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最終話 逆転の未来へ
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「お爺様にそこまで言われると、わたくしその気になってしまいそう」
「いやいやいや、駄目だアンドレア! それならシュミット家を一緒に盛り立てよう! この子のためにも、な?」
「そんなに必死にならなくっても。この子が大きくなるまでは、わたくしも大人しくしているわ」
「なに、今すぐに決めずとも良い。なんならひ孫を王にするか。わしもあと十年はくたばる気はないのでな」
「それも駄目です! この子はシュミット家の大事な跡取りなんですから!」
慌てたエドガーが、隠すようにアンドレアごと赤ん坊を抱え込んだ。
どこまでが本気か分からない顔で、祖父は面白そうにそれを眺めている。
一年前には思いもしなかった日常だ。
そんな人生を歩んでいることに、アンドレアはなんだか不思議な気持ちになった。
以前のアンドレアは、領地経営と、ポールと、数少ない友人と。
そしてシュナイダー家だけが生活のすべてだった。
(思えば、わたくしはそんな狭い世界で生きていたのね……)
今見えるのは、無限の世界だ。
どんな未来も選び取ることができる。
アンドレアの目の前には、そんな景色がどこまでも広がっているように思えた。
あの家で何も動かず我慢ばかりを続けていたら、今頃は一体どうなっていただろう。
ふとそんなことを考える。
(ポールにこき使われて、領地経営に追われて、子供を産んだライラに毎日馬鹿にされて……)
公爵夫人という張りぼてをかぶり続け、アンドレア個人として生きることなく、シュナイダー家で一生を終えていたら――。
エドガーに愛される喜びも、この腕に抱くこの子の重みも、アンドレアは知ることはできなかった。
「エドガー、本当にありがとう」
「ん? いきなりどうしたんだ?」
うれしそうにしつつも、エドガーは少し戸惑った様子だ。
「今わたくしがここでこうしていられるのも、あの日エドガーがわたくしに会いに来てくれたからだって思ったの」
「アンドレア……」
エドガーはシュナイダー家と取引のあった商会を、わざわざ私財を使って買い取った。
それもアンドレアに会うためだけにだ。
そして一生父と名乗りを上げられないと分かっていながら、アンドレアと子を生すことを快く引き受けてくれた。
「あのままシュナイダー家を出ないでいたら、エドガーはこの子を腕に抱くことすらできなかったでしょう? そんな残酷な未来を選ばなくてよかった。あの時、エドガーと生きる道を選んで本当によかった。エドガー、わたくしを愛してくれて……この子を授けてくれて……本当に、本当にありがとう……」
目頭が熱くなり、胸の奥からどうしようもなく感謝がこみ上げてくる。
見つめ合うエドガーもまた涙ぐんでいた。
「俺はアンドレアとこの子を、何があっても守り抜く。だからいつまでも俺のそばで笑っていてくれ」
「ええ、エドガー。約束よ」
腕に抱く我が子ごと、エドガーに抱きしめられる。
その温かさにアンドレアはしあわせを噛みしめた。
「というわけで、アンドレアはお諦めください」
「孫娘のしあわせのためだからのう。仕方がない、わしは潔く引くとするか」
エドガーがほっと息をつく。
それを見て、人が悪そうに祖父はにやりと笑った。
「だがアンドレア、気が変わったらすぐに言ってくれ。わしは気長に待っておるぞ」
「まぁ、光栄ですわ」
「アンドレア……国王様も勘弁してください……」
「なぁに、アンドレアを繋ぎ止められるか、お主の踏ん張り次第であろう?」
「全身全霊をかけて頑張らせていただきますっ」
エドガーの力一杯の宣誓に、赤ん坊がきゃっきゃとはしゃぎ出す。
「そうか、お前も父を応援してくれるか」
「ならば、次期国王としてこの子をもらい受けようかの。シュミット家の跡継ぎはまた作ればよかろう」
「もう、お爺様ったら。そんな物のように簡単に子供は作れませんわ」
呆れながらも、アンドレアの中で夢が膨らんだ。
(もしも、もうひとり子供がいたら……)
男の子だったら益々にぎやかに、女の子だったらシュミット家がもっと明るく華やかになるかもしれない。
その娘を嫁に出すときのエドガーの顔が浮かんでくる。
あまりの情けない表情に、想像だというのにアンドレアはくすくすと笑ってしまった。
「アンドレア?」
「なんでもないわ、エドガー」
次の子供を望んでいるなどと言ったら、またエドガーが面倒くさいことになりそうだ。
そんなことを思って、アンドレアはそ知らぬ顔で微笑んだ。
(この先にどんな未来が待っているかは分からないけれど……)
アンドレアは今、これまでと真逆の世界を生きている。
愛する者に守られて、アンドレアもまた愛する者を守っていく。
依存も自己犠牲もなく、互いを慈しみ思い合える。
これからもそんな人生を歩んでいけるようにと、アンドレアは広がる未来へどこまでも思いを馳せた。
完
「いやいやいや、駄目だアンドレア! それならシュミット家を一緒に盛り立てよう! この子のためにも、な?」
「そんなに必死にならなくっても。この子が大きくなるまでは、わたくしも大人しくしているわ」
「なに、今すぐに決めずとも良い。なんならひ孫を王にするか。わしもあと十年はくたばる気はないのでな」
「それも駄目です! この子はシュミット家の大事な跡取りなんですから!」
慌てたエドガーが、隠すようにアンドレアごと赤ん坊を抱え込んだ。
どこまでが本気か分からない顔で、祖父は面白そうにそれを眺めている。
一年前には思いもしなかった日常だ。
そんな人生を歩んでいることに、アンドレアはなんだか不思議な気持ちになった。
以前のアンドレアは、領地経営と、ポールと、数少ない友人と。
そしてシュナイダー家だけが生活のすべてだった。
(思えば、わたくしはそんな狭い世界で生きていたのね……)
今見えるのは、無限の世界だ。
どんな未来も選び取ることができる。
アンドレアの目の前には、そんな景色がどこまでも広がっているように思えた。
あの家で何も動かず我慢ばかりを続けていたら、今頃は一体どうなっていただろう。
ふとそんなことを考える。
(ポールにこき使われて、領地経営に追われて、子供を産んだライラに毎日馬鹿にされて……)
公爵夫人という張りぼてをかぶり続け、アンドレア個人として生きることなく、シュナイダー家で一生を終えていたら――。
エドガーに愛される喜びも、この腕に抱くこの子の重みも、アンドレアは知ることはできなかった。
「エドガー、本当にありがとう」
「ん? いきなりどうしたんだ?」
うれしそうにしつつも、エドガーは少し戸惑った様子だ。
「今わたくしがここでこうしていられるのも、あの日エドガーがわたくしに会いに来てくれたからだって思ったの」
「アンドレア……」
エドガーはシュナイダー家と取引のあった商会を、わざわざ私財を使って買い取った。
それもアンドレアに会うためだけにだ。
そして一生父と名乗りを上げられないと分かっていながら、アンドレアと子を生すことを快く引き受けてくれた。
「あのままシュナイダー家を出ないでいたら、エドガーはこの子を腕に抱くことすらできなかったでしょう? そんな残酷な未来を選ばなくてよかった。あの時、エドガーと生きる道を選んで本当によかった。エドガー、わたくしを愛してくれて……この子を授けてくれて……本当に、本当にありがとう……」
目頭が熱くなり、胸の奥からどうしようもなく感謝がこみ上げてくる。
見つめ合うエドガーもまた涙ぐんでいた。
「俺はアンドレアとこの子を、何があっても守り抜く。だからいつまでも俺のそばで笑っていてくれ」
「ええ、エドガー。約束よ」
腕に抱く我が子ごと、エドガーに抱きしめられる。
その温かさにアンドレアはしあわせを噛みしめた。
「というわけで、アンドレアはお諦めください」
「孫娘のしあわせのためだからのう。仕方がない、わしは潔く引くとするか」
エドガーがほっと息をつく。
それを見て、人が悪そうに祖父はにやりと笑った。
「だがアンドレア、気が変わったらすぐに言ってくれ。わしは気長に待っておるぞ」
「まぁ、光栄ですわ」
「アンドレア……国王様も勘弁してください……」
「なぁに、アンドレアを繋ぎ止められるか、お主の踏ん張り次第であろう?」
「全身全霊をかけて頑張らせていただきますっ」
エドガーの力一杯の宣誓に、赤ん坊がきゃっきゃとはしゃぎ出す。
「そうか、お前も父を応援してくれるか」
「ならば、次期国王としてこの子をもらい受けようかの。シュミット家の跡継ぎはまた作ればよかろう」
「もう、お爺様ったら。そんな物のように簡単に子供は作れませんわ」
呆れながらも、アンドレアの中で夢が膨らんだ。
(もしも、もうひとり子供がいたら……)
男の子だったら益々にぎやかに、女の子だったらシュミット家がもっと明るく華やかになるかもしれない。
その娘を嫁に出すときのエドガーの顔が浮かんでくる。
あまりの情けない表情に、想像だというのにアンドレアはくすくすと笑ってしまった。
「アンドレア?」
「なんでもないわ、エドガー」
次の子供を望んでいるなどと言ったら、またエドガーが面倒くさいことになりそうだ。
そんなことを思って、アンドレアはそ知らぬ顔で微笑んだ。
(この先にどんな未来が待っているかは分からないけれど……)
アンドレアは今、これまでと真逆の世界を生きている。
愛する者に守られて、アンドレアもまた愛する者を守っていく。
依存も自己犠牲もなく、互いを慈しみ思い合える。
これからもそんな人生を歩んでいけるようにと、アンドレアは広がる未来へどこまでも思いを馳せた。
完
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