魔導士と巫女の罪と罰

第一章

プロローグ

　私の名前はステラ・レスタティオ。エーテリアと呼ばれる世界にあるマスティマ王国の宮廷魔導士である。

　優秀な魔導士を代々輩出してきたレスタティオ家の長女として生まれ、幼少の頃から魔法の英才教育を受けてきた。絶え間ない努力が実を結び、齢15歳にして地水火風の魔法を極め、宮廷魔導士の称号を授かった。

　ある日、エーテリアに魔王と呼ばれる存在が現れ、人間達に対し宣戦布告した。魔王は悪魔を始めとする多くの眷属を率いて次々と人間を蹂躙した。兵士達は倒れ、町村は次々と焼かれ、人々は恐怖に怯えるばかりであった。

　そんな我々に一つの希望が見つかった。この世界と異世界を繋ぎ、異世界に存在する人間を『勇者』としてこの世界に転移させる『召喚魔法』である。

　異世界から召喚した者達に魔法の力を授け、魔王を討つ勇者として導くこと。それが宮廷魔導士として初めて私に与えられた任務であった。勇者を召喚し、その力をもって人類の脅威である魔王とその軍勢を滅ぼす。それこそが世界に平和をもたらす唯一無二の手段である。私達はそう信じて疑うことはなかった。

　しかし、その行為は醜く、残酷な私達の自己満足であった。
　勇者として召喚された人間はそのほとんどが戦いを経験したこともない平凡な少年少女であり、勇者という立派な称号と力を授け、甘い言葉で鼓舞し、危険な戦場に送り込む。魔王を倒すまで帰ることも逃げることも許されない。たとえ勇者が死んでも代わりを召喚すればいい。私達の行いは奴隷使役と何も変わりなかった。
　勇者達は召喚さえされなければ平穏な生活を送り、あるべき生涯を全うするはずだった。それを理不尽に奪われたのだ。勇者だけではない。元の世界にいる勇者の家族や友人も突然親しい人間を失ったのだ。その苦痛は計り知れないだろう。私はそれを省みることなくただ国のため、世界のために多くの命を食い物にした。

　それが私の犯した罪であった。


　勇者達の苦しみに気付いた時にはもう遅かった。
　いつしか私は見知らぬ世界に飛ばされ、魔法を失い、醜い悪魔の姿に変わり果ててしまった。元の世界に帰る術もなく、家族も同僚も友人もいない。
　今の私は勇者達に対し詫びることも救うこともできない。彼らに会うことさえもできない。そう、彼らに何もできないのだ。

　それが私に課せられた罰だった。