魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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姿なき呪い

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「では基本的に昼食は本館の食堂で?」
「ああ。厨房の人間には、ミス・グリーンから使用する食材や量について――うっ」

 急に動きを止めたロベルトは、側頭部を押さえました。頭が痛むようです。

「ちょいとみせてもらうぞ」

 既に魔法医、医師から異常なしと診断されているとのことですが、ラファエロであれば彼らが見逃した異常に気付けるかもしれません。鑑定魔法と平行して、透視魔法を段階を調節してかけていきます。

 ラファエロの視界が切り替わり、椅子に腰掛けたロベルトは服と皮を剥いだ状態になりました。
 筋肉に異常なし。
 レベルを一段階上げると、筋肉を透過して骨と内臓が露わになります。どちらも異常なし。
 更にレベルを上げて、血管も確認しましたが異常なし。

「ちょいとピリッとするぞ。静電気程度のものだから安心せい」

 神経は目で見てわかるものではないので、微弱な魔力を流して滞りが無いか確認しました。

「ふうむ。異常らしきものは見つからんのう」
「まだ頭は痛みますか?」
「いや、もう治った。……言い忘れていたが、昨夜も悪夢を見た」
「どんな夢ですか?」
「それは調査に関係あるのか?」

 言いづらい内容なのか、ロベルトは話したくなさそうですが、そこで引き下がるミカエルではありません。

「必要です。夢分析については意見がわかれていますが、完全に否定されていない以上考慮すべきです」

 今の学会では、ランダムに記憶を再生して結合しているだけ派と、深層心理を反映している派にわかれています。
 ミカエルはルカ経由で医学系の論文を読んでいますが、現在は心理状態が影響している派が主流です。

「……亡くなった妻の夢だ」

 頭を抱えたロベルトは、それ以上語ろうとしませんでした。

「……ロベルトさん?」

 苦悩しているのかと思いきや、よくみると手が震えています。

「ちょっと失礼しますね」

 肩を掴んで顔を上げさせると、汗だくでぐったりしています。

「この部屋にお砂糖はありますか? 飴のような甘いお菓子や、果実水でも構いません」
「白砂糖は健康によくないので、部屋にも給湯室にも置いていません。あっ、蜂蜜ならあります!」
「すぐに持ってきてください」

 ミス・グリーンから受け取った蜂蜜を、ミカエルはロベルトの口に含ませました。



 しばらくするとロベルトは回復しました。昨日と同じです。

「……最悪だ。なんで私がこんなめに」
「昨日と今日は甘いもので治りましたが、それ以前はどうやって治していたんですか?」

「決まって気持ち悪くなるので、飲み物を口にしていた。とにかく冷たくてさっぱりしたものがほしくて、冷えたレモネードを飲むことが多かったな」

「熱中症の季節ではないので、脱水症ではないかというのがお医者様と私の見解でした。なので塩を足したレモネードをご用意しましたが、今よりも回復に時間がかかっていました」

 持ってきた蜂蜜は、レモネードの材料だとミス・グリーンは説明しました。



 今のロベルトをあまり動かしたくない、とミス・グリーンが主張したので、昼食は執務室に持ってきてもらいました。
 用意されたのはサンドイッチでしたが、野菜のボリュームがミカエルの知るサンドイッチとは違いました。

「サラダを挟んだのかってくらい量がありますね。これどうやって食べるんですか?」

 人参と紫キャベツのラペ、バジルとオリーブオイルで和えたタマネギとラディッシュ、豚の薄切り肉、マッシュポテトとゆで卵。
 具だくさんの盛りだくさんです。

「わしならちょっと押しつぶせばいけるが、子どもにはちと難しいじゃろうな」

 男性陣はそのままかぶりつきましたが、ミカエルはミス・グリーンを手本に解体して食べました。
 ナイフでパンを切り、その上に具材を乗せて、フォークで口まで運ぶのです。
 サンドイッチのお供は、これまた角切りにされた野菜たっぷりのスープです。

「昨日も思いましたが、野菜中心なんですね」

「手軽で安いからと、現代人は小麦の加工品を食べ過ぎなんです。穀物を食べるのがいけないわけではありませんが、比率があるべき姿から逸脱しています。必要な栄養素をバランス良く、食べ過ぎないように。一日のトータルで適切な量になるよう、料理長と相談して献立を決めています」

「本格的というか徹底していますね」
「女の浅知恵と一蹴しない、旦那様の度量の大きさに感謝しております」

 ミス・グリーンは薬師として力を発揮できることに喜びを感じているように振る舞っていますが、ミカエルは本当にそれだけかなと思いました。



 十八の鐘が鳴る前に、ロベルトは仕事を切り上げました。
 結局、当主の書斎、商会長の執務室では不調の原因に繋がるものは見つかりませんでした。
 ミス・グリーンと別れた三人は、ロベルトの私室に移動しました。
 本人立ち会いのもと、続き部屋の寝室や浴室も調べます。

「個人を狙うなら、本人しか使わない道具が理想的なんですがね」

 健康に気を遣っているだけあり、ロベルトは酒も葉巻も接待の場に限定していると主張しました。
 申告通り部屋にはどちらも置いてありませんでした。

 嗜好品の線は潰れたので、次に可能性が高い石鹸類を分析しましたが、不審な点はありませんでした。
 さすがに入浴中は席を外したものの、就寝までのルーティンを確認しましたが、怪しいものはもちろん、その後は頭痛や低血糖といった発作もなく一日が終わりました。



「……おかしいですね。この時間帯なら出てくれるはずなのに」

 ラファエロが風呂から上がると、通信鏡の前に陣取ったミカエルが神妙な顔をしていました。

「ジョン君か? 呼び出しに気付かないようなら、直接転移で訪ねればよかろう。遠距離で自信が無いなら、わしが送ってやるぞ」
「ルカ医師(せんせい)です」
「やっぱ無しで。夜にいきなり訪ねるのは失礼じゃ」

 相手の名前を聞いた途端、ラファエロは高速で掌を返しました。
 親しき仲にも礼儀ありと、ご高説をたれ始めましたが、数秒前までジョンの家に押しかけようとしていた人間に言われても、まるで説得力がありません。

「ぼくの考えが正しいか裏付けをとりたかったんですが、不在ならしかたありません」
「修行僧も吃驚なレベルで規則正しい生活をしとるのに、この時間に留守とは珍しいこともあるもんじゃ」
「急患か、診察時間後に往診をしているのかもしれません」
「肉屋に続いて、新たな標的を見つけたのかもしれんのう」
「かもしれません」

 二人とも、ルカが仕事上がりに一杯飲みに行ったとは微塵も考えませんでした。

「まあ、確かめなくても多分あってるので大丈夫です」

 まさかルカの不在が自分たちにも影響を与えるとは、この時の師弟は知る由もありませんでした。
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