ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

古堂 素央

文字の大きさ
49 / 49

最終話 逆転の未来へ

しおりを挟む
「お爺様にそこまで言われると、わたくしその気になってしまいそう」
「いやいやいや、駄目だアンドレア! それならシュミット家を一緒に盛り立てよう! この子のためにも、な?」
「そんなに必死にならなくっても。この子が大きくなるまでは、わたくしも大人しくしているわ」
「なに、今すぐに決めずとも良い。なんならひ孫を王にするか。わしもあと十年はくたばる気はないのでな」
「それも駄目です! この子はシュミット家の大事な跡取りなんですから!」

 慌てたエドガーが、隠すようにアンドレアごと赤ん坊を抱え込んだ。
 どこまでが本気か分からない顔で、祖父は面白そうにそれを眺めている。
 一年前には思いもしなかった日常だ。
 そんな人生を歩んでいることに、アンドレアはなんだか不思議な気持ちになった。
 以前のアンドレアは、領地経営と、ポールと、数少ない友人と。
 そしてシュナイダー家だけが生活のすべてだった。

(思えば、わたくしはそんな狭い世界で生きていたのね……)

 今見えるのは、無限の世界だ。
 どんな未来も選び取ることができる。
 アンドレアの目の前には、そんな景色がどこまでも広がっているように思えた。
 あの家で何も動かず我慢ばかりを続けていたら、今頃は一体どうなっていただろう。
 ふとそんなことを考える。

(ポールにこき使われて、領地経営に追われて、子供を産んだライラに毎日馬鹿にされて……)

 公爵夫人という張りぼてをかぶり続け、アンドレア個人として生きることなく、シュナイダー家で一生を終えていたら――。
 エドガーに愛される喜びも、この腕に抱くこの子の重みも、アンドレアは知ることはできなかった。

「エドガー、本当にありがとう」
「ん? いきなりどうしたんだ?」

 うれしそうにしつつも、エドガーは少し戸惑った様子だ。

「今わたくしがここでこうしていられるのも、あの日エドガーがわたくしに会いに来てくれたからだって思ったの」
「アンドレア……」

 エドガーはシュナイダー家と取引のあった商会を、わざわざ私財を使って買い取った。
 それもアンドレアに会うためだけにだ。
 そして一生父と名乗りを上げられないと分かっていながら、アンドレアと子をすことを快く引き受けてくれた。

「あのままシュナイダー家を出ないでいたら、エドガーはこの子を腕に抱くことすらできなかったでしょう? そんな残酷な未来を選ばなくてよかった。あの時、エドガーと生きる道を選んで本当によかった。エドガー、わたくしを愛してくれて……この子を授けてくれて……本当に、本当にありがとう……」

 目頭が熱くなり、胸の奥からどうしようもなく感謝がこみ上げてくる。
 見つめ合うエドガーもまた涙ぐんでいた。

「俺はアンドレアとこの子を、何があっても守り抜く。だからいつまでも俺のそばで笑っていてくれ」
「ええ、エドガー。約束よ」

 腕に抱く我が子ごと、エドガーに抱きしめられる。
 その温かさにアンドレアはしあわせを噛みしめた。

「というわけで、アンドレアはお諦めください」
「孫娘のしあわせのためだからのう。仕方がない、わしは潔く引くとするか」

 エドガーがほっと息をつく。
 それを見て、人が悪そうに祖父はにやりと笑った。

「だがアンドレア、気が変わったらすぐに言ってくれ。わしは気長に待っておるぞ」
「まぁ、光栄ですわ」
「アンドレア……国王様も勘弁してください……」
「なぁに、アンドレアを繋ぎ止められるか、お主の踏ん張り次第であろう?」
「全身全霊をかけて頑張らせていただきますっ」

 エドガーの力一杯の宣誓に、赤ん坊がきゃっきゃとはしゃぎ出す。

「そうか、お前も父を応援してくれるか」
「ならば、次期国王としてこの子をもらい受けようかの。シュミット家の跡継ぎはまた作ればよかろう」
「もう、お爺様ったら。そんな物のように簡単に子供は作れませんわ」

 呆れながらも、アンドレアの中で夢が膨らんだ。

(もしも、もうひとり子供がいたら……)

 男の子だったら益々にぎやかに、女の子だったらシュミット家がもっと明るく華やかになるかもしれない。
 そのを嫁に出すときのエドガーの顔が浮かんでくる。
 あまりの情けない表情に、想像だというのにアンドレアはくすくすと笑ってしまった。

「アンドレア?」
「なんでもないわ、エドガー」

 次の子供を望んでいるなどと言ったら、またエドガーが面倒くさいことになりそうだ。

 そんなことを思って、アンドレアはそ知らぬ顔で微笑んだ。

(この先にどんな未来が待っているかは分からないけれど……)

 アンドレアは今、これまでと真逆の世界を生きている。
 愛する者に守られて、アンドレアもまた愛する者を守っていく。
 依存も自己犠牲もなく、互いを慈しみ思い合える。
 これからもそんな人生を歩んでいけるようにと、アンドレアは広がる未来へどこまでも思いを馳せた。




                    完

しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

のん
2025.10.01 のん

ライラって姉を殺そうとしたのに、人の良いオジサンだけど公爵の奥さんになれるのですね、ポールと同罪だと思いましたが
ハピエンは良かったです!

2025.10.01 古堂 素央

ライラは今後生活の全てが管理下に置かれて、一切の自由のない人生を送ります
その上で同じことを繰り返すのなら、ポール同様島流しに合うかもしれませんね
アンドレアもライラは父親に洗脳されたと感じているので、更生の機会を与えた祖父に素直に従うスタンスです
ハピエンを喜んでいただけてわたしもうれしいです
ご感想ありがとうございました✨

解除
ぷりん
2025.09.14 ぷりん

一気読みしました。
ポールがアホ過ぎて………。
アンドレアが幸せになれて良かったです。

いくら元気でも国王は90歳を越えているのだから、次代を決めるのは待ったなし。
アンドレアとエドガーの子の成長は待てないので、中継ぎだとしても2人のどちらかが王にならないといけないのはほぼ確定かなぁ?

ポールの流刑島生活と、父親よりも年上の元王太子の結婚したライラ。
特にライラはどんな感じか気になりますね。
元王太子がライラを気に入ったというのは、倒錯的な何かではなく、あの精神年齢5歳のライラをちゃんとイチから人間育てをするという事?
それにしても40歳年下ってなかなか凄い。

2025.09.14 古堂 素央

一気読みありがとうございます!
ポールの自信は本人に裏打ちされたものがない張りぼてなので、本気を出したアンドレアに叶うはずもなかったのだと思っています
王座は渋々エドガーが…の線が濃厚で、国王は案外120歳くらいまで元気でいそうとか思っている作者です
物語が逸れないよう王太子のことは詳しく書かなかったのですが、争いを嫌う純粋で趣味に没頭してしていたいタイプの人です
ライラは気の強いワンちゃん感覚で根気よく仲良くなれるかも? それもライラ次第で、元王太子もライラからいろいろと学ぶんだと思います
素敵なご感想をありがとうございました✨
今後の励みになります!

解除
みもま
2025.09.14 みもま

アルファポリスで古堂先生の作品が読めるなんて!
登録しておいて良かったです。

アンドレアが自分の人生取り戻せて良かった。
ライラへの温情が古堂先生らしいなぁと思いました。

2025.09.14 古堂 素央

みもま 様!😳
アルファポリスでも読んでいただけるなんてうれしいです!
(こっそりあちこちで投稿してたりします)
ライラがあの処遇を恩情と捉えるか…
これから先、ライラが幸せになるか不幸になるかは本人次第かな?となってます🤔
龍の託宣も今書いているので、もうしばらくお待ちくださいませ!
ここで書くことではない??😂

解除

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。