悪役令嬢に転生したので溺愛されようとしたらチート野郎が出てきたのでスローライフの邪魔しますわ!!

あまがさ

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む
「イヴ」

 声をかけられて私は振り向いた。

 振り向くとドレスの裾がふわりと翻って、自分がいまいる場所が日本げんじつではないのだと実感する。

「リエーナ、どうしたのそんな顔して」

 声をかけてきたのは獣人族のリエーナだった。

 二足歩行する黒猫のような彼女はスラリと背が高く、いつも男性のような服装をしている。

 リエーナは忌み嫌われた私を裏切らず、むしろ肯定してさえくれる従者であり大切な友でもある。

 普段は世を憎み切っているような目をして私に付き従っていたはずの彼女が、どうしたことかもじもじとしながら私をみつめていた。

「ああイヴ、こんなことを貴女に尋ねるのは従者として間違っていると理解している。けれど、もうこの気持ちが抑えきれないんだ」

 リエーナはいつものようにどこか芝居がかった口調で私を見つめた。

「ど、どうしたのいったい」

 私が困惑していると、彼女はぽつり、と呟くように言った。

「……アダム様とお近づきになりたいんだ」

「え……?」

「わかっている!貴女とアダム様に特別な絆があることくらい……」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「頼むイヴ! わたしとアダム様の橋渡しをしてくれないか!?」

 真剣な表情で私の手を取る彼女の想い人――勇者アダム……いや、田中優斗……あの男のいやみったらしい顔を思い出して、私はぎりりと歯を食いしばった。
 
(田中の野郎……! 人の従者たぶらかすとか何さらしてくれてんのよ……!!)

 許すまじ田中。この恨みはらさでおくべきか……!!

 怒りに燃えた私の顔は、まさに『悪役令嬢』名にふさわしいものだったろう。

「イヴ……?」

「もちろんよリエーナ。ほかでもないあなたの頼みですもの。勇者アダム様――。わたくしももう一度お会いしたいと思っていたのよ」

 にっこりと笑いながら、内心でめらめらと燃える炎が私を焼いた。

 (あのチート野郎の平穏だけは、絶対に邪魔してやる……!!)
 
 ――
 
「山田さんさあ」

 いやみったらしい声が響いてきて、私――山田美咲は体を硬直させた。

「この仕事何年やってんの?どうして確認しなかったの?ダブルチェックは基本だよね?」

 その男は偉そうに椅子に腰掛けたままとんとん、とコピー用紙の束を指で叩いて見せた。

「すみません……」

「すみませんじゃなくてさあ、改善案示してよ」

「はい……」

はあ、と大きな声でため息をついた男はひらひらと手を振って「もういいよ」と言ってデスクに向き直った。

 私はぎり、と内心歯噛みして、けれどしおらしく席を離れ、トイレに向かう。

(田中優斗……あの野郎、私と同期のくせして何一丁前に人に説教してんのよ! 
 コピー機の紙補充しないで放置してるのも、電気消さないで帰ったくせに知らんぷりしたこともタバコ休憩とか言ってコンビニでくじ引いてるのも全部全部知ってるんだからな……いつかチクッてやる……!!)

 バタン、と扉を閉じてトイレの個室に篭り、スマホのロック画面を解除すると、SNSのアイコンをタップした。

「はあ……ルシフェル様……今日もかっこいい……。絶対主人公よりイヴとくっつくべきよね……顔面つよつよカップル公式になれ……」

 乙女ゲーム【テセウスロンド】。

 それは突然神託がくだり世界を救うことになった平民の主人公マリアが、ライバルの貴族令嬢イヴに妨害されながらも傷ついたさまざまなキャラクターを癒し、愛を育み、世界を救う……という乙女ゲームだが、戦略性が異様に高い。

 主人公は様々なキャラクターを仲間にするが、一定期間会いに行かないと好感度が下がった挙句イヴに奪われてしまう。

 イヴに奪われた仲間は使用不能となってしまうため属性と能力を見極めながら仲間キャラを駒にしたチェスバトルに勝つ必要がある。

 私はその奥深さにすっかりハマり――そしてなぜか主人公サイドではなくイヴサイドにどっぷり肩入れしていた。

 公式アカウントの最新投稿で誕生日おめでとう!という単語とともに表示されているのは、冷たい表示をした黒髪黒目に黒衣の男――ルシフェル様のイラストだ。

「ルシフェル様とイヴのバックストーリーから見たらどう考えてもマリアとはくっつかないでしょ……あーわかってる、この人わかってるわあ……!!」

 私はぶつぶつと呟きながら生誕祭タグを漁り、投稿されたイラストや漫画にいいねを押しまくる。

 人生の潤いを摂取して、ふうー、と深い息を吐く。

 田中の態度はルシフェル様の生誕に免じて許してやろう――。

 そう思いながらトイレから出ると、何やら窓口付近が騒がしいのに気づく。

「いいから金を出せって言ってんだよ!!」

 パァン! という破裂音がして、目出し帽を被った男が机に乗り上げていた。

 社員は震えながらしゃがみ込むか、人質にされているかのどちらかだが――。

「えっ?」

 自体を把握できない私が間抜けな声を上げると、複数いた男の1人が私に銃口を向けた。

「危ない!」

 パァン!パァン!という二発の銃声と、スマホを入れていた胸ポケットに激痛が走って、私の視界は暗転した。

 目を覚ますと、私は乙女ゲームの世界の住人に転生していた。
 そして、あの男も--。
 
NEXT SIDE:
「社畜俺、異世界転生してスローライフ始めようとしたら嫌味な女がいたので逆ハーレム阻止しようとしようと思うんだが。」に続く……???
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...