魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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姿なき呪い

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 客室に通されたミカエルはむっつりとした顔で呟きました。

「……ぼく、あの人嫌いです。早く終わらせましょう」

 実は依頼の手紙を読んだ時から、ミカエルは今回の件に乗り気ではありませんでした。

「ふむ。理由を聞こうか」

 ラファエロは赤子の時からミカエルを育ててきました。
 確かに慇懃無礼で、こましゃくれた少年ですが、理由もなく他人を嫌ったり攻撃するような子ではありません。

「ぼくは毎日沢山の本を読んでいます」
「そうじゃな」
「本であればジャンルを問わずに読みますが、何でも楽しめるわけではありません。どうしても合わない作品や作者はいます」
「ストーリーが面白くないとか、作風が合わないってことかの?」
「まあ、そんなものです。特に作者との相性がわるいと、どんなに評価が高くても読むのが苦痛になります」
「そこまで!? あ、でも普通の人は、微妙だと思ったらその場で読むの止めるし、そんなものかのう」
「はい。それでぼくにとって、ロベルトさんが書いた依頼の手紙は、不快に感じる文章でした」

 ラファエロは首を傾げました。彼も手紙を読みましたが、特に何も感じませんでした。

「……経験の差か、感性の違いかはわかりませんが。ぼくはあの文面から、傲慢さと狡猾さ――それらを隠せない知能の低さと、器の小ささを感じました」

「ボロクソじゃな」

「ただこれは文面から感じたイメージなので、実際に会えば変わるかと思いましたが、ここに来た時のやり取りが決定打になりました」

「ふむ。手紙の印象で決めつけずに、実物を知ろうとしたんじゃな」

 ミカエルは無言で頷きました。

「今では『死後どころか、奥さんの存命中から浮気してたんじゃないかこのクズが。たいして商会に貢献してもいない入り婿の分際で態度がデカいんだよ』と思っています。しかも手紙に奥さんのことは一切書かず、先ほども強く否定していたので、不調の原因に心あたりがあるけれど隠してるんじゃないかと疑ってもいます」

「そこまで!?」
「はい。元々良い感情を持っていなかったので」
「ふむ。やたらわしに辛辣だったのも、ロベルト殿が来る前で心が乱れていたからか」
「いえ。師匠弄りは気分です」
「気まぐれでわしで遊ぶでない!」
「嘘です。モヤモヤして師匠にあたってしまいました」
「う、うむ。それなら。わしはおぬしの養父でもあるしの。家族なのだから遠慮することはないが、不安に思うことがあるならまず相談せい」
「家族……?」

 ぽかんとした顔で見上げてくるミカエルに、ラファエロは本気で動揺しました。

「え!? 何故そんな顔をするんじゃ。今までわしのことなんだと思っとったの!? ちゃんと養子として届け出しとるじゃろうが!」
「便宜上、養子縁組しているだけかと」
「九年目にして知る、息子に親だと思われていなかったという衝撃の事実」

 ラファエロは項垂れました。地味にショックです。

「だって、一貫して師匠と弟子の立場で過ごしているじゃないですか」
「それこそ便宜上、才能ある子どもを弟子にするために養子に迎えたとする方が、面倒がないからじゃ」
「ああ、独身男性が縁もゆかりも無い子どもを引き取ったら、性的虐待目的だと疑われるからですね」

 修道女が太鼓判を押したとおり、ミカエルは幼い頃から際だった外見をしていました。

「善意なのに疑いの目を向けられるなんて、世知辛い世の中になったものじゃ」
「保護猫・犬の譲渡会も門前払いくらいましたしね」

 二人が住む山岳地帯は僻地ですが、東部にも都会はあります。
 先日、パウロが美容師時代に住んでいた町で開催された、譲渡会に足を運んだ師弟ですが、ラファエロが正直に申告書に記入したところ、係員に諦めるよう諭されたのでした。

「何度考えても納得いかん。自然溢れる一軒家なんて、ペットを飼うには理想的な環境じゃろうに」
「その他の条件が、壊滅的に動物を飼うのに不適格だったからですよ」
「なぬ!?」
「過去の飼育経験無し。高齢者。同居人は子どもが一人だけ。住所が田舎過ぎて、付近に獣医師がいない……」

 いつものごとく若い姿をしていたラファエロだったので、係員は足腰の悪い本人の代わりに、親族の男性が来たと考えたのでした。
 ミカエルに対しても、彼が年齢よりもしっかりしていることは、それなりの時間を共にしないとわかりません。
 係員はまともな人物でしたので、会場に来ることすらできないご老人と、年端もいかないミカエルに持病や心に傷のある動物の面倒をみることができるとは考えませんでした。
 むしろミカエルをヤングケアラーなのではと心配して、相談窓口を書いたメモを渡してきたくらいです。

「正直に書けと言われたから、そうしただけなのに……! ミカエルよ、この世には建前というものがある、幼いおぬしには欺瞞にみえるかもしれんが、物事を円滑に進めるためには必要な行為なんじゃ。というわけで、次回は外見年齢で申告しようと思う」

「この流れでそうもっていくとは、さすが師匠です。でも建前と虚偽申請は別物ですからね」

「……」

 二人が話していると、ノックの音が響きました。
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