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脱サラ爺さん赤ん坊を拾う
物音したる箱なむ一箱ありける 2
しおりを挟む「とりあえずわかる範囲で、報告するとするか」
生後間もない赤子相手に鑑定魔法をかけても、得られる情報は限られています。せいぜい名前と性別、種族、加護持ちであるかくらいです。
「なぬ!?」
ため息をつきながら魔法を発動させたラファエロは、バチンと反発をくらって目を見張りました。
「嘘じゃろ」
驚愕するラファエロの腕の中で、赤子はきょとんとしています。
「い、今のは本気じゃなかったもんね」
魔法を無効化する方法は三つだけです。
一つ目は向けられた魔法と反対の波長を持つ魔導具を使う、二つ目は結界や陣地を作成して魔法が発動できない空間をつくる、三つ目は魔力で身体を覆って力業で弾くことです。
今しがた起きた現象は三つ目の方法です。
気を抜いていたとはいえ、ラファエロの魔法を弾くなんて相当のものです。
「赤子は魔力の使い方なんぞ知らんだろうし、本能的に全力で抵抗したんじゃろうな」
自分に言い聞かせるような解釈をすると、ラファエロは鑑定魔法をかけ直しました。
今度は全力です。赤子相手に本気を出す七十二歳の図です。
「……名無しか」
鑑定の結果、赤子は男で人族としかわかりませんでした。名前が出てこなかったということは、この赤子は洗礼を受けていないのです。
*
オズテリアでは子どもが産まれたら、まず教会に連れて行きます。
そこで洗礼をうけることで名前が魂に刻まれ、魔力の有無がわかるのです。
もし洗礼で魔力持ちだと判明したら、魔力暴走や魔法犯罪を防ぐために親には養育費が支払われ、子どもはしかるべき場所で教育を受ける権利を与えられます。
孤児だったとしても、魔力持ちだと判明したら手厚く保護してもらえます。
逆に洗礼を受けないことによるメリットはありません。長期間同じ名前で呼ばれても、魂に名前が刻まれるので、たとえば密偵にするために洗礼を逃れても意味は無いのです。
むしろ公的機関に就職する際には鑑定魔法を受ける義務があるので、名無しや、明らかにコードーネームという結果が出てしまったらその時点でお縄になります。
「ううむ。困ったのう」
もし誘拐されていた場合、オズテリアで洗礼を受けさせない親など、育児放棄か邪教に染まっているかの二択です。親元に帰したところで、子どもの未来は明るくないでしょう。
馬車の外で死んでいる連中の子どもだった場合は言わずもがな。
犯罪者の子として、孤児院でも肩身の狭い思いをして生きていくことになるでしょう。
ラファエロは腕の中の赤子を見つめました。
再び夢の世界に戻った赤子は、ラファエロの胸に頭を預けて安心しきった寝顔を晒しています。ふくふくとした頬が重力に従ってたゆんと流れています。
誘われるように頬を突いたラファエロは「ふわっ! なにこれ液体!?」とその柔らかさに驚きました。
「……もふもふじゃないけど、ぷにぷにじゃな」
ラファエロの悪い癖が発動しました。
幼い頃から卓越した力を持っていたために、同世代どころか大人にも頼られては、快く応じてきたラファエロ。だって感謝されるのも、褒められるのも嬉しかったし、他人には難しいことでも彼にとっては大した問題ではなかったからです。
反抗期真っ盛りの頃ですら「やれやれ」と言いながら、持ち込まれる無理難題を大した報酬もなしに引きうけていました。ここまでくると承認欲求ではなく、便利なお人好しです。
そんなラファエロは、明らかに厄介事であっても、あれこれ理由をつけては抱えこんでしまう習い性がありました。
「子どもを育てると、若々しくあれると言うしのう」
ラファエロは同窓会という名の、マウント合戦で交わされた会話を思い出しました。
育児という責任感と、子どもから受ける刺激。これらのおかげで周囲に比べると若々しくあれるのだと、多忙な娘夫婦の代わりに孫を育てている同級生が言っていました。
「この山に住んでいるダイアウルフは、あの親子だけじゃったし……。ペットを飼う代わりに、子育てというのもありかもしれんな」
愛玩動物と養子では育成の難易度が段違いなのですが、ラファエロは気付かぬふりをしました。
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