16 / 65
第16話 討伐再開
しおりを挟む
魔王討伐の旅が再開されて、アメリもこの生活に随分となじんできていた。
魔物による被害の情報を集めつつ、街や村に立ち寄りながら魔王城を目指していく。
依頼された魔物退治を行うことも多いため、なかなかまっすぐ進まない旅の工程だ。今日も何とか魔物の群れを薙ぎ払って、ようやく宿屋に辿り着いた。
「今夜は案外まともな宿ね。あたし硬いベッドはもうこりごりよ」
「ここのところ安宿が続いたからな。まぁ、それでも野宿よりはマシってもんだ」
マーサとフランツは宿の交渉係だ。ふたりは旅の経験が豊富で、こういったことに慣れているらしい。
日によって部屋数も変わってくる。
勇者一行として宿で優遇されることも多いが、大概アメリはサラと同じ部屋になることがほとんどだった。
部屋割りが決まってそれぞれが部屋へと散らばっていく。アメリはやはりサラと一緒の部屋だ。
「聖剣の乙女」
部屋の手前でロランに呼び止められる。
「何か?」
「今日も特に怪我はないか?」
「ええ。何かあったらサラさんに見てもらうのでご心配なく」
「ああ、そうしてくれ」
それだけ言うと、ロランは部屋に引っ込んだ。
このやり取りは毎日のことだった。
「よかったわ。ロラン、最近はきちんとアメリさんのことを大事にしているみたいですね」
「別にそういうわけでは……わたしは勇者の剣を持ってるってだけですし」
ロランが話しかけてくるのは、朝の出発時と宿屋に着いたときの一日二回で、アメリの体調を伺うときだけだ。
剣の運搬係が怪我をしては、足手まといになり兼ねない。単純にそれを心配しているだけだろう。
証拠に、その時以外はアメリに対して、常によそよそしいロランだった。
翌朝、近くの森へ魔物退治へにいくことになった。
村人の話ではかなりの数の魔物がいるとのことだ。
「今回は狼型の魔物らしい。俺が先頭を剣で行く」
「取りこぼしたヤツは俺に任せてくれ」
「残りはあたしの鉄拳でとどめを刺すわ」
「わたしとヴィルジールは後方で援護射撃しつつ、アメリさんのことをお守りしますね」
地形を見ながら、効率のいい役割分担で作戦を練っていく。
アメリの仕事はロランに勇者の剣を渡すことと、怪我をしないようサラたちの後ろに隠れていることだけだ。
「僕の炎獄魔法を使えばきっと一瞬だよ? うっかり森ごと焼いちゃうかもだけど」
「絶対にやめてください!」
サラの声が響いたのと同時に、獣の唸り声が茂みの奥から聞こえてきた。
「お出ましだな」
「聖剣の乙女、来い!」
手を差し伸べてくるロランに、一目散に駆け寄った。
このときばかりはロランの動きも乱暴だ。二の腕を掴まれて、噛みつくように口づけられる。
一刻を争う事態なので、アメリも文句など言っていられない。
いつものように聖剣を手渡すと、アメリは脱兎のごとく後方へと舞い戻った。
「アメリさん! 早くこちらへ」
サラに防護壁を張ってもらって、アメリは目と耳を塞いで戦闘が終わるのをひたすら待った。
ロランたちの怒号が響き、魔物狼が次から次へと地に伏していく。
一番大きな群れの主が、最後のあがきとばかりにロランに飛びかかった。
鋭い牙が腕をかすめ、それでもロランは無事に主にとどめを刺した。
「ロラン、大丈夫か!?」
「ああ、フランツ、問題ない」
言いながらロランは血のりの付いた剣を拭った。
ほどなくして光に包まれた聖剣が、粒子となってアメリの胸に吸い込まれていく。
「終わったな……」
息をつき、一行は村へと舞い戻った。
「聖剣の乙女、今日も怪我はしなかったか?」
「はい、わたしは大丈夫です。それよりも勇者、最後に牙が……」
「いや、かすっただけだ。たいした怪我はしていない」
腕を隠すようにひっこめると、ロランはそそくさと部屋に戻ってしまった。
「アメリさん、本当に怪我はないですか?」
「はい。それよりも勇者が……」
「ロランは自己管理ができる人です。必要があればアメリさんにきちんと言ってきますよ」
「そう、ですよね……」
しかし先ほどのロランはどこか腕を庇っているように見えてならなかった。
ロランは極力怪我をしないようにすると言ってくれたが、その手前少々の傷は我慢するつもりでいるのではないのだろうか。
一度ベッドに入ったアメリだったが、あの日のロランの傷が目に浮かんだ。
ずっと治らない傷を長年抱えていたと聞き、なんだか心配で眠れなくなってしまった。
「やっぱりもう一度聞きに行こう」
問題がなければそれでいい。
サラを起こさないよう、アメリはそっと部屋を出た。
魔物による被害の情報を集めつつ、街や村に立ち寄りながら魔王城を目指していく。
依頼された魔物退治を行うことも多いため、なかなかまっすぐ進まない旅の工程だ。今日も何とか魔物の群れを薙ぎ払って、ようやく宿屋に辿り着いた。
「今夜は案外まともな宿ね。あたし硬いベッドはもうこりごりよ」
「ここのところ安宿が続いたからな。まぁ、それでも野宿よりはマシってもんだ」
マーサとフランツは宿の交渉係だ。ふたりは旅の経験が豊富で、こういったことに慣れているらしい。
日によって部屋数も変わってくる。
勇者一行として宿で優遇されることも多いが、大概アメリはサラと同じ部屋になることがほとんどだった。
部屋割りが決まってそれぞれが部屋へと散らばっていく。アメリはやはりサラと一緒の部屋だ。
「聖剣の乙女」
部屋の手前でロランに呼び止められる。
「何か?」
「今日も特に怪我はないか?」
「ええ。何かあったらサラさんに見てもらうのでご心配なく」
「ああ、そうしてくれ」
それだけ言うと、ロランは部屋に引っ込んだ。
このやり取りは毎日のことだった。
「よかったわ。ロラン、最近はきちんとアメリさんのことを大事にしているみたいですね」
「別にそういうわけでは……わたしは勇者の剣を持ってるってだけですし」
ロランが話しかけてくるのは、朝の出発時と宿屋に着いたときの一日二回で、アメリの体調を伺うときだけだ。
剣の運搬係が怪我をしては、足手まといになり兼ねない。単純にそれを心配しているだけだろう。
証拠に、その時以外はアメリに対して、常によそよそしいロランだった。
翌朝、近くの森へ魔物退治へにいくことになった。
村人の話ではかなりの数の魔物がいるとのことだ。
「今回は狼型の魔物らしい。俺が先頭を剣で行く」
「取りこぼしたヤツは俺に任せてくれ」
「残りはあたしの鉄拳でとどめを刺すわ」
「わたしとヴィルジールは後方で援護射撃しつつ、アメリさんのことをお守りしますね」
地形を見ながら、効率のいい役割分担で作戦を練っていく。
アメリの仕事はロランに勇者の剣を渡すことと、怪我をしないようサラたちの後ろに隠れていることだけだ。
「僕の炎獄魔法を使えばきっと一瞬だよ? うっかり森ごと焼いちゃうかもだけど」
「絶対にやめてください!」
サラの声が響いたのと同時に、獣の唸り声が茂みの奥から聞こえてきた。
「お出ましだな」
「聖剣の乙女、来い!」
手を差し伸べてくるロランに、一目散に駆け寄った。
このときばかりはロランの動きも乱暴だ。二の腕を掴まれて、噛みつくように口づけられる。
一刻を争う事態なので、アメリも文句など言っていられない。
いつものように聖剣を手渡すと、アメリは脱兎のごとく後方へと舞い戻った。
「アメリさん! 早くこちらへ」
サラに防護壁を張ってもらって、アメリは目と耳を塞いで戦闘が終わるのをひたすら待った。
ロランたちの怒号が響き、魔物狼が次から次へと地に伏していく。
一番大きな群れの主が、最後のあがきとばかりにロランに飛びかかった。
鋭い牙が腕をかすめ、それでもロランは無事に主にとどめを刺した。
「ロラン、大丈夫か!?」
「ああ、フランツ、問題ない」
言いながらロランは血のりの付いた剣を拭った。
ほどなくして光に包まれた聖剣が、粒子となってアメリの胸に吸い込まれていく。
「終わったな……」
息をつき、一行は村へと舞い戻った。
「聖剣の乙女、今日も怪我はしなかったか?」
「はい、わたしは大丈夫です。それよりも勇者、最後に牙が……」
「いや、かすっただけだ。たいした怪我はしていない」
腕を隠すようにひっこめると、ロランはそそくさと部屋に戻ってしまった。
「アメリさん、本当に怪我はないですか?」
「はい。それよりも勇者が……」
「ロランは自己管理ができる人です。必要があればアメリさんにきちんと言ってきますよ」
「そう、ですよね……」
しかし先ほどのロランはどこか腕を庇っているように見えてならなかった。
ロランは極力怪我をしないようにすると言ってくれたが、その手前少々の傷は我慢するつもりでいるのではないのだろうか。
一度ベッドに入ったアメリだったが、あの日のロランの傷が目に浮かんだ。
ずっと治らない傷を長年抱えていたと聞き、なんだか心配で眠れなくなってしまった。
「やっぱりもう一度聞きに行こう」
問題がなければそれでいい。
サラを起こさないよう、アメリはそっと部屋を出た。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる