魔導士と巫女の罪と罰

第一章

魔導士は勇者を召喚した

「こ、ここはどこなんだ？」

　学生服の少年は周りを見渡しながら隣の友人に尋ねた。
「お、俺だってわかんねぇよ！」
　友人は動揺しながら答えた。
　それは突然の出来事であった。いつものように登校し、授業を受け、馴染みの友人達と他愛もない会話をしながら下校するはずだった。道端に十円玉を見つけ、拾おうと屈んだ途端に足元が青白い光に包まれて一瞬視界を奪われた。
　おそるおそる目を開くとそこはいつもの通学路ではなかった。日本の建築ではまず見かけない石造りの大広間。その足元には大理石の床に描かれた相撲の土俵程の大きさの魔法陣が青白く輝いていた。
　まるでテレビゲームのファンタジー世界に迷い込んだような感覚であった。少年のそばには一緒に下校していた四人の同級生達。彼らもまた今の状況を理解できずに困惑していた。

「よく来て下さいました。勇者の皆様」

　透き通った少女の声が大広間に響き渡った。少年達が顔を向けるとそこには白いローブをまとった人物が佇んでいた。フードを目深く被っており、その素顔はよく見えない。

「だ、誰だあんた？」
　少年の一人が当然の疑問を投げかけた。
「これは失礼しました。私は宮廷魔導士のステラ・レスタティオ。そしてここはマスティマ王国です」
　ステラと名乗った魔導士は一礼し、頭のフードを外した。美しい金髪と青い瞳を持つ少女の顔が露わになった。

「ま、マスティマ？ここは日本じゃないの？」
「お、俺下校中だったんだけど？」
「ていうか勇者って何？俺が勇者なの？」
　少年達は一斉に質問する。彼らは未だに動揺が収まっていない。無理もない。何の前触れもなくこんな見知らぬ世界に連れて来られたのだ。
「いえ、あなた達全員が勇者です。あなた達は女神エターニア様のご加護のもと、勇者としてこの世界に導かれたのです」
「ゆ、勇者だって!?」
「そうです。あなた方をお招きしたのはほかでもありません。この世界の平和を脅かす魔王とその軍勢を討ち滅ぼして頂きたいのです」
　あまりに突拍子もない話を投げかけられ、少年達は騒ぎだした。
「そ、そんな事できるかよ！俺ただの帰宅部だぜ？」
「私だってホウキより重い物持ったことないわよ！」
「ご心配無用です。あなた方には勇者の力があるのですから」
「勇者の力？ってうわ！」
　足元の魔法陣がさらに青白く輝いて少年達を暖かく包みこんだ。その瞬間、自分の内側から力が湧いてくるような感覚が走った。
「な、何？」
「か、カバンが！たくさん教科書が入っているのに、羽のように軽い！」
「うわぁ！手から火が？」
　少年達は自分に与えられた不思議な力に驚愕した。
「それが勇者の力。今のあなた達なら重い剣を振るうことも魔法を使うことも可能なのです」
「ま、魔法？」
 「はい。今からそれをお見せしましょう」
　そう言いながらステラは勇者達のもとへ歩き出した。そして魔法陣の中央で立ち止まり、頭上に右手を掲げて詠唱を始めた。

「…風よ、集いて我らを望む場所へ。『ワール』」
　風が周囲に集まり、大きなつむじ風となって少年達とステラを包み込んだ。
「うわっ！」
　少年が驚きの声をあげた時にはすでにそこは王の間であった。
「国王陛下。勇者達の召喚に成功いたしました」

　この日、マスティマ王国に5人の勇者が召喚されたのであった。