魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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脱サラ爺さん赤ん坊を拾う

やるなよ!絶対にやるなよ! 1

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 そわそわしながらラファエロの帰還を待ちわびていた村長は、想定外の出来事に驚きました。
 山岳地帯にはいくつか村が存在します。村長とて全てを把握しているわけではありませんが、口減らしで赤子を捨てるような貧しい村はなかったはずです。

「捨て子ですか? この山で?」
「そうじゃ。下山中に拾った」

 ラファエロは赤子の発見場所について嘘をつきました。

「もしかしたら浚われたのかもしれん。その場合は親が届けを出しているはずじゃ」
「そ、そうですよね。すぐに確認します」

 すやすやと眠る赤子は、天使のような愛らしさです。いくら貧しくても、自分ならこんな幼子を山に捨てるなんてことできません。村長は急ぎ各村に向けて伝書鳩を飛ばしました。



 返信を待つ間、ラファエロは禁足地で起きた出来事を報告しました。
 ダイアウルフの親子が亡くなったため、もう縄張りに足を踏み入れても襲われることはありません。
 この先は騎士団の仕事です。襲撃犯たちは特徴的な入れ墨をしていたので、現場を調べれば正体が特定できるでしょう。

「……どこの村にも、誘拐の被害届はありませんでした」
「そうじゃったか」

 予想通りの展開ですが、ラファエロはしらばっくれました。

「人口が少ない村なので、私は村長の他に孤児院の院長も兼任しています。これだけ器量が良ければ、すぐに養子に望まれるでしょう……」

 孤児院としても保護できる子どもの数には限りがあります。すぐに引き取り手が現れそうな子どもは、商家や貴族に積極的に売り込みます。よくあることですが、聞いていて気分が良いものではないだろうと、村長の声は徐々に小さくなっていきました。

「この子は変わった体質の持ち主じゃが、孤児院ではその辺も対応できるのかの?」
「え?」
「見てみい。首がすわらんうちに、野外に放置されていたのに、全く衰弱しておらんじゃろ」
「言われてみればそうですね」

 ラファエロに発見されるまで、どの程度時間が経過していたかわかりませんが、なんとも不思議な話です。

「どうも魔力回路が独立しておらんようじゃ」
「えっと、すみません。どういうことでしょうか?」
「魔力と生命力が直結しておる。今回は魔力が十分あったから肉体が弱ることもなかったが、裏を返せば魔力が枯渇すれば命を落とすやもしれん」
「そんな!」
「ふむ。おぬしの反応を見る限り、珍しいようじゃな」

 木箱から発見した時にラファエロは、すぐに赤子の体質に気付きました。
 連中が禁足地に足を踏み入れてから今日までそれなりの日数が経っています。
 遺体の状態からも、全滅してから数日は経過しています。絶食状態で放置されていた赤子が、こんなに健やかなはずがないのです。

 産まれたばかりの身体は未熟と聞きます。
 魔力回路の問題が成長と共に自然と正常になるのか、子どもにはよくあることで治療可能なのか、それとも終生付き合わなければならない体質なのか。
 ラファエロな専門外なので、孤児院の経営者だという村長に確認したのでした。

「先代から孤児院を引き継いで二十年くらい経っていますが、初めてのケースです。あっ、洗礼済みの魔力持ちであれば、身元の特定ができるかもしれませんよ」

 教会に問い合わせれば、記録が残っているはずです。

「いや、鑑定魔法で確認したが、この子はまだ洗礼を受けとらんかった」
「そうでしたか……」

 しばし考え込んだ村長でしたが「洗礼ついでに教会に相談しましょう」と言いました。

「それもありじゃが、こういうのはどうじゃろうか――……」

 ラファエロの提案に、最初こそ不安そうな顔をした村長でしたが、次第にその表情は明るいものになっていきました。



【靴は靴屋】
 素人が作ったものは、職人のそれとは出来が比べるべくもない。
 もしくは、見よう見まねで作った靴を履けば靴擦れするように、生半可な知識で行うと、かえって事態を悪化させてしまうという諺です。

 赤子の世話など初めてなラファエロは、村にある孤児院を訪ねました。
 責任者は村長ですが、その妻が副院長として現場を取り仕切っていました。

「――……生まれ月が定かでは無い子もいるので、うちでは首がすわってから二ヶ月を目安に離乳食を開始しています。早いと生後三ヶ月ですが、遅くとも五ヶ月過ぎればほぼ全員完了しますからね」

 夫である村長から事前に聞いていたのか、息子ぐらいの年齢にしか見えないラファエロが訪ねてきても、疑うこと無く応接間に通しました。
 ただし滅多にお目にかかれないレベルの美形を前にして、少しばかり声が上ずってしまったのはご愛嬌というものです。

「ふうむ。ならばミカエルには当分先の話じゃな」

 ラファエロは、膝の上で手足をバタつかせている赤子――ミカエルを見下ろしました。

「ええ。とはいえ育児は子どものペースに合わせることが大切です。姿勢以外にも『大人が食べる姿や食べ物に興味を示す』『スプーンを口に入れても押しだそうとしない』といった風に、次の段階に進んでもよさそうでれば少しずつ開始します。個人差がありますが、ちゃんと成長するので決して焦らないでくださいね」

 副院長は物腰柔らかな女性でした。
 ラファエロの容姿に慣れると、落ち着いた口調で子育てについてわかりやすく説明し始めました。

「ここでは乳児には何を与えておるんじゃ?」

「もらい乳ができる時は、協力してもらっていますが、そうそう都合良くはいきません。基本は山羊の乳で、それも難しい時は穀物を煮溶かした上澄みです。後者になるにつれて栄養が偏っていくので、林檎の絞り汁を足すこともあります」

「ううむ、判断が難しそうじゃのう。……そうじゃ。ちょいと性別を変えて、女になるのはどうじゃろうか」

「はい!?」
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