魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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姿なき呪い

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「マリア殿じゃったか。もしかしてわしらを迎えに来てくれたのかの」
「はい、父に屋敷と店を案内するよう言われました。先ほどは父が失礼しました」

 ミカエルの態度は礼を欠いていましたが、ロベルトも子ども相手に怒鳴っています。ロベルトも顔を合わせづらいのでしょう。
 お互いに頭を冷やすには、時間をあけるのが一番です。

「お嬢さんが謝ることはないぞ」
「ええ、その通りです。ところでマリアさんが持っているのは本ですよね。どんなタイトルですか?」

 部屋を訪れた少女は胸に一冊の本を抱いていました。
 本に目がないミカエルは、さっそく食いつきました。

「これは母の日記です。父は否定しましたが、可能性があるなら調べていただくべきだと思いました」
「ううむ、故人のプライバシーじゃろ。わしらが読んでもいいのかのう」

 調査の一環だからと、遺族が許可していても気がひけます。

「母は常々『商人は、最悪の状況を想定して動くべし』と言っておりました。この日記も、誰かに読まれる可能性を考えて書かれているので大丈夫です」

 マリアは遺品の整理をしている時に、日記を見つけたと言いました。

「実は私も気になることがあったので、見つけたときに悪いと思いながら読んでしまったんです。おかげで、お二人に見せても大丈夫な内容だと言い切れるわけですが……」
「なにが気になったんですか?」
「……父とミス・グリーンの関係です。母がどう思っていたのか知りたくて」
「お二人は、前からあの距離感だったんですか?」

 ミカエルの問いに、マリアは首を振りました。

「元々彼女は私の家庭教師でした。雇い主は母でしたが、母は外に出ていることが多かったので、日々の報告は父に行っていました」
「元々ということは、今は違うんですね」
「母が亡くなってから、父の秘書になりました」

 マリアの母が存命の時は、彼女が商会長で、ロベルトは秘書のように働いていました。
 ロベルトが繰り上がりで商会長になったことにより、補佐をする人間――元よりロベルトは事務仕事に長けていたので、おもに私生活を支えてくれる人材を求めて、気心の知れたミス・グリーンを採用したとのことです。

「そんな理由で周囲は納得したんですか?」
「ミス・グリーンは薬師でもあるのです」

 秘書になってからは、薬師としての知識を活かしてロベルトの食生活を管理するようになりました。
 病で先代が亡くなったばかりなので、健康管理を理由にされると表立っては誰も反対できませんでした。

「実家の薬屋はお兄様が継がれたので、ミス・グリーンは家庭教師になられたそうです。うちのように爵位はないけれど、それなりに社交が求められる家は、斡旋所に家庭教師を派遣してもらってマナーを学ぶのですよ」

 今は斡旋所との関係は解消して、直接雇用しているとマリアは語りました。

「……ミカエルじゃないがモヤモヤするのう」

 寄り添う二人を見た後だと、取り繕っている感じが否めません。

「先代の日記には何と書いてあったんですか?」
「母が病に倒れる前から、男女の仲だったようです」

 マリアは栞を挟んでいた頁を二人に見せました。

【ミス・グリーンの雇用主は私だ。
私は商談で外に出ることが多いが、ずっと家を空けているわけではない。もしロベルトに迫られたのであれば、私に相談すべきだ。彼女がロベルトを誘惑したのであれば論外だ。
どちらにせよ娘の家庭教師としては、判断力・倫理観のいずれかが欠如していると判断せざるをえない。
今は別件で手が離せないが、時間ができ次第斡旋所に報告して、解雇するつもりだ】
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