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プロローグ
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「イヴ」
声をかけられて私は振り向いた。
振り向くとドレスの裾がふわりと翻って、自分がいまいる場所が日本ではないのだと実感する。
「リエーナ、どうしたのそんな顔して」
声をかけてきたのは獣人族のリエーナだった。
二足歩行する黒猫のような彼女はスラリと背が高く、いつも男性のような服装をしている。
リエーナは忌み嫌われた私を裏切らず、むしろ肯定してさえくれる従者であり大切な友でもある。
普段は世を憎み切っているような目をして私に付き従っていたはずの彼女が、どうしたことかもじもじとしながら私をみつめていた。
「ああイヴ、こんなことを貴女に尋ねるのは従者として間違っていると理解している。けれど、もうこの気持ちが抑えきれないんだ」
リエーナはいつものようにどこか芝居がかった口調で私を見つめた。
「ど、どうしたのいったい」
私が困惑していると、彼女はぽつり、と呟くように言った。
「……アダム様とお近づきになりたいんだ」
「え……?」
「わかっている!貴女とアダム様に特別な絆があることくらい……」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「頼むイヴ! わたしとアダム様の橋渡しをしてくれないか!?」
真剣な表情で私の手を取る彼女の想い人――勇者アダム……いや、田中優斗……あの男のいやみったらしい顔を思い出して、私はぎりりと歯を食いしばった。
(田中の野郎……! 人の従者たぶらかすとか何さらしてくれてんのよ……!!)
許すまじ田中。この恨みはらさでおくべきか……!!
怒りに燃えた私の顔は、まさに『悪役令嬢』名にふさわしいものだったろう。
「イヴ……?」
「もちろんよリエーナ。ほかでもないあなたの頼みですもの。勇者アダム様――。わたくしももう一度お会いしたいと思っていたのよ」
にっこりと笑いながら、内心でめらめらと燃える炎が私を焼いた。
(あのチート野郎の平穏だけは、絶対に邪魔してやる……!!)
――
「山田さんさあ」
いやみったらしい声が響いてきて、私――山田美咲は体を硬直させた。
「この仕事何年やってんの?どうして確認しなかったの?ダブルチェックは基本だよね?」
その男は偉そうに椅子に腰掛けたままとんとん、とコピー用紙の束を指で叩いて見せた。
「すみません……」
「すみませんじゃなくてさあ、改善案示してよ」
「はい……」
はあ、と大きな声でため息をついた男はひらひらと手を振って「もういいよ」と言ってデスクに向き直った。
私はぎり、と内心歯噛みして、けれどしおらしく席を離れ、トイレに向かう。
(田中優斗……あの野郎、私と同期のくせして何一丁前に人に説教してんのよ!
コピー機の紙補充しないで放置してるのも、電気消さないで帰ったくせに知らんぷりしたこともタバコ休憩とか言ってコンビニでくじ引いてるのも全部全部知ってるんだからな……いつかチクッてやる……!!)
バタン、と扉を閉じてトイレの個室に篭り、スマホのロック画面を解除すると、SNSのアイコンをタップした。
「はあ……ルシフェル様……今日もかっこいい……。絶対主人公よりイヴとくっつくべきよね……顔面つよつよカップル公式になれ……」
乙女ゲーム【テセウスロンド】。
それは突然神託がくだり世界を救うことになった平民の主人公マリアが、ライバルの貴族令嬢イヴに妨害されながらも傷ついたさまざまなキャラクターを癒し、愛を育み、世界を救う……という乙女ゲームだが、戦略性が異様に高い。
主人公は様々なキャラクターを仲間にするが、一定期間会いに行かないと好感度が下がった挙句イヴに奪われてしまう。
イヴに奪われた仲間は使用不能となってしまうため属性と能力を見極めながら仲間キャラを駒にしたチェスバトルに勝つ必要がある。
私はその奥深さにすっかりハマり――そしてなぜか主人公サイドではなくイヴサイドにどっぷり肩入れしていた。
公式アカウントの最新投稿で誕生日おめでとう!という単語とともに表示されているのは、冷たい表示をした黒髪黒目に黒衣の男――ルシフェル様のイラストだ。
「ルシフェル様とイヴのバックストーリーから見たらどう考えてもマリアとはくっつかないでしょ……あーわかってる、この人わかってるわあ……!!」
私はぶつぶつと呟きながら生誕祭タグを漁り、投稿されたイラストや漫画にいいねを押しまくる。
人生の潤いを摂取して、ふうー、と深い息を吐く。
田中の態度はルシフェル様の生誕に免じて許してやろう――。
そう思いながらトイレから出ると、何やら窓口付近が騒がしいのに気づく。
「いいから金を出せって言ってんだよ!!」
パァン! という破裂音がして、目出し帽を被った男が机に乗り上げていた。
社員は震えながらしゃがみ込むか、人質にされているかのどちらかだが――。
「えっ?」
自体を把握できない私が間抜けな声を上げると、複数いた男の1人が私に銃口を向けた。
「危ない!」
パァン!パァン!という二発の銃声と、スマホを入れていた胸ポケットに激痛が走って、私の視界は暗転した。
目を覚ますと、私は乙女ゲームの世界の住人に転生していた。
そして、あの男も--。
NEXT SIDE:
「社畜俺、異世界転生してスローライフ始めようとしたら嫌味な女がいたので逆ハーレム阻止しようとしようと思うんだが。」に続く……???
声をかけられて私は振り向いた。
振り向くとドレスの裾がふわりと翻って、自分がいまいる場所が日本ではないのだと実感する。
「リエーナ、どうしたのそんな顔して」
声をかけてきたのは獣人族のリエーナだった。
二足歩行する黒猫のような彼女はスラリと背が高く、いつも男性のような服装をしている。
リエーナは忌み嫌われた私を裏切らず、むしろ肯定してさえくれる従者であり大切な友でもある。
普段は世を憎み切っているような目をして私に付き従っていたはずの彼女が、どうしたことかもじもじとしながら私をみつめていた。
「ああイヴ、こんなことを貴女に尋ねるのは従者として間違っていると理解している。けれど、もうこの気持ちが抑えきれないんだ」
リエーナはいつものようにどこか芝居がかった口調で私を見つめた。
「ど、どうしたのいったい」
私が困惑していると、彼女はぽつり、と呟くように言った。
「……アダム様とお近づきになりたいんだ」
「え……?」
「わかっている!貴女とアダム様に特別な絆があることくらい……」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「頼むイヴ! わたしとアダム様の橋渡しをしてくれないか!?」
真剣な表情で私の手を取る彼女の想い人――勇者アダム……いや、田中優斗……あの男のいやみったらしい顔を思い出して、私はぎりりと歯を食いしばった。
(田中の野郎……! 人の従者たぶらかすとか何さらしてくれてんのよ……!!)
許すまじ田中。この恨みはらさでおくべきか……!!
怒りに燃えた私の顔は、まさに『悪役令嬢』名にふさわしいものだったろう。
「イヴ……?」
「もちろんよリエーナ。ほかでもないあなたの頼みですもの。勇者アダム様――。わたくしももう一度お会いしたいと思っていたのよ」
にっこりと笑いながら、内心でめらめらと燃える炎が私を焼いた。
(あのチート野郎の平穏だけは、絶対に邪魔してやる……!!)
――
「山田さんさあ」
いやみったらしい声が響いてきて、私――山田美咲は体を硬直させた。
「この仕事何年やってんの?どうして確認しなかったの?ダブルチェックは基本だよね?」
その男は偉そうに椅子に腰掛けたままとんとん、とコピー用紙の束を指で叩いて見せた。
「すみません……」
「すみませんじゃなくてさあ、改善案示してよ」
「はい……」
はあ、と大きな声でため息をついた男はひらひらと手を振って「もういいよ」と言ってデスクに向き直った。
私はぎり、と内心歯噛みして、けれどしおらしく席を離れ、トイレに向かう。
(田中優斗……あの野郎、私と同期のくせして何一丁前に人に説教してんのよ!
コピー機の紙補充しないで放置してるのも、電気消さないで帰ったくせに知らんぷりしたこともタバコ休憩とか言ってコンビニでくじ引いてるのも全部全部知ってるんだからな……いつかチクッてやる……!!)
バタン、と扉を閉じてトイレの個室に篭り、スマホのロック画面を解除すると、SNSのアイコンをタップした。
「はあ……ルシフェル様……今日もかっこいい……。絶対主人公よりイヴとくっつくべきよね……顔面つよつよカップル公式になれ……」
乙女ゲーム【テセウスロンド】。
それは突然神託がくだり世界を救うことになった平民の主人公マリアが、ライバルの貴族令嬢イヴに妨害されながらも傷ついたさまざまなキャラクターを癒し、愛を育み、世界を救う……という乙女ゲームだが、戦略性が異様に高い。
主人公は様々なキャラクターを仲間にするが、一定期間会いに行かないと好感度が下がった挙句イヴに奪われてしまう。
イヴに奪われた仲間は使用不能となってしまうため属性と能力を見極めながら仲間キャラを駒にしたチェスバトルに勝つ必要がある。
私はその奥深さにすっかりハマり――そしてなぜか主人公サイドではなくイヴサイドにどっぷり肩入れしていた。
公式アカウントの最新投稿で誕生日おめでとう!という単語とともに表示されているのは、冷たい表示をした黒髪黒目に黒衣の男――ルシフェル様のイラストだ。
「ルシフェル様とイヴのバックストーリーから見たらどう考えてもマリアとはくっつかないでしょ……あーわかってる、この人わかってるわあ……!!」
私はぶつぶつと呟きながら生誕祭タグを漁り、投稿されたイラストや漫画にいいねを押しまくる。
人生の潤いを摂取して、ふうー、と深い息を吐く。
田中の態度はルシフェル様の生誕に免じて許してやろう――。
そう思いながらトイレから出ると、何やら窓口付近が騒がしいのに気づく。
「いいから金を出せって言ってんだよ!!」
パァン! という破裂音がして、目出し帽を被った男が机に乗り上げていた。
社員は震えながらしゃがみ込むか、人質にされているかのどちらかだが――。
「えっ?」
自体を把握できない私が間抜けな声を上げると、複数いた男の1人が私に銃口を向けた。
「危ない!」
パァン!パァン!という二発の銃声と、スマホを入れていた胸ポケットに激痛が走って、私の視界は暗転した。
目を覚ますと、私は乙女ゲームの世界の住人に転生していた。
そして、あの男も--。
NEXT SIDE:
「社畜俺、異世界転生してスローライフ始めようとしたら嫌味な女がいたので逆ハーレム阻止しようとしようと思うんだが。」に続く……???
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