14 / 50
脱サラ爺さん赤ん坊を拾う
やるなよ!絶対にやるなよ! 1
しおりを挟む
そわそわしながらラファエロの帰還を待ちわびていた村長は、想定外の出来事に驚きました。
山岳地帯にはいくつか村が存在します。村長とて全てを把握しているわけではありませんが、口減らしで赤子を捨てるような貧しい村はなかったはずです。
「捨て子ですか? この山で?」
「そうじゃ。下山中に拾った」
ラファエロは赤子の発見場所について嘘をつきました。
「もしかしたら浚われたのかもしれん。その場合は親が届けを出しているはずじゃ」
「そ、そうですよね。すぐに確認します」
すやすやと眠る赤子は、天使のような愛らしさです。いくら貧しくても、自分ならこんな幼子を山に捨てるなんてことできません。村長は急ぎ各村に向けて伝書鳩を飛ばしました。
*
返信を待つ間、ラファエロは禁足地で起きた出来事を報告しました。
ダイアウルフの親子が亡くなったため、もう縄張りに足を踏み入れても襲われることはありません。
この先は騎士団の仕事です。襲撃犯たちは特徴的な入れ墨をしていたので、現場を調べれば正体が特定できるでしょう。
「……どこの村にも、誘拐の被害届はありませんでした」
「そうじゃったか」
予想通りの展開ですが、ラファエロはしらばっくれました。
「人口が少ない村なので、私は村長の他に孤児院の院長も兼任しています。これだけ器量が良ければ、すぐに養子に望まれるでしょう……」
孤児院としても保護できる子どもの数には限りがあります。すぐに引き取り手が現れそうな子どもは、商家や貴族に積極的に売り込みます。よくあることですが、聞いていて気分が良いものではないだろうと、村長の声は徐々に小さくなっていきました。
「この子は変わった体質の持ち主じゃが、孤児院ではその辺も対応できるのかの?」
「え?」
「見てみい。首がすわらんうちに、野外に放置されていたのに、全く衰弱しておらんじゃろ」
「言われてみればそうですね」
ラファエロに発見されるまで、どの程度時間が経過していたかわかりませんが、なんとも不思議な話です。
「どうも魔力回路が独立しておらんようじゃ」
「えっと、すみません。どういうことでしょうか?」
「魔力と生命力が直結しておる。今回は魔力が十分あったから肉体が弱ることもなかったが、裏を返せば魔力が枯渇すれば命を落とすやもしれん」
「そんな!」
「ふむ。おぬしの反応を見る限り、珍しいようじゃな」
木箱から発見した時にラファエロは、すぐに赤子の体質に気付きました。
連中が禁足地に足を踏み入れてから今日までそれなりの日数が経っています。
遺体の状態からも、全滅してから数日は経過しています。絶食状態で放置されていた赤子が、こんなに健やかなはずがないのです。
産まれたばかりの身体は未熟と聞きます。
魔力回路の問題が成長と共に自然と正常になるのか、子どもにはよくあることで治療可能なのか、それとも終生付き合わなければならない体質なのか。
ラファエロな専門外なので、孤児院の経営者だという村長に確認したのでした。
「先代から孤児院を引き継いで二十年くらい経っていますが、初めてのケースです。あっ、洗礼済みの魔力持ちであれば、身元の特定ができるかもしれませんよ」
教会に問い合わせれば、記録が残っているはずです。
「いや、鑑定魔法で確認したが、この子はまだ洗礼を受けとらんかった」
「そうでしたか……」
しばし考え込んだ村長でしたが「洗礼ついでに教会に相談しましょう」と言いました。
「それもありじゃが、こういうのはどうじゃろうか――……」
ラファエロの提案に、最初こそ不安そうな顔をした村長でしたが、次第にその表情は明るいものになっていきました。
*
【靴は靴屋】
素人が作ったものは、職人のそれとは出来が比べるべくもない。
もしくは、見よう見まねで作った靴を履けば靴擦れするように、生半可な知識で行うと、かえって事態を悪化させてしまうという諺です。
赤子の世話など初めてなラファエロは、村にある孤児院を訪ねました。
責任者は村長ですが、その妻が副院長として現場を取り仕切っていました。
「――……生まれ月が定かでは無い子もいるので、うちでは首がすわってから二ヶ月を目安に離乳食を開始しています。早いと生後三ヶ月ですが、遅くとも五ヶ月過ぎればほぼ全員完了しますからね」
夫である村長から事前に聞いていたのか、息子ぐらいの年齢にしか見えないラファエロが訪ねてきても、疑うこと無く応接間に通しました。
ただし滅多にお目にかかれないレベルの美形を前にして、少しばかり声が上ずってしまったのはご愛嬌というものです。
「ふうむ。ならばミカエルには当分先の話じゃな」
ラファエロは、膝の上で手足をバタつかせている赤子――ミカエルを見下ろしました。
「ええ。とはいえ育児は子どものペースに合わせることが大切です。姿勢以外にも『大人が食べる姿や食べ物に興味を示す』『スプーンを口に入れても押しだそうとしない』といった風に、次の段階に進んでもよさそうでれば少しずつ開始します。個人差がありますが、ちゃんと成長するので決して焦らないでくださいね」
副院長は物腰柔らかな女性でした。
ラファエロの容姿に慣れると、落ち着いた口調で子育てについてわかりやすく説明し始めました。
「ここでは乳児には何を与えておるんじゃ?」
「もらい乳ができる時は、協力してもらっていますが、そうそう都合良くはいきません。基本は山羊の乳で、それも難しい時は穀物を煮溶かした上澄みです。後者になるにつれて栄養が偏っていくので、林檎の絞り汁を足すこともあります」
「ううむ、判断が難しそうじゃのう。……そうじゃ。ちょいと性別を変えて、女になるのはどうじゃろうか」
「はい!?」
山岳地帯にはいくつか村が存在します。村長とて全てを把握しているわけではありませんが、口減らしで赤子を捨てるような貧しい村はなかったはずです。
「捨て子ですか? この山で?」
「そうじゃ。下山中に拾った」
ラファエロは赤子の発見場所について嘘をつきました。
「もしかしたら浚われたのかもしれん。その場合は親が届けを出しているはずじゃ」
「そ、そうですよね。すぐに確認します」
すやすやと眠る赤子は、天使のような愛らしさです。いくら貧しくても、自分ならこんな幼子を山に捨てるなんてことできません。村長は急ぎ各村に向けて伝書鳩を飛ばしました。
*
返信を待つ間、ラファエロは禁足地で起きた出来事を報告しました。
ダイアウルフの親子が亡くなったため、もう縄張りに足を踏み入れても襲われることはありません。
この先は騎士団の仕事です。襲撃犯たちは特徴的な入れ墨をしていたので、現場を調べれば正体が特定できるでしょう。
「……どこの村にも、誘拐の被害届はありませんでした」
「そうじゃったか」
予想通りの展開ですが、ラファエロはしらばっくれました。
「人口が少ない村なので、私は村長の他に孤児院の院長も兼任しています。これだけ器量が良ければ、すぐに養子に望まれるでしょう……」
孤児院としても保護できる子どもの数には限りがあります。すぐに引き取り手が現れそうな子どもは、商家や貴族に積極的に売り込みます。よくあることですが、聞いていて気分が良いものではないだろうと、村長の声は徐々に小さくなっていきました。
「この子は変わった体質の持ち主じゃが、孤児院ではその辺も対応できるのかの?」
「え?」
「見てみい。首がすわらんうちに、野外に放置されていたのに、全く衰弱しておらんじゃろ」
「言われてみればそうですね」
ラファエロに発見されるまで、どの程度時間が経過していたかわかりませんが、なんとも不思議な話です。
「どうも魔力回路が独立しておらんようじゃ」
「えっと、すみません。どういうことでしょうか?」
「魔力と生命力が直結しておる。今回は魔力が十分あったから肉体が弱ることもなかったが、裏を返せば魔力が枯渇すれば命を落とすやもしれん」
「そんな!」
「ふむ。おぬしの反応を見る限り、珍しいようじゃな」
木箱から発見した時にラファエロは、すぐに赤子の体質に気付きました。
連中が禁足地に足を踏み入れてから今日までそれなりの日数が経っています。
遺体の状態からも、全滅してから数日は経過しています。絶食状態で放置されていた赤子が、こんなに健やかなはずがないのです。
産まれたばかりの身体は未熟と聞きます。
魔力回路の問題が成長と共に自然と正常になるのか、子どもにはよくあることで治療可能なのか、それとも終生付き合わなければならない体質なのか。
ラファエロな専門外なので、孤児院の経営者だという村長に確認したのでした。
「先代から孤児院を引き継いで二十年くらい経っていますが、初めてのケースです。あっ、洗礼済みの魔力持ちであれば、身元の特定ができるかもしれませんよ」
教会に問い合わせれば、記録が残っているはずです。
「いや、鑑定魔法で確認したが、この子はまだ洗礼を受けとらんかった」
「そうでしたか……」
しばし考え込んだ村長でしたが「洗礼ついでに教会に相談しましょう」と言いました。
「それもありじゃが、こういうのはどうじゃろうか――……」
ラファエロの提案に、最初こそ不安そうな顔をした村長でしたが、次第にその表情は明るいものになっていきました。
*
【靴は靴屋】
素人が作ったものは、職人のそれとは出来が比べるべくもない。
もしくは、見よう見まねで作った靴を履けば靴擦れするように、生半可な知識で行うと、かえって事態を悪化させてしまうという諺です。
赤子の世話など初めてなラファエロは、村にある孤児院を訪ねました。
責任者は村長ですが、その妻が副院長として現場を取り仕切っていました。
「――……生まれ月が定かでは無い子もいるので、うちでは首がすわってから二ヶ月を目安に離乳食を開始しています。早いと生後三ヶ月ですが、遅くとも五ヶ月過ぎればほぼ全員完了しますからね」
夫である村長から事前に聞いていたのか、息子ぐらいの年齢にしか見えないラファエロが訪ねてきても、疑うこと無く応接間に通しました。
ただし滅多にお目にかかれないレベルの美形を前にして、少しばかり声が上ずってしまったのはご愛嬌というものです。
「ふうむ。ならばミカエルには当分先の話じゃな」
ラファエロは、膝の上で手足をバタつかせている赤子――ミカエルを見下ろしました。
「ええ。とはいえ育児は子どものペースに合わせることが大切です。姿勢以外にも『大人が食べる姿や食べ物に興味を示す』『スプーンを口に入れても押しだそうとしない』といった風に、次の段階に進んでもよさそうでれば少しずつ開始します。個人差がありますが、ちゃんと成長するので決して焦らないでくださいね」
副院長は物腰柔らかな女性でした。
ラファエロの容姿に慣れると、落ち着いた口調で子育てについてわかりやすく説明し始めました。
「ここでは乳児には何を与えておるんじゃ?」
「もらい乳ができる時は、協力してもらっていますが、そうそう都合良くはいきません。基本は山羊の乳で、それも難しい時は穀物を煮溶かした上澄みです。後者になるにつれて栄養が偏っていくので、林檎の絞り汁を足すこともあります」
「ううむ、判断が難しそうじゃのう。……そうじゃ。ちょいと性別を変えて、女になるのはどうじゃろうか」
「はい!?」
16
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる