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第4章 宿命の王女と身代わりの託宣
第13話 受け継ぎし者 -中編-
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【前回のあらすじ】
祈りの間での瞑想で、この国の成り立ちを垣間見ていくハインリヒ。回を重ねるごとに青龍への不信感がつのっていって。思い悩むハインリヒをなんとか癒そうと、アンネマリーは懸命に努力をします。その思いに触れ、さらに愛を深め合うふたり。
そんな日の翌朝、ハインリヒの龍のあざが消え、アンネマリーの胎内に託宣を受けた子供が宿ったことを知るのでした。
「おめでとう、アンネマリー! わたくしに甥ができるのね!」
王妃の離宮を訪ねるなり、第三王女のピッパが飛びつくように抱き着いてきた。勢いでよろけたアンネマリーに、慌てたハインリヒがその背を支える。
「ピッパ様、王女ともあろうお方がなんと落ち着きのない」
「だってうれしいんだもの! アンネマリーに赤ちゃんができたのよ?」
「また呼び捨てなどにして。アンネマリー様は間もなく王妃殿下になられるのですよ」
「いいのよ、ルイーズ。今は公式な場でもないのだから」
ピッパを窘める女官のルイーズに、アンネマリーは穏やかな笑顔を返した。
「いいえ、ピッパ様はこれから多くの貴族の前に出る機会が増えてまいります。公私をきちんと使い分けられるならともかく、今のままでは目も当てられないことになりかねません」
「場をわきまえることくらいわたくしにだってできるわ」
不服そうに言ってピッパは優雅に淑女の礼を取る。
「アンネマリー王太子妃殿下、ご懐妊おめでとうございます。国の安泰を思うと、わたくしも王女としてよろこばしいですわ。健やかな御子の誕生を、心よりお祈り申し上げております」
「あたたかいお言葉に感謝します、ピッパ王女」
それに向けてアンネマリーも鷹揚に頷いた。
「ほら、どう? ちゃんとできるでしょう?」
ピッパが自慢げに胸を反らせたときに、カイを連れたイジドーラ王妃が姿を現した。
「アンネマリー、体調に問題はなくて?」
「はい、イジドーラお義母様。まだ実感はないのですけれど、なんだか最近やたらとお腹が空いてしまって……」
「子が欲しがっているのね。気にせず食べるといいわ」
アンネマリーの両手がそっと腹に添えられる。その上にハインリヒの手が重ねられ、ふたりはしあわせそうに微笑み合った。
「ハインリヒ様、この度は誠におめでとうございます」
「ああ、ありがとう。カイ……お前にはいろいろと気苦労をかけた」
「いいえ、すべて順調に事が運んでオレも本当にうれしく思っていますから。それでハインリヒ様は、もう女性に触れても大丈夫になったんですよね?」
「え? ああ……そう、だな。恐らくそのはずだ」
王位を継ぐ託宣を受けた者に、守護者は代々受け継がれていく。新しい託宣者が命を結んだ今、守護者はハインリヒからその子供に移ったと言えた。それはアンネマリー以外の女性に触れたとしても、守護者が牙を剥くことはないということだ。
「なんのお話ですか、ハインリヒお兄様?」
事情を知らないピッパが、不思議そうにハインリヒに手を伸ばしてくる。その指先が触れる寸前に、ハインリヒは条件反射のように距離を取った。長年染みついた恐怖が、どうしても万が一を想像させてしまう。
「ハインリヒ」
イジドーラに名を呼ばれ、ハインリヒは強張った顔を上げた。感慨深そうに目を細め、イジドーラはためらいもなくハインリヒを抱きしめた。
「この腕にもう一度貴方を抱ける日を、心待ちにしていたわ」
「義母上……」
ハインリヒの体から力が抜けていく。震えながら、その手はイジドーラの背に回された。
――守護者の呪縛から解き放たれた
もう二度と、あの悲劇を繰り返すことはない。そのことを実感した瞬間だった。
「わあ、本当によかったですね! これでどんな女性も触りたい放題ですよ。ほら、ハインリヒ様、いつも気になる女官を目で追ってたし、これからは遠慮せずどんどん触っちゃってください」
その横でカイが朗らかに言う。感動の場面が一気に台無しとなり、心なしかアンネマリーの視線が冷たくなった。
「ば、馬鹿を言うな、カイ」
「馬鹿も何も、昔からハインリヒ様、胸の大きな女官が好きだったじゃないですか」
「なっ!? そんなことあるわけないだろう」
「そうね。ハインリヒが赤子の頃は、誰よりもジルケに懐いていたわね」
「義母上まで……! ち、違うんだ、アンネマリー」
ハインリヒ誕生の前後から、ジルケは前王妃セレスティーヌの元へと頻繁に呼ばれていたと聞く。アンネマリーの母親だけあって、なかなか豊満な胸の持ち主だ。
頬を膨らませ微妙に距離を開けたアンネマリーを、ハインリヒは慌てて抱き寄せた。
「誤解だ。そんな記憶もない赤ん坊の頃の話を持ち出されてもだな……」
唇を尖らせて顔を背けるアンネマリーを、どうにかこうにか宥めている。そんなふたりを見やり、してやったりとカイは必死に笑いを堪えていた。
「祝いの贐はそれくらいにしておやりなさい」
いたずらな笑みを刷くイジドーラに、カイは同様にいたずらな目配せを返した。
「分かってくれ、アンネマリー。わたしには君しかいないんだ。アンネマリーだけがいればいい。本当だ、信じてくれ」
必死に言葉を並べるハインリヒに、アンネマリーは根負けしたように口元に笑みを乗せた。困り果てた顔に片手を添えて、反対の頬に口づけを落とす。
「ちゃんと分かっているし、怒ってなどいないから」
「よかった……アンネマリーに嫌われたら、わたしはどうしたらいいのか分からない」
「わたくしだって、触れたいのも触れてほしいのも、ハインリヒ、あなただけよ」
「ああ、わたしもだ」
生温かい周囲の視線をよそに、ふたりきりの世界で抱きしめ合う。そんな中、ふとハインリヒの瞳に影が落ちた。
「だが……わたしには、ひとりだけ……会いに行かねばならない女性がいる」
苦し気に耳元で紡がれた言葉に、アンネマリーはシャツの背をぎゅっと握りしめた。ハインリヒが言っているのは、かつて守護者が傷つけたという令嬢――アデライーデのことだと悟る。
「すまない……」
「何があったとしても、わたくしはハインリヒと共にありますわ」
やわらかい髪に手を差し込んで、アンネマリーは労わるようにやさしく撫でた。ハインリヒの腕に力がこもる。
「ありがとう、アンネマリー……」
その後、殺人的なスケジュールの合間を縫って、ハインリヒはアデライーデを呼び出したのだった。
◇
「ハインリヒ様ー、お待ちかねの方がいらしてますよー」
軽いノックと共にカイが執務室に顔を出した。その後ろに騎士服姿のアデライーデがいる。強張った顔で席を立つと、アデライーデはハインリヒの前まで歩を進めてきた。
「責任を持ってハインリヒ様の骨は拾っておきますので、どうぞ心置きなく」
そんな言葉をアデライーデに残して、カイは部屋を出ていった。耳に痛い沈黙の中、アデライーデが瞳を伏せて騎士の礼を取る。
「呼び立ててすまない。本来ならわたしが赴くべきなのに……」
「いえ、王太子殿下は今大事なとき。王位を継ぐ準備のために、休む暇もなく過ごされていることでしょう。この度はアンネマリー妃殿下のご懐妊おめでとうございます。お仕えする身として至極のよろこびでございます」
「ああ、ありがとう……今は人目もない。礼は不要だ」
硬い顔のままハインリヒはアデライーデの正面に立った。アンネマリーが託宣の子供を宿した今、ハインリヒに守護者はついていない。アデライーデも呼ばれた理由は分かっているはずだ。
「今こそ、あの日の約束を果たしてほしい」
「そう……じゃあ、遠慮なく一発殴らせてもらうわ」
アデライーデは表情なくハインリヒを真っすぐに見つめた。上下にかかる傷痕が、右目の眼帯から垣間見える。
己の愚かな行いが、今なお彼女の美しい顔に刻み込まれている。ハインリヒの顔が苦しげに歪められた。
「まずはそこに膝をつきなさい」
床に向けられた指先に、頷いて両膝をつく。ハインリヒを冷たく見下げ、アデライーデは一歩前に出た。次いでぼきりと拳を鳴らす。
「覚悟はできてるわね?」
「ああ、思う存分やってくれ」
瞳を閉じた暗闇の中、ふっと笑った気配がした。
「歯を食いしばりなさい!」
空気の流れで拳が振り上げられたのが分かる。奥歯を噛みしめその時を待った。しかし一向に衝撃は来ず、ぎゅっと目をつむった状態でハインリヒはふわりと何かに包まれた。
膝をついたハインリヒの頭を、アデライーデは胸に抱いていた。その髪をやわらかく撫でていく。
「……アデライーデ?」
「ねぇ、ハインリヒ……これでもう、終わりにしましょう?」
アデライーデは囁くように言う。頭の上からする静かな声を、抱きしめられたままハインリヒはただ聞いていた。
「わたしね、今の自分が好きよ。騎士の仕事だって性に合ってるって思ってる。だけど……だけどね。だからといって、あの事があってよかっただなんて、どうあってもそんなふうに思うことはできない……」
あたたかな胸元から、アンネマリーとは違う甘い香りがする。同時に頬にあたる騎士服のボタンの冷たさに、アデライーデの置かれた立場を痛感した。
貴族女性であるアデライーデが騎士の道を選んだのは、自らが望んだわけではない。この手が彼女の未来を引きちぎった事実は、永劫、消えることはない。
ハインリヒの口から嗚咽が漏れる。間もなく王となる立場であっても、あふれ出る涙を堪えることはできなかった。
「でも……わたしたち、今まで十分傷ついて来たわ……だから、これでお終いにしていいと思うの。もういい加減、前を見て歩いていかなくちゃ。わたしはわたしにしかできないことをするわ。ハインリヒも、あなたにしかできないことがたくさんあるでしょう?」
「アデラ……イーデ……」
やさしく頭を撫でる手つきに、遠い日の記憶がよみがえる。ちょっとしたことですぐ泣く幼いハインリヒを、アデライーデはいつだってこうやって慰めてくれていた。
「もう、なんて顔してるのよ。仕方のない子ね」
やさしかった手が、いきなりハインリヒの鼻をつまみ上げた。もげそうなくらいにねじり上げられて、ハインリヒは尻もちをつきながら思わずアデライーデの体を押しやった。
「ほら、泣き止んだ」
「アデライーデ、お前な……!」
いたずらっぽく笑うアデライーデに、赤くなった鼻をさすりながら抗議の視線を送る。これも、いつまでたっても泣き止まないハインリヒが、アデライーデに何度もやられたことだ。最もあまりの痛さに、泣き止むどころか余計に大泣きさせられたハインリヒだった。
「もういいから立ちなさい」
手を引かれ、ハインリヒは立ち上がった。つないだ手のぬくもりは、今も昔も変わらない。
眩しく目を細めたハインリヒの前で、アデライーデは再び騎士の顔となった。片膝をつき、忠誠を誓うように深々と頭を垂れる。ダークブラウンの真っすぐなポニーテールが、肩口からさらりとこぼれ落ちた。
「ハインリヒ殿下……国のため、そして民のため、どうぞ良き王とおなりください」
部屋を出ていく凛とした背中を、いつまでも見送った。
姉のように。友のように。時には母のように。いつでも愛情をもって接してくれたアデライーデが、ハインリヒは大好きだった。きっと自分の初恋は彼女だったのだろう。腑に落ちたようにそんなことを思った。
「ハインリヒ……」
遠慮がちにかけられた声に、笑みを向ける。カイが気を遣って呼んだのかもしれない。手を差し伸べるとアンネマリーは、何も言わずに身を寄せてきた。
「わたしは正しき王となる。決して道を誤らぬよう、アンネマリー、わたしと共に歩んでくれるか?」
「もちろんです……そのお役目、王妃として立派に果たして見せますわ」
新年を迎えるとともに、王位継承の儀が執り行われる。その瞳に、もう、迷いはなかった。
◇
国境付近にある騎士団の城塞に戻ったアデライーデは、自室で暖炉の火を見つめていた。
毛足の長いふかふかの絨毯に直接座り、クッションにうずもれながら過ごすのが冬の日常だ。ブランケットに包まって、転寝するのがなんとも心地よい。
年が明ければハインリヒが王となる。過去にしがみついても、時は勝手に流れていく。巻き戻せない時間に囚われたまま生きるのは、もういい加減やめにしたかった。
(ハインリヒにはああ言ったけど……)
いまだにあの日を夢に見る。頻度は減ってはいるものの、繰り返される痛みと熱と苦しみが、先に進もうとするアデライーデを阻んでくる。
薪が爆ぜる音を耳にしながら、抱えた膝に頭を乗せる。あの炎に身を投じてしまえたら。ここに座って幾度そう思ったことか。
「あでりーサマ、またそんなトコで寝ないでクダサイね」
「別にいいでしょ。ランプってほんと口うるさいんだから」
声をかけてきたのはバルバナス付きの小姓のランプレヒトだ。見た目は可愛らしい少年の姿をしている。だがアデライーデがこの砦に来て六年、ランプレヒトの姿はずっと成長していなかった。言動も大人びていて、本当はいくつなのか分からない謎な存在だ。
「ばるばなすサマがいないときにおカゼでも召されたら、ボクが怒られるんデスよ? リフジンにもほどがありマス」
「風邪なんか引かないわよ。ランプの薬、苦いから飲みたくないもの」
「甘くもつくれマスけどね」
「じゃあそうしなさいよ」
「いやデス。あのマズそうに歪められたカオを見るのがスキなんデス」
ランプレヒトはバルバナスの世話をする以外は、部屋にこもって薬草を煎じて過ごしている。彼からはいつも青臭いにおいがする。もう慣れてしまったが、はやく部屋から出ていってほしかった。
「もう分かったからあっち行って」
「イチオウ、忠告だけはしましたカラね」
ここは自室の居間ではあるが、バルバナスと共用だ。寝室は別々だが、ランプレヒトを含めて三人で過ごしている部屋だった。
再びひとりきりになったアデライーデは、暖炉で踊る炎を見つめながら、クッションの中に身を沈めた。そのひとつを胸に抱き、深く息をつく。
今日はまたあの夢を見そうだ。そんな予感は大抵当たってしまう。
「何しけた顔してんだ?」
「ちょっと……!」
いきなりブランケットをはぎ取られる。心地よい温もりを奪われて、アデライーデはいつの間にか戻っていたバルバナスを睨み上げた。
バルバナスはそのブランケットを自分で羽織り、後ろにどっかりと腰かけた。そのまま引き寄せ、アデライーデを腕の中に囲ってくる。バルバナスごとブランケットに包まれて、再び心地よい熱が戻ってきた。
「ハインリヒんとこ行ってきたのか?」
「ええ」
「そうか」
バルバナスの胸に顔を預け、アデライーデは力を抜いた。耳に鼓動を聞きながら、充足と安堵に包まれる。
アデライーデはバルバナスに連れられて、ここ騎士団の城塞へとやってきた。毎晩のように悪夢にうなされ泣き叫んでいたアデライーデに、バルバナスはいつだって寄り添うように温もりを与えてくれた。それは今になっても変わらない。
この暖かさが傷ついた少女のままでいることを許してくれる。自分が過去を捨て切れないのは、バルバナスがいるからなのだろう。
そう思ってもアデライーデは、心地よい腕の中から抜け出すことはできなかった。武骨な手が、あやすように頭を撫でていく。
「今夜はずっとこうしててやる。心配せずぐっすり眠れ」
ここなら怖い夢を見ることはない。そんな確信の中、訪れた睡魔に抗うことなく、アデライーデはまどろみに沈んでいった。
◇
ひんやりと沈黙を貫く牢獄に、レミュリオは今日も足を運んでいた。年内最後の訪問だ。騎士のひとりに案内されて、いつもの牢の前で足を止めた。
「では、時間になったらまた迎えに来ます」
鍵を開けると騎士は去っていく。牢の主は開け放たれた扉に目をくれることなく、簡素な寝台の上であぐらをかいて瞳を閉じていた。
「ミヒャエル様、瞑想中に失礼します」
「レミュリオか……」
静かに開かれた瞳はいつになく澄んでいる。盲いたレミュリオには目視はできないが、以前と同一人物とは思えないほどの穏やかな気を、ミヒャエルはその身に纏っていた。
「今日は良いお知らせが。ハインリヒ王子が王位を継ぐにあたって、ミヒャエル様の罪が軽減されることとなりました。ミヒャエル様は神殿へと移り、そこで余生を過ごすようにとのことです。神殿の監視下には置かれますが、今よりもずっと自由が与えられるそうですよ」
「恩赦など要らぬ」
短く言って、ミヒャエルは再び瞳を閉じた。
「王がお決めになったことですから。どのみちここから出られるのは、王位継承の儀が済んでからになるでしょう。年明けにまた参りますので、詳しいことはその時にでも。どうぞ良き年をお迎えください。ミヒャエル様に青龍の加護があらんことを」
最後に祈りを捧げ、レミュリオは牢から出ていった。思いのほか早く戻ってきたレミュリオに、騎士が慌てて鍵を掛けに行く。
来た廊下を振り返り、レミュリオは表情なくつぶやいた。
「……所詮は青龍に選ばれもしなかった男。再びチャンスを与えられたところで時間の無駄でしたか」
その言葉を耳にする者はなく、レミュリオは冷たい牢獄を後にした。
◇
「ねえ、エラ。王子殿下が間もなく王位を継がれるって本当?」
「はい、年明けと共に王位継承の儀が執り行われるそうです」
王女の東宮でリーゼロッテは年の瀬を過ごしていた。フーゲンベルク家には一度も戻れずに、ジークヴァルトとも数えるほどしか会えていない。
(まるで浦島太郎状態ね)
ここにいると時間がゆっくりと過ぎていく。代り映えのしない毎日に、時代の流れに取り残された気分になってくる。することもなく、雪の積もる庭をただ眺めた。
ルチアは新年を迎えるにあたって、一度ブルーメ家に帰された。エラだけは変わらずリーゼロッテのそばにいてくれている。
「エラも儀に出たかったでしょう? わたくしにつき合わせてごめんなさい」
「いえ、お嬢様のそばにいられることが、わたしにとっていちばんですから」
「ありがとう、エラ」
笑顔を返し、再び庭へと視線を向けた。アンネマリーの婚儀の様子を思い出す。きっと王位継承の儀も、荘厳で華やかなものになるのだろう。
(この世界にもネット中継とか動画とかがあればよかったのに)
そんなことを思うが、この静かな国には不似合いそうだ。
穏やかに日々は繰り返されて、教えられなければ気づかないくらいの感覚で、リーゼロッテは年越しを迎えた。
王城で鳴らされた新年を迎える鐘は、朝焼けの中、ここ東宮までも遠く空に響き渡った。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。年明けとともに行われた王位継承の儀。そこでハインリヒ王子が視た龍の真実とは? 新しい御代に国中が沸き立つ中、その影で動き出した宿命は誰にも止めることはできなくて……。
次回4章第14話「受け継ぎし者 -後編-」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
祈りの間での瞑想で、この国の成り立ちを垣間見ていくハインリヒ。回を重ねるごとに青龍への不信感がつのっていって。思い悩むハインリヒをなんとか癒そうと、アンネマリーは懸命に努力をします。その思いに触れ、さらに愛を深め合うふたり。
そんな日の翌朝、ハインリヒの龍のあざが消え、アンネマリーの胎内に託宣を受けた子供が宿ったことを知るのでした。
「おめでとう、アンネマリー! わたくしに甥ができるのね!」
王妃の離宮を訪ねるなり、第三王女のピッパが飛びつくように抱き着いてきた。勢いでよろけたアンネマリーに、慌てたハインリヒがその背を支える。
「ピッパ様、王女ともあろうお方がなんと落ち着きのない」
「だってうれしいんだもの! アンネマリーに赤ちゃんができたのよ?」
「また呼び捨てなどにして。アンネマリー様は間もなく王妃殿下になられるのですよ」
「いいのよ、ルイーズ。今は公式な場でもないのだから」
ピッパを窘める女官のルイーズに、アンネマリーは穏やかな笑顔を返した。
「いいえ、ピッパ様はこれから多くの貴族の前に出る機会が増えてまいります。公私をきちんと使い分けられるならともかく、今のままでは目も当てられないことになりかねません」
「場をわきまえることくらいわたくしにだってできるわ」
不服そうに言ってピッパは優雅に淑女の礼を取る。
「アンネマリー王太子妃殿下、ご懐妊おめでとうございます。国の安泰を思うと、わたくしも王女としてよろこばしいですわ。健やかな御子の誕生を、心よりお祈り申し上げております」
「あたたかいお言葉に感謝します、ピッパ王女」
それに向けてアンネマリーも鷹揚に頷いた。
「ほら、どう? ちゃんとできるでしょう?」
ピッパが自慢げに胸を反らせたときに、カイを連れたイジドーラ王妃が姿を現した。
「アンネマリー、体調に問題はなくて?」
「はい、イジドーラお義母様。まだ実感はないのですけれど、なんだか最近やたらとお腹が空いてしまって……」
「子が欲しがっているのね。気にせず食べるといいわ」
アンネマリーの両手がそっと腹に添えられる。その上にハインリヒの手が重ねられ、ふたりはしあわせそうに微笑み合った。
「ハインリヒ様、この度は誠におめでとうございます」
「ああ、ありがとう。カイ……お前にはいろいろと気苦労をかけた」
「いいえ、すべて順調に事が運んでオレも本当にうれしく思っていますから。それでハインリヒ様は、もう女性に触れても大丈夫になったんですよね?」
「え? ああ……そう、だな。恐らくそのはずだ」
王位を継ぐ託宣を受けた者に、守護者は代々受け継がれていく。新しい託宣者が命を結んだ今、守護者はハインリヒからその子供に移ったと言えた。それはアンネマリー以外の女性に触れたとしても、守護者が牙を剥くことはないということだ。
「なんのお話ですか、ハインリヒお兄様?」
事情を知らないピッパが、不思議そうにハインリヒに手を伸ばしてくる。その指先が触れる寸前に、ハインリヒは条件反射のように距離を取った。長年染みついた恐怖が、どうしても万が一を想像させてしまう。
「ハインリヒ」
イジドーラに名を呼ばれ、ハインリヒは強張った顔を上げた。感慨深そうに目を細め、イジドーラはためらいもなくハインリヒを抱きしめた。
「この腕にもう一度貴方を抱ける日を、心待ちにしていたわ」
「義母上……」
ハインリヒの体から力が抜けていく。震えながら、その手はイジドーラの背に回された。
――守護者の呪縛から解き放たれた
もう二度と、あの悲劇を繰り返すことはない。そのことを実感した瞬間だった。
「わあ、本当によかったですね! これでどんな女性も触りたい放題ですよ。ほら、ハインリヒ様、いつも気になる女官を目で追ってたし、これからは遠慮せずどんどん触っちゃってください」
その横でカイが朗らかに言う。感動の場面が一気に台無しとなり、心なしかアンネマリーの視線が冷たくなった。
「ば、馬鹿を言うな、カイ」
「馬鹿も何も、昔からハインリヒ様、胸の大きな女官が好きだったじゃないですか」
「なっ!? そんなことあるわけないだろう」
「そうね。ハインリヒが赤子の頃は、誰よりもジルケに懐いていたわね」
「義母上まで……! ち、違うんだ、アンネマリー」
ハインリヒ誕生の前後から、ジルケは前王妃セレスティーヌの元へと頻繁に呼ばれていたと聞く。アンネマリーの母親だけあって、なかなか豊満な胸の持ち主だ。
頬を膨らませ微妙に距離を開けたアンネマリーを、ハインリヒは慌てて抱き寄せた。
「誤解だ。そんな記憶もない赤ん坊の頃の話を持ち出されてもだな……」
唇を尖らせて顔を背けるアンネマリーを、どうにかこうにか宥めている。そんなふたりを見やり、してやったりとカイは必死に笑いを堪えていた。
「祝いの贐はそれくらいにしておやりなさい」
いたずらな笑みを刷くイジドーラに、カイは同様にいたずらな目配せを返した。
「分かってくれ、アンネマリー。わたしには君しかいないんだ。アンネマリーだけがいればいい。本当だ、信じてくれ」
必死に言葉を並べるハインリヒに、アンネマリーは根負けしたように口元に笑みを乗せた。困り果てた顔に片手を添えて、反対の頬に口づけを落とす。
「ちゃんと分かっているし、怒ってなどいないから」
「よかった……アンネマリーに嫌われたら、わたしはどうしたらいいのか分からない」
「わたくしだって、触れたいのも触れてほしいのも、ハインリヒ、あなただけよ」
「ああ、わたしもだ」
生温かい周囲の視線をよそに、ふたりきりの世界で抱きしめ合う。そんな中、ふとハインリヒの瞳に影が落ちた。
「だが……わたしには、ひとりだけ……会いに行かねばならない女性がいる」
苦し気に耳元で紡がれた言葉に、アンネマリーはシャツの背をぎゅっと握りしめた。ハインリヒが言っているのは、かつて守護者が傷つけたという令嬢――アデライーデのことだと悟る。
「すまない……」
「何があったとしても、わたくしはハインリヒと共にありますわ」
やわらかい髪に手を差し込んで、アンネマリーは労わるようにやさしく撫でた。ハインリヒの腕に力がこもる。
「ありがとう、アンネマリー……」
その後、殺人的なスケジュールの合間を縫って、ハインリヒはアデライーデを呼び出したのだった。
◇
「ハインリヒ様ー、お待ちかねの方がいらしてますよー」
軽いノックと共にカイが執務室に顔を出した。その後ろに騎士服姿のアデライーデがいる。強張った顔で席を立つと、アデライーデはハインリヒの前まで歩を進めてきた。
「責任を持ってハインリヒ様の骨は拾っておきますので、どうぞ心置きなく」
そんな言葉をアデライーデに残して、カイは部屋を出ていった。耳に痛い沈黙の中、アデライーデが瞳を伏せて騎士の礼を取る。
「呼び立ててすまない。本来ならわたしが赴くべきなのに……」
「いえ、王太子殿下は今大事なとき。王位を継ぐ準備のために、休む暇もなく過ごされていることでしょう。この度はアンネマリー妃殿下のご懐妊おめでとうございます。お仕えする身として至極のよろこびでございます」
「ああ、ありがとう……今は人目もない。礼は不要だ」
硬い顔のままハインリヒはアデライーデの正面に立った。アンネマリーが託宣の子供を宿した今、ハインリヒに守護者はついていない。アデライーデも呼ばれた理由は分かっているはずだ。
「今こそ、あの日の約束を果たしてほしい」
「そう……じゃあ、遠慮なく一発殴らせてもらうわ」
アデライーデは表情なくハインリヒを真っすぐに見つめた。上下にかかる傷痕が、右目の眼帯から垣間見える。
己の愚かな行いが、今なお彼女の美しい顔に刻み込まれている。ハインリヒの顔が苦しげに歪められた。
「まずはそこに膝をつきなさい」
床に向けられた指先に、頷いて両膝をつく。ハインリヒを冷たく見下げ、アデライーデは一歩前に出た。次いでぼきりと拳を鳴らす。
「覚悟はできてるわね?」
「ああ、思う存分やってくれ」
瞳を閉じた暗闇の中、ふっと笑った気配がした。
「歯を食いしばりなさい!」
空気の流れで拳が振り上げられたのが分かる。奥歯を噛みしめその時を待った。しかし一向に衝撃は来ず、ぎゅっと目をつむった状態でハインリヒはふわりと何かに包まれた。
膝をついたハインリヒの頭を、アデライーデは胸に抱いていた。その髪をやわらかく撫でていく。
「……アデライーデ?」
「ねぇ、ハインリヒ……これでもう、終わりにしましょう?」
アデライーデは囁くように言う。頭の上からする静かな声を、抱きしめられたままハインリヒはただ聞いていた。
「わたしね、今の自分が好きよ。騎士の仕事だって性に合ってるって思ってる。だけど……だけどね。だからといって、あの事があってよかっただなんて、どうあってもそんなふうに思うことはできない……」
あたたかな胸元から、アンネマリーとは違う甘い香りがする。同時に頬にあたる騎士服のボタンの冷たさに、アデライーデの置かれた立場を痛感した。
貴族女性であるアデライーデが騎士の道を選んだのは、自らが望んだわけではない。この手が彼女の未来を引きちぎった事実は、永劫、消えることはない。
ハインリヒの口から嗚咽が漏れる。間もなく王となる立場であっても、あふれ出る涙を堪えることはできなかった。
「でも……わたしたち、今まで十分傷ついて来たわ……だから、これでお終いにしていいと思うの。もういい加減、前を見て歩いていかなくちゃ。わたしはわたしにしかできないことをするわ。ハインリヒも、あなたにしかできないことがたくさんあるでしょう?」
「アデラ……イーデ……」
やさしく頭を撫でる手つきに、遠い日の記憶がよみがえる。ちょっとしたことですぐ泣く幼いハインリヒを、アデライーデはいつだってこうやって慰めてくれていた。
「もう、なんて顔してるのよ。仕方のない子ね」
やさしかった手が、いきなりハインリヒの鼻をつまみ上げた。もげそうなくらいにねじり上げられて、ハインリヒは尻もちをつきながら思わずアデライーデの体を押しやった。
「ほら、泣き止んだ」
「アデライーデ、お前な……!」
いたずらっぽく笑うアデライーデに、赤くなった鼻をさすりながら抗議の視線を送る。これも、いつまでたっても泣き止まないハインリヒが、アデライーデに何度もやられたことだ。最もあまりの痛さに、泣き止むどころか余計に大泣きさせられたハインリヒだった。
「もういいから立ちなさい」
手を引かれ、ハインリヒは立ち上がった。つないだ手のぬくもりは、今も昔も変わらない。
眩しく目を細めたハインリヒの前で、アデライーデは再び騎士の顔となった。片膝をつき、忠誠を誓うように深々と頭を垂れる。ダークブラウンの真っすぐなポニーテールが、肩口からさらりとこぼれ落ちた。
「ハインリヒ殿下……国のため、そして民のため、どうぞ良き王とおなりください」
部屋を出ていく凛とした背中を、いつまでも見送った。
姉のように。友のように。時には母のように。いつでも愛情をもって接してくれたアデライーデが、ハインリヒは大好きだった。きっと自分の初恋は彼女だったのだろう。腑に落ちたようにそんなことを思った。
「ハインリヒ……」
遠慮がちにかけられた声に、笑みを向ける。カイが気を遣って呼んだのかもしれない。手を差し伸べるとアンネマリーは、何も言わずに身を寄せてきた。
「わたしは正しき王となる。決して道を誤らぬよう、アンネマリー、わたしと共に歩んでくれるか?」
「もちろんです……そのお役目、王妃として立派に果たして見せますわ」
新年を迎えるとともに、王位継承の儀が執り行われる。その瞳に、もう、迷いはなかった。
◇
国境付近にある騎士団の城塞に戻ったアデライーデは、自室で暖炉の火を見つめていた。
毛足の長いふかふかの絨毯に直接座り、クッションにうずもれながら過ごすのが冬の日常だ。ブランケットに包まって、転寝するのがなんとも心地よい。
年が明ければハインリヒが王となる。過去にしがみついても、時は勝手に流れていく。巻き戻せない時間に囚われたまま生きるのは、もういい加減やめにしたかった。
(ハインリヒにはああ言ったけど……)
いまだにあの日を夢に見る。頻度は減ってはいるものの、繰り返される痛みと熱と苦しみが、先に進もうとするアデライーデを阻んでくる。
薪が爆ぜる音を耳にしながら、抱えた膝に頭を乗せる。あの炎に身を投じてしまえたら。ここに座って幾度そう思ったことか。
「あでりーサマ、またそんなトコで寝ないでクダサイね」
「別にいいでしょ。ランプってほんと口うるさいんだから」
声をかけてきたのはバルバナス付きの小姓のランプレヒトだ。見た目は可愛らしい少年の姿をしている。だがアデライーデがこの砦に来て六年、ランプレヒトの姿はずっと成長していなかった。言動も大人びていて、本当はいくつなのか分からない謎な存在だ。
「ばるばなすサマがいないときにおカゼでも召されたら、ボクが怒られるんデスよ? リフジンにもほどがありマス」
「風邪なんか引かないわよ。ランプの薬、苦いから飲みたくないもの」
「甘くもつくれマスけどね」
「じゃあそうしなさいよ」
「いやデス。あのマズそうに歪められたカオを見るのがスキなんデス」
ランプレヒトはバルバナスの世話をする以外は、部屋にこもって薬草を煎じて過ごしている。彼からはいつも青臭いにおいがする。もう慣れてしまったが、はやく部屋から出ていってほしかった。
「もう分かったからあっち行って」
「イチオウ、忠告だけはしましたカラね」
ここは自室の居間ではあるが、バルバナスと共用だ。寝室は別々だが、ランプレヒトを含めて三人で過ごしている部屋だった。
再びひとりきりになったアデライーデは、暖炉で踊る炎を見つめながら、クッションの中に身を沈めた。そのひとつを胸に抱き、深く息をつく。
今日はまたあの夢を見そうだ。そんな予感は大抵当たってしまう。
「何しけた顔してんだ?」
「ちょっと……!」
いきなりブランケットをはぎ取られる。心地よい温もりを奪われて、アデライーデはいつの間にか戻っていたバルバナスを睨み上げた。
バルバナスはそのブランケットを自分で羽織り、後ろにどっかりと腰かけた。そのまま引き寄せ、アデライーデを腕の中に囲ってくる。バルバナスごとブランケットに包まれて、再び心地よい熱が戻ってきた。
「ハインリヒんとこ行ってきたのか?」
「ええ」
「そうか」
バルバナスの胸に顔を預け、アデライーデは力を抜いた。耳に鼓動を聞きながら、充足と安堵に包まれる。
アデライーデはバルバナスに連れられて、ここ騎士団の城塞へとやってきた。毎晩のように悪夢にうなされ泣き叫んでいたアデライーデに、バルバナスはいつだって寄り添うように温もりを与えてくれた。それは今になっても変わらない。
この暖かさが傷ついた少女のままでいることを許してくれる。自分が過去を捨て切れないのは、バルバナスがいるからなのだろう。
そう思ってもアデライーデは、心地よい腕の中から抜け出すことはできなかった。武骨な手が、あやすように頭を撫でていく。
「今夜はずっとこうしててやる。心配せずぐっすり眠れ」
ここなら怖い夢を見ることはない。そんな確信の中、訪れた睡魔に抗うことなく、アデライーデはまどろみに沈んでいった。
◇
ひんやりと沈黙を貫く牢獄に、レミュリオは今日も足を運んでいた。年内最後の訪問だ。騎士のひとりに案内されて、いつもの牢の前で足を止めた。
「では、時間になったらまた迎えに来ます」
鍵を開けると騎士は去っていく。牢の主は開け放たれた扉に目をくれることなく、簡素な寝台の上であぐらをかいて瞳を閉じていた。
「ミヒャエル様、瞑想中に失礼します」
「レミュリオか……」
静かに開かれた瞳はいつになく澄んでいる。盲いたレミュリオには目視はできないが、以前と同一人物とは思えないほどの穏やかな気を、ミヒャエルはその身に纏っていた。
「今日は良いお知らせが。ハインリヒ王子が王位を継ぐにあたって、ミヒャエル様の罪が軽減されることとなりました。ミヒャエル様は神殿へと移り、そこで余生を過ごすようにとのことです。神殿の監視下には置かれますが、今よりもずっと自由が与えられるそうですよ」
「恩赦など要らぬ」
短く言って、ミヒャエルは再び瞳を閉じた。
「王がお決めになったことですから。どのみちここから出られるのは、王位継承の儀が済んでからになるでしょう。年明けにまた参りますので、詳しいことはその時にでも。どうぞ良き年をお迎えください。ミヒャエル様に青龍の加護があらんことを」
最後に祈りを捧げ、レミュリオは牢から出ていった。思いのほか早く戻ってきたレミュリオに、騎士が慌てて鍵を掛けに行く。
来た廊下を振り返り、レミュリオは表情なくつぶやいた。
「……所詮は青龍に選ばれもしなかった男。再びチャンスを与えられたところで時間の無駄でしたか」
その言葉を耳にする者はなく、レミュリオは冷たい牢獄を後にした。
◇
「ねえ、エラ。王子殿下が間もなく王位を継がれるって本当?」
「はい、年明けと共に王位継承の儀が執り行われるそうです」
王女の東宮でリーゼロッテは年の瀬を過ごしていた。フーゲンベルク家には一度も戻れずに、ジークヴァルトとも数えるほどしか会えていない。
(まるで浦島太郎状態ね)
ここにいると時間がゆっくりと過ぎていく。代り映えのしない毎日に、時代の流れに取り残された気分になってくる。することもなく、雪の積もる庭をただ眺めた。
ルチアは新年を迎えるにあたって、一度ブルーメ家に帰された。エラだけは変わらずリーゼロッテのそばにいてくれている。
「エラも儀に出たかったでしょう? わたくしにつき合わせてごめんなさい」
「いえ、お嬢様のそばにいられることが、わたしにとっていちばんですから」
「ありがとう、エラ」
笑顔を返し、再び庭へと視線を向けた。アンネマリーの婚儀の様子を思い出す。きっと王位継承の儀も、荘厳で華やかなものになるのだろう。
(この世界にもネット中継とか動画とかがあればよかったのに)
そんなことを思うが、この静かな国には不似合いそうだ。
穏やかに日々は繰り返されて、教えられなければ気づかないくらいの感覚で、リーゼロッテは年越しを迎えた。
王城で鳴らされた新年を迎える鐘は、朝焼けの中、ここ東宮までも遠く空に響き渡った。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。年明けとともに行われた王位継承の儀。そこでハインリヒ王子が視た龍の真実とは? 新しい御代に国中が沸き立つ中、その影で動き出した宿命は誰にも止めることはできなくて……。
次回4章第14話「受け継ぎし者 -後編-」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
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