魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

文字の大きさ
38 / 50
姿なき呪い

13

しおりを挟む
 翌朝。
 昨日の怒りが冷めやらないようで、ミス・グリーンと一緒に食堂に現れたロベルトは不機嫌丸出しでした。
 ミス・グリーン自身は、昨日は褒められただけなので、ミカエルに悪感情は無いようです。ただ困ったように微笑むのみでした。



 昨日と同じ席順で、五人が席につくと朝食が運ばれてきました。
 大人にはバゲットが二切れ入った籠。皿にのったオムレツ、グリーンサラダ、ソーセージ。小さな器に入ったヨーグルトにはジャムがかけられています。飲み物はミルク、オレンジジュース、ハーブティーの中から好きな物を選ぶスタイルです。
 ラファエロとマリアはオレンジジュースを、ロベルトとミス・グリーンはハーブティーを選びました。

 厨房で昨日リクエストした通り、ミカエルの皿だけ特別仕様でした。
 二段重ねになったきつね色のパンケーキは迫力満点です。真ん中にバターの固まりが乗っており、添えられた容器には蜂蜜が入っていました。
 皿にはパンケーキ以外ものっていました。炙ったベーコンと、大人達に比べると少なめのサラダです。
 飲み物を聞かれたミカエルは、迷わずオレンジジュースを頼みました。

「マリアさん。これは二枚重なっていますが、上から一枚ずつ食べるんでしょうか?」
「食べ方は自由ですが、私は上から蜂蜜をかけて、重ねた状態で切って食べていますね」

 食べ慣れている人の意見を聞くのが一番、とミカエルは蜂蜜を丸いパンケーキにまわしかけました。

「バターが溶けるのを待った方がいいですか?」
「どちらでも大丈夫です。暖かいので広げたらすぐに溶けますよ。あと甘い状態も美味しいですが、ベーコンと一緒に食べるとクセになる甘塩っぱさが味わえるのでオススメです」

 目を輝かせたミカエルがパンケーキの上でバターをクルクルしていると、ロベルトが鼻で嗤いました。

「いい気なものだな」
「はい。美味しそうなものを前にして、とても気分が良いです」

 即答されてロベルトは鼻白みました。
 今のミカエルはパンケーキに夢中なただのお子様です。
 昨日の無礼について物申したところで、大人げないと周囲に呆れられるだけです。

 苛立ちが収まらないロベルトは、代わりにマリアに一言言ってやろうと思いましたが、寸前で言葉を飲み込みました。
 昨日の今日で娘に当たるようなことをすれば、ミカエルの推理を肯定することになってしまいます。

 鬱憤を吐き出せなかったロベルトは、ティーカップを乱暴に置きました。ガチャンと音が鳴ります。
 普段ならマリアがビクつき、ミス・グリーンが気遣わしげな表情をしたでしょう。
 しかし今日は三人だけの食卓ではありませんでした。

 マリアはミカエルにパンケーキの食べ方を教えるのに集中していて、ミス・グリーンもそちらに気をとられています。
 ラファエロは「あれを家でも食べたいと言われたら困るのう。家政婦を雇うとなるとあの家じゃ住み込み必須じゃし、やはり家事妖精(ブラウニー)しかないのか……」と難しい顔をして呟いています。

 誰も察してちゃんな中年男になど見向きもしませんでした。



 食事を終えた一行は、ロベルトを先頭にして進みました。
 先ず彼は本館にある書斎に入りました。立派な一枚板の机には、今朝届いたばかりの手紙が束の状態で置かれていました。秘書らしくミス・グリーンが手早く仕分けし、ロベルトは黙々と目を通します。

「ミス・グリーン。この五通に代筆で返信しておいてくれ。お断りの定型文で構わない」
「あのっ、お父様。それくらいであれば、私もお手伝いしましょうか」
「これは私個人にきた手紙だ。親の手紙を盗み見するつもりか」
「そんなつもりはありません! お断りするにしても返事は早いにこしたことはありません。ミス・グリーンの負担を減らせないかと……」

 仕事をしているロベルトとミス・グリーン。
 部屋を調べているミカエルとラファエロ。
 彼らと違って、マリアは流れで同行した身なので、手持ち無沙汰でした。ただじっとしていることに居心地の悪さを感じたものの、さりとてやることが無いので部屋に戻りますとも言えずにいました。
 そんな時に自分でもできそうなことを見つけたので、深く考えずに提案しただけなのです。

「仕事に口出しするな。たかが数通の手紙が負担になるわけがないだろう。お前は彼女を健康面のサポートしかできないと思っているのか。今の言葉は秘書としてのミス・グリーンを貶めたも同然だ。謝罪しなさい」

「……すみません。出過ぎた真似をしました」

 頭を下げながらマリアは考えました。ロベルトは昔からこんな人だったでしょうか。
 母が亡くなる前は。祖父が亡くなる前は。マリアが子どもの頃は……

 町で見かける親子のように、仲睦まじく出かけた記憶はありません。娘として特別可愛がられた覚えもありませんが、今のように叱られたり、邪険に扱われることもありませんでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

処理中です...