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同棲編 7
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僕の直球な問いかけに、智ちゃんは黙ってしまった。
黙るのは仕方ないと思った。これだけの事を抱え込んで隠していたんだ。
「僕との事は、寂しさを埋めるため?」
「まさか……」
「この先も永遠に週刊誌に撮られなかったら、僕には話す気はなかった?」
「ずっと説明しないとって思ってたんだけど……」
「僕たち付き合い出して結構経つし、もう同棲してるんだよ」
「……本当にすまない……苦しくて……」
「元奥さんはもっと苦しいんじゃない?今でも自分が殺してしまったって悔やんでるんじゃない?智ちゃんに、そばに居て欲しかったと思うよ」
夫婦にしか分からない事だけれども、僕はどうしても智ちゃんに言いたくて、偉そうに言ってしまった。
「将暉の言う通りだよ。俺のせいで余計自分を責めてる」
「智ちゃんだって自分を責めてるじゃないか」
「だって俺は……クズだから……」
「そんな言い方するなよ」
僕は智ちゃんの手を握る。智ちゃんも握り返してくる。
「赤ちゃんの名前聞いてもいい?」
「……凛子」
「りんこ、ちゃんか」
「うん。彼女に似てさ。赤ん坊なのに鼻が高くて、将来美人になるなって……」
「そっか」
休憩がてらにコーヒーを淹れた。いつものマグカップに注ぐ。向かい合って二人いつもの席に座って一口飲む。沈黙と、コーヒーのフレーバーが部屋中に広がる。
「俺は、お前を失いたくない……」
智ちゃんが呟いた。
僕は智ちゃんを見つめて、その先を促す。
「俺は、将暉との関係は初めから本気だ。適当に考えた事なんて一度もない。本気で愛してる……」
そう言うと急に黙ってしまう智ちゃん。
「僕はさ、いつも怖かったよ」
僕の言葉に智ちゃんが顔を上げる。
「興味本位で男と付き合ってみたかったんじゃないかな、とか。ずっと一緒に居るのは嫌だって本当は思ってるんじゃないかな、とか。やっぱり、女の方がいいって目が覚めるんじゃないかな、とか」
僕は心にある不安を全て智ちゃんに話してみた。この際だ。僕もちゃんと心の中をさらけ出してしまおう。
「……本気で将暉と付き合い出してから、一度もそんな事考えた事ないよ。むしろどんどん将暉を愛していったし、言ったろ。お前を失うのが一番怖い……」
「怖い……」
「怖いよ。もう愛する人を失いたくない。そう思うのは勝手すぎるか?俺はこれからも仕事優先だと思う。でも、将暉まで失ったら、俺は自堕落な生活に落ちていくのは目に見えている」
智ちゃんのイケボが震えていた。
「智ちゃん。僕と、この先も一緒に居たいの?」
そう聞くと智ちゃんは頷いた。
でも僕は、
「ちゃんと言葉にしてよ」と、意地悪く言う。
「俺は将暉とずっと一緒に居たい。こんなにクズな俺だけど……」
「待って!」と、僕は遮り、
「クズとか、自分の事蔑むような言葉使わないで」と怒った。
「クズじゃんよ、俺」
「違う!不器用なだけ。怖かっただけ」
「怖かった……だけ……か。そうだな。彼女が妊娠した時も焦った。凛子が生まれた時も焦った。凛子が死んだ時も受け入れられなかった。離婚した時、絶望した」
「智ちゃん……やっと本当の気持ち吐き出せたね。良かった」
僕はそう言うと智ちゃんの手を引いて東京タワーが見える窓辺に向かった。
「ほら今日も東京タワーが美しいよ」
「見えない……」
「え?」と、僕は智ちゃんの顔を覗き込む。
「東京タワーがぼやけてて、ちゃんと見えない」と、泣きながら智ちゃんが言った。
暫く何も言うわけでもなく、手を繋いでソファーに座っていた。
僕もやっぱり智ちゃんとずっと一緒に居たいという気持ちは変わらなかった。
「智ちゃん、もうこれ以上この事に関して、僕は何も聞かない。だから、月一の家族団欒は気にしないで会ってきてね」
「ありがと……」
まだ震えているイケボ。
「僕たち、ちょっとだけ似たもの同士?」
「うーん、ちょっとだけな」
やっと智ちゃんが笑った。
「運転中、腕掴んで、ごめんね」
「うん、あれ危ないから、もう止めてな」
「置き去りにして、ごめんね」
「うん、悲しくなっちゃうから、あれも止めてな」
「でもそもそも……」
「うん、俺のせいです。すまなかった」
あっ、と僕は思いついて、
「今回は流石に智ちゃんには罰を与えないとね」と言った。
「罰?」
「うん。当たり前じゃん」
「分かってる。何したらいい?」
「気持ちいいキス」
「キスする事が罰なのか」
「き・も・ち・い・い・キス、だからね」
「将暉……こんな俺を受け入れてくれて、ありがとうな」
「お互い様じゃん。僕たち二人で一人前なんだよ」
僕はそう言いながら智ちゃんに抱きつく。
「俺は将暉を支えて行きたい。だから……」
「僕も智ちゃんを支えたい」
深くトロけるような気持ちいいキスの音が部屋中に響き渡った。
黙るのは仕方ないと思った。これだけの事を抱え込んで隠していたんだ。
「僕との事は、寂しさを埋めるため?」
「まさか……」
「この先も永遠に週刊誌に撮られなかったら、僕には話す気はなかった?」
「ずっと説明しないとって思ってたんだけど……」
「僕たち付き合い出して結構経つし、もう同棲してるんだよ」
「……本当にすまない……苦しくて……」
「元奥さんはもっと苦しいんじゃない?今でも自分が殺してしまったって悔やんでるんじゃない?智ちゃんに、そばに居て欲しかったと思うよ」
夫婦にしか分からない事だけれども、僕はどうしても智ちゃんに言いたくて、偉そうに言ってしまった。
「将暉の言う通りだよ。俺のせいで余計自分を責めてる」
「智ちゃんだって自分を責めてるじゃないか」
「だって俺は……クズだから……」
「そんな言い方するなよ」
僕は智ちゃんの手を握る。智ちゃんも握り返してくる。
「赤ちゃんの名前聞いてもいい?」
「……凛子」
「りんこ、ちゃんか」
「うん。彼女に似てさ。赤ん坊なのに鼻が高くて、将来美人になるなって……」
「そっか」
休憩がてらにコーヒーを淹れた。いつものマグカップに注ぐ。向かい合って二人いつもの席に座って一口飲む。沈黙と、コーヒーのフレーバーが部屋中に広がる。
「俺は、お前を失いたくない……」
智ちゃんが呟いた。
僕は智ちゃんを見つめて、その先を促す。
「俺は、将暉との関係は初めから本気だ。適当に考えた事なんて一度もない。本気で愛してる……」
そう言うと急に黙ってしまう智ちゃん。
「僕はさ、いつも怖かったよ」
僕の言葉に智ちゃんが顔を上げる。
「興味本位で男と付き合ってみたかったんじゃないかな、とか。ずっと一緒に居るのは嫌だって本当は思ってるんじゃないかな、とか。やっぱり、女の方がいいって目が覚めるんじゃないかな、とか」
僕は心にある不安を全て智ちゃんに話してみた。この際だ。僕もちゃんと心の中をさらけ出してしまおう。
「……本気で将暉と付き合い出してから、一度もそんな事考えた事ないよ。むしろどんどん将暉を愛していったし、言ったろ。お前を失うのが一番怖い……」
「怖い……」
「怖いよ。もう愛する人を失いたくない。そう思うのは勝手すぎるか?俺はこれからも仕事優先だと思う。でも、将暉まで失ったら、俺は自堕落な生活に落ちていくのは目に見えている」
智ちゃんのイケボが震えていた。
「智ちゃん。僕と、この先も一緒に居たいの?」
そう聞くと智ちゃんは頷いた。
でも僕は、
「ちゃんと言葉にしてよ」と、意地悪く言う。
「俺は将暉とずっと一緒に居たい。こんなにクズな俺だけど……」
「待って!」と、僕は遮り、
「クズとか、自分の事蔑むような言葉使わないで」と怒った。
「クズじゃんよ、俺」
「違う!不器用なだけ。怖かっただけ」
「怖かった……だけ……か。そうだな。彼女が妊娠した時も焦った。凛子が生まれた時も焦った。凛子が死んだ時も受け入れられなかった。離婚した時、絶望した」
「智ちゃん……やっと本当の気持ち吐き出せたね。良かった」
僕はそう言うと智ちゃんの手を引いて東京タワーが見える窓辺に向かった。
「ほら今日も東京タワーが美しいよ」
「見えない……」
「え?」と、僕は智ちゃんの顔を覗き込む。
「東京タワーがぼやけてて、ちゃんと見えない」と、泣きながら智ちゃんが言った。
暫く何も言うわけでもなく、手を繋いでソファーに座っていた。
僕もやっぱり智ちゃんとずっと一緒に居たいという気持ちは変わらなかった。
「智ちゃん、もうこれ以上この事に関して、僕は何も聞かない。だから、月一の家族団欒は気にしないで会ってきてね」
「ありがと……」
まだ震えているイケボ。
「僕たち、ちょっとだけ似たもの同士?」
「うーん、ちょっとだけな」
やっと智ちゃんが笑った。
「運転中、腕掴んで、ごめんね」
「うん、あれ危ないから、もう止めてな」
「置き去りにして、ごめんね」
「うん、悲しくなっちゃうから、あれも止めてな」
「でもそもそも……」
「うん、俺のせいです。すまなかった」
あっ、と僕は思いついて、
「今回は流石に智ちゃんには罰を与えないとね」と言った。
「罰?」
「うん。当たり前じゃん」
「分かってる。何したらいい?」
「気持ちいいキス」
「キスする事が罰なのか」
「き・も・ち・い・い・キス、だからね」
「将暉……こんな俺を受け入れてくれて、ありがとうな」
「お互い様じゃん。僕たち二人で一人前なんだよ」
僕はそう言いながら智ちゃんに抱きつく。
「俺は将暉を支えて行きたい。だから……」
「僕も智ちゃんを支えたい」
深くトロけるような気持ちいいキスの音が部屋中に響き渡った。
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