39 / 50
姿なき呪い
14
しおりを挟む
「――部屋の確認が終わりました。ロベルトさん、普段は何時頃までこの部屋でお仕事されているんですか?」
「ここで行うのは商会とは関係ない仕事だ。私個人に来た招待、融資の依頼などの手紙を処理した後は、家関係の書類があれば片付ける。今は税処理や予算を組む時期じゃないから、今日は手紙を片付けたらこの部屋でやることはない」
親子のやり取りを遮るように報告したミカエルでしたが、二人の会話については口出ししませんでした。部屋に漂う微妙な空気をスルーして、依頼をこなすことを優先します。
力になるどころか場の空気を悪くしそうなので、マリアは別行動することにしました。
彼女が離脱した後、四人は商会に移動しました。
*
ロベルトは一日の大半を商会長の執務室で過ごしています。
「現場に出たり、倉庫を見に行ったりはしないんですか?」
「それは私の仕事じゃない」
部屋の確認を終えたラファエロとミカエルは、来客用のソファに座ってロベルトたちの仕事ぶりを眺めていました。
たまに書類にサインが欲しいと職員がやってきましたが、滞在時間はごく短く、ロベルトとは事務的な会話のみ。
険悪な雰囲気ではないものの、お互いに最低限のことしか口にしていませんでした。
*
時刻を知らせる鐘が聞こえる度に、ロベルトは小休憩に入りました。
正確にはミス・グリーンがお茶を淹れてくるので、強制的に手を止めることになるのです。
「定期的に休憩時間を組み込み、作業時間を区切っています。集中力が低下する前に休憩に入ることで、疲労を軽減しつつ、効率よく仕事をこなせるようになります」
「ああ。ぼくもその方法が書かれた本を読んだことがあります」
しかしミカエルが読んだ本とは少し違います。
彼が読んだのはもっと短い時間で作業と小休憩のサイクルを行い、四回繰り返したら一度長めの休憩をとるというものでした。
ミス・グリーンが行っているのは、作業も休憩も記憶にある方法の倍の時間で行っています。
「昨日から思っていましたが、とても博識でいらっしゃいますね。そのくらいのレベルでないと、大魔法使い様の弟子にはなれないのでしょうか」
「ぼくが弟子になったのは単なる運です。師匠がお人好しなだけです」
「そんな言い方をするでない。数えきれんほど弟子入り希望者はおったが、この歳になるまで弟子にしたのはおぬし一人じゃ。運ではなく、縁じゃ」
ラファエロの言葉に照れたのか、ミカエルの薄い耳が桜貝のように色づきました。
*
昼を知らせる鐘が鳴りました。ラファエロの山小屋と違い、町中にある建物なので、鐘の音がよく聞こえます。
「お昼はいつもどうしているんですか?」
「繁忙期はこの部屋に持ってきてもらいますが、今はその時期ではありません。以前は外食されることが多かったようですが、今は取引先と約束があるときだけ外出されています。頻度としては月に二回程度でしょうか」
ミカエルの問いに、本人よりも先んじてミス・グリーンが答えました。
「気分転換を兼ねて外に出ていたんだが、彼女に控えるよう提言されたんだ」
「店で出される料理は万人向けの味付けなので調味料が多く使われていたり、大量に調理するので酸化した油を使っているのです。栄養バランスも偏りますので」
「彼女の意見は、どれも私の体を案じてのものだ。無下にはできない」
(娘の提案は無下にするどころか、怒鳴り散らしていたのにな)と、ミカエルは内心でツッコミました。
「ここで行うのは商会とは関係ない仕事だ。私個人に来た招待、融資の依頼などの手紙を処理した後は、家関係の書類があれば片付ける。今は税処理や予算を組む時期じゃないから、今日は手紙を片付けたらこの部屋でやることはない」
親子のやり取りを遮るように報告したミカエルでしたが、二人の会話については口出ししませんでした。部屋に漂う微妙な空気をスルーして、依頼をこなすことを優先します。
力になるどころか場の空気を悪くしそうなので、マリアは別行動することにしました。
彼女が離脱した後、四人は商会に移動しました。
*
ロベルトは一日の大半を商会長の執務室で過ごしています。
「現場に出たり、倉庫を見に行ったりはしないんですか?」
「それは私の仕事じゃない」
部屋の確認を終えたラファエロとミカエルは、来客用のソファに座ってロベルトたちの仕事ぶりを眺めていました。
たまに書類にサインが欲しいと職員がやってきましたが、滞在時間はごく短く、ロベルトとは事務的な会話のみ。
険悪な雰囲気ではないものの、お互いに最低限のことしか口にしていませんでした。
*
時刻を知らせる鐘が聞こえる度に、ロベルトは小休憩に入りました。
正確にはミス・グリーンがお茶を淹れてくるので、強制的に手を止めることになるのです。
「定期的に休憩時間を組み込み、作業時間を区切っています。集中力が低下する前に休憩に入ることで、疲労を軽減しつつ、効率よく仕事をこなせるようになります」
「ああ。ぼくもその方法が書かれた本を読んだことがあります」
しかしミカエルが読んだ本とは少し違います。
彼が読んだのはもっと短い時間で作業と小休憩のサイクルを行い、四回繰り返したら一度長めの休憩をとるというものでした。
ミス・グリーンが行っているのは、作業も休憩も記憶にある方法の倍の時間で行っています。
「昨日から思っていましたが、とても博識でいらっしゃいますね。そのくらいのレベルでないと、大魔法使い様の弟子にはなれないのでしょうか」
「ぼくが弟子になったのは単なる運です。師匠がお人好しなだけです」
「そんな言い方をするでない。数えきれんほど弟子入り希望者はおったが、この歳になるまで弟子にしたのはおぬし一人じゃ。運ではなく、縁じゃ」
ラファエロの言葉に照れたのか、ミカエルの薄い耳が桜貝のように色づきました。
*
昼を知らせる鐘が鳴りました。ラファエロの山小屋と違い、町中にある建物なので、鐘の音がよく聞こえます。
「お昼はいつもどうしているんですか?」
「繁忙期はこの部屋に持ってきてもらいますが、今はその時期ではありません。以前は外食されることが多かったようですが、今は取引先と約束があるときだけ外出されています。頻度としては月に二回程度でしょうか」
ミカエルの問いに、本人よりも先んじてミス・グリーンが答えました。
「気分転換を兼ねて外に出ていたんだが、彼女に控えるよう提言されたんだ」
「店で出される料理は万人向けの味付けなので調味料が多く使われていたり、大量に調理するので酸化した油を使っているのです。栄養バランスも偏りますので」
「彼女の意見は、どれも私の体を案じてのものだ。無下にはできない」
(娘の提案は無下にするどころか、怒鳴り散らしていたのにな)と、ミカエルは内心でツッコミました。
17
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる