエロの言葉に律儀に反応していますが、見知らぬ人間に抱かれているというのに泣き出す気配はありません。

「美しい娘を拐かして産ませたか、それともどこぞから浚ってきたか……」

 青みがかった銀髪は、まだ生えそろっていないにも関わらず天使の輪ができています。傷ひとつないミルク色の肌も、薔薇の花のような唇も、うっすら開いた紫水晶のような瞳もまるで妖精のようです。
 これだけ美しい赤子なら、身代金目的ではなく奴隷として売り飛ばすこともできたでしょう。
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