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恋人編 10
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「あんた、いきなり呼び出してどうしたのよ。私を呼び出すって事はさ、どうせ面倒事でしょ。勘弁してよ」
彼女は阿川友理子。8コ上の元カノだ。
うん、僕は年上好きだ。
ドラマで何度か共演して、先輩後輩関係から友達になって、友達から恋人になって、今友達に戻っている。色々相談できる、唯一の存在だ。
別れた理由は話すまでもないが、いまだに親交があるのは、単に友理ちゃんの人の良さだと思う。僕を放っておけないらしい。
「忙しいのに悪いね、友理ちゃん」
「今日はあんたの奢りよ、絶対に」
「分かってるって」
僕と8コ上の元カノは、都内のレストランの個室で久々に会っていた。
「で、何?」
「うーん……」
どう話していいか分からない。智ちゃんとの事。別に話さなくてもいい。でも、パパラッチがもう足元まで忍び寄って来ている。だから、友理ちゃんには、他人の声じゃなくて僕から智ちゃんとの関係を知って欲しかった。
「僕さ、付き合ってる人が居てさ……」
「は?」
「え?」
「あんた、それだけの為に私を呼び出したわけ?」
「え?」
「マジなの?バカなの?ったく、家で酒飲んでる方がまし」
彼女はサバサバを通り越して、たまにガサツになる。
「友理ちゃんには、ちゃんと知っておいて欲しくてさ。本当に大切な人が出来たから」
「あらやだ。あんた、結婚すんの?」
「しないよ……」
「なーんだ。で、どんな子なのよ。聞いてやるわよ。せっかく出向いてやってんだから」
「えっとぉ……10コ上でさ……」
「はい、来た。年上キラー」
「身長は170くらい……」
「デカいわね」
「声が凄くイケボで……声優やってて……」
「しかも声優かい」
「茂田井智貴、って言う人なんだよね。知らないかな?」
「……ん?…………なんて?」
「茂田井智貴」
「…………ん?」
「相手、男」
「…………あんたバイだったの?」
「そのようです」
友理ちゃんは大して驚かなかった。それに僕も驚かなかった。
「僕さ、彼の前だと感情が溢れて大変なんだよね。本当の自分ってこんな感じなんだって知れたりして。だから、彼の存在は凄く大きい」
智ちゃんの事、客観的に説明したいのに。結局自分の事を話してしまう。でも、智ちゃんは僕の心を解放してくれた人だから、どうしてもそういう説明になってしまう。
「あんたに感情あるんだ」
友理ちゃんに、そう言われて僕は少し俯いてしまった。確かに、彼女と付き合ってた時も、面白みのない男だったと思う。世話好きの友理ちゃんが、持て余すくらいだったんだから。
「嬉しくて泣いたり、寂しくて泣いたり……」
「泣いてばっか……って、あんた泣くの!?」
「彼の前だとどうしてもメソメソしちゃうんだよね……優しいし、でも僕がダメだから、たまに怒られるけど」
友理ちゃんが、『ウェッ』て顔をしたので、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
「でもさ、良かったじゃない。あんたが、こんなに嬉しそうに誰かの事話すの初めて聞いた」
友理ちゃんはそういうとニコッと笑った。そして、
「でもさ、それだけじゃないでしょ?それだけの為に私を呼び出す訳ないもの。なんかあったの?」
「うん、実は……」と、僕は週刊誌に撮られた事を話した。
「でも結局記事にはしなかったみたい。多分相手は女だって思ってんだろうから。だから、彼との事は知られてない。けど……いつかは……」
「バレた時の心配してるわけ」
呆れ顔の友理ちゃん。
「僕はいい。ただ、彼は本当に人気声優だから、彼のキャリアに傷を付けたくない」
「まぁ、あんたらしいわね」
「そうかな……」
「自分の事はどうでもいい、って所が。彼と話しなさいよ。私に話したってしょうがないじゃない」
「そうだけど」
「私は心から祝福してるわよ。あんたが大切にしたい守りたいものが出来たって、私も凄い嬉しいもの。でもその話は私、力になれない。そもそも悩んでも仕方ないでしょ。そういう商売なんだから私たち。覚悟しなさいよ」
「そうだよね……僕、やっぱり甘えてるよね……」
「うん、甘える相手間違ってる」
その後、酒豪の友理ちゃんは、たらふく高い酒を飲んで「あんたの奢り!」って言いながら、自分で会計して颯爽とタクシーで帰って行った。
◇◆◇◆
久々に智ちゃんのマンションに、お邪魔した。智ちゃんはまだ帰ってなかったけど。
風呂を沸かし、冷蔵庫にある物で適当に夜食を作った。
玄関の方で音がした。智ちゃんが帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま、来てたのか」
「うん。今、お風呂沸かしてる」
「ありがと。一緒に入るか?」
「……入ります」
智ちゃんと湯船に浸かる。
「あったかいね」
「今日も寒かったからな」
「智ちゃん」
「ん?」
「好き」
「俺は愛してるけど」
ずるい智ちゃん……
「俺さ、将暉に聞きたいことが沢山あるなぁ」
「聞きたいこと?」
「そう、何でホテル住まいなのか、とかさ」
「それは説明したじゃん」
「将暉のマンションに行ってみたい」
「行っても何も置いてない」
「将暉さ……たまに存在してるのか分からなくなる時があるよ」
そんな風に思ってたんだ、智ちゃん。
仕方ないよね。僕は自分の痕跡を残すのが苦手だから、マンションは借りているだけで住んでいない。ホテルの方が便利だから。
でも、もうそれはやめにしないとって自分でも思っていたんだよね。
「僕、考えてる事があってね。聞いてくれる?」
「俺が将暉の話聞かなかった事あるか?」
僕はブンブン頭を振って、
「一度もない」と、言った。
「じゃ、のぼせるから、風呂上がってからにしよ」
僕らはお互いの体を拭きあって、智ちゃんの缶ビールと、さっき作った夜食をテーブルに並べて、くっついて座った。
彼女は阿川友理子。8コ上の元カノだ。
うん、僕は年上好きだ。
ドラマで何度か共演して、先輩後輩関係から友達になって、友達から恋人になって、今友達に戻っている。色々相談できる、唯一の存在だ。
別れた理由は話すまでもないが、いまだに親交があるのは、単に友理ちゃんの人の良さだと思う。僕を放っておけないらしい。
「忙しいのに悪いね、友理ちゃん」
「今日はあんたの奢りよ、絶対に」
「分かってるって」
僕と8コ上の元カノは、都内のレストランの個室で久々に会っていた。
「で、何?」
「うーん……」
どう話していいか分からない。智ちゃんとの事。別に話さなくてもいい。でも、パパラッチがもう足元まで忍び寄って来ている。だから、友理ちゃんには、他人の声じゃなくて僕から智ちゃんとの関係を知って欲しかった。
「僕さ、付き合ってる人が居てさ……」
「は?」
「え?」
「あんた、それだけの為に私を呼び出したわけ?」
「え?」
「マジなの?バカなの?ったく、家で酒飲んでる方がまし」
彼女はサバサバを通り越して、たまにガサツになる。
「友理ちゃんには、ちゃんと知っておいて欲しくてさ。本当に大切な人が出来たから」
「あらやだ。あんた、結婚すんの?」
「しないよ……」
「なーんだ。で、どんな子なのよ。聞いてやるわよ。せっかく出向いてやってんだから」
「えっとぉ……10コ上でさ……」
「はい、来た。年上キラー」
「身長は170くらい……」
「デカいわね」
「声が凄くイケボで……声優やってて……」
「しかも声優かい」
「茂田井智貴、って言う人なんだよね。知らないかな?」
「……ん?…………なんて?」
「茂田井智貴」
「…………ん?」
「相手、男」
「…………あんたバイだったの?」
「そのようです」
友理ちゃんは大して驚かなかった。それに僕も驚かなかった。
「僕さ、彼の前だと感情が溢れて大変なんだよね。本当の自分ってこんな感じなんだって知れたりして。だから、彼の存在は凄く大きい」
智ちゃんの事、客観的に説明したいのに。結局自分の事を話してしまう。でも、智ちゃんは僕の心を解放してくれた人だから、どうしてもそういう説明になってしまう。
「あんたに感情あるんだ」
友理ちゃんに、そう言われて僕は少し俯いてしまった。確かに、彼女と付き合ってた時も、面白みのない男だったと思う。世話好きの友理ちゃんが、持て余すくらいだったんだから。
「嬉しくて泣いたり、寂しくて泣いたり……」
「泣いてばっか……って、あんた泣くの!?」
「彼の前だとどうしてもメソメソしちゃうんだよね……優しいし、でも僕がダメだから、たまに怒られるけど」
友理ちゃんが、『ウェッ』て顔をしたので、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
「でもさ、良かったじゃない。あんたが、こんなに嬉しそうに誰かの事話すの初めて聞いた」
友理ちゃんはそういうとニコッと笑った。そして、
「でもさ、それだけじゃないでしょ?それだけの為に私を呼び出す訳ないもの。なんかあったの?」
「うん、実は……」と、僕は週刊誌に撮られた事を話した。
「でも結局記事にはしなかったみたい。多分相手は女だって思ってんだろうから。だから、彼との事は知られてない。けど……いつかは……」
「バレた時の心配してるわけ」
呆れ顔の友理ちゃん。
「僕はいい。ただ、彼は本当に人気声優だから、彼のキャリアに傷を付けたくない」
「まぁ、あんたらしいわね」
「そうかな……」
「自分の事はどうでもいい、って所が。彼と話しなさいよ。私に話したってしょうがないじゃない」
「そうだけど」
「私は心から祝福してるわよ。あんたが大切にしたい守りたいものが出来たって、私も凄い嬉しいもの。でもその話は私、力になれない。そもそも悩んでも仕方ないでしょ。そういう商売なんだから私たち。覚悟しなさいよ」
「そうだよね……僕、やっぱり甘えてるよね……」
「うん、甘える相手間違ってる」
その後、酒豪の友理ちゃんは、たらふく高い酒を飲んで「あんたの奢り!」って言いながら、自分で会計して颯爽とタクシーで帰って行った。
◇◆◇◆
久々に智ちゃんのマンションに、お邪魔した。智ちゃんはまだ帰ってなかったけど。
風呂を沸かし、冷蔵庫にある物で適当に夜食を作った。
玄関の方で音がした。智ちゃんが帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま、来てたのか」
「うん。今、お風呂沸かしてる」
「ありがと。一緒に入るか?」
「……入ります」
智ちゃんと湯船に浸かる。
「あったかいね」
「今日も寒かったからな」
「智ちゃん」
「ん?」
「好き」
「俺は愛してるけど」
ずるい智ちゃん……
「俺さ、将暉に聞きたいことが沢山あるなぁ」
「聞きたいこと?」
「そう、何でホテル住まいなのか、とかさ」
「それは説明したじゃん」
「将暉のマンションに行ってみたい」
「行っても何も置いてない」
「将暉さ……たまに存在してるのか分からなくなる時があるよ」
そんな風に思ってたんだ、智ちゃん。
仕方ないよね。僕は自分の痕跡を残すのが苦手だから、マンションは借りているだけで住んでいない。ホテルの方が便利だから。
でも、もうそれはやめにしないとって自分でも思っていたんだよね。
「僕、考えてる事があってね。聞いてくれる?」
「俺が将暉の話聞かなかった事あるか?」
僕はブンブン頭を振って、
「一度もない」と、言った。
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