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第一章
もう一人巫女がいた
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「さて、ここが私の家、暁神社よ」
長いあぜ道を歩き、赤い鳥居の前に立ち夕菜が振り替えるとステラが息を切らしていた。
「はぁ…はぁ…よ、ようやく…ですか?」
買い物袋を下ろし、息を整えてステラは歩いて来た道を振り返った。
「まったく、このくらいの距離で音をあげるなんて。本当鍛えてないわね。よく今まで生きてこれたものね」
夕菜は悪態をつきながら竹筒の水筒を渡した。ステラは一口もらい、喉を潤して一息ついてから言い訳を漏らした。
「そ…そんなこと言われても…こんな長い距離を歩いたことなんてありませんから……」
「歩くってのは人間の基本動作でしょ。だいたい、今までどうやって移動していたのよ?」
「その…城の外では馬車とか移動魔法とかありましたので…」
「その程度でも魔法頼りってわけ?あんたの世界の人間達は皆貧弱なのかしら?」
夕菜は毒づきながら買い物袋を拾い上げた。
鳥居から続く参道の向こう側には小さな神社が佇んでいた。石灯籠がきれいに並び、奥の拝殿には古ぼけた賽銭箱が置かれていた。敷地の外は木々に囲まれ、人の気配はまるでない。隠れ家のような寂びれた神社であった。
「ここが…ジンジャですか?」
「えぇ、ボロいところだけど中はきれいにしているつもりよ」
外見は確かにきれいとは言い難いものだったが、神を祀っていることもあってどこか神秘的な雰囲気があった。
「遠夜、帰ったわよ!」
夕菜は参道の横の広場で落ち葉をかき集め、焚火をしている巫女に声をかけた。落ち葉以外に何かを焼いているのか焚火から香ばしい匂いが昇っていた。
「姉さん、おかえり!」
遠夜と呼ばれた巫女は手を振って二人を迎えた。純白の小袖に青い袴を身に付け、その顔は夕菜に似ているが目付きは優しく、穏やかな表情であった。腰には刀に似た形状の木の棒を携えていた。夕菜のことを姉と呼ぶこの巫女はおそらく妹であろうとステラは推測した。
「うわっ、姉さんどうしたの?」
遠夜は赤く染まった夕菜の服を見て驚きの声をあげた。
「ちょっとトマトの掴み取りに失敗しちゃってね」
夕菜は肩を竦めながらおどけた。
「またこんなに汚して…洗うの大変なんだから」
遠夜は不満を漏らしながら夕菜から買い物袋を預かった。
「しょうがないでしょ。急に襲われたんだから」
「もうちょっとこう…汚さないように殺せないの?」
「頭を潰したほうが何かと楽なのよ。後ろに亡者使いとかがいたら面倒だしね」
「もう…また血糊用の石鹸買ってこなくちゃ…」
(え?えぇ…?)
和やかな雰囲気に反してその会話の内容は物騒なものだった。その様子から見るに、先程の夕菜の殺戮は珍しいことではないようだった。
「ところで姉さん、その人は?」
遠夜は白いフードを目深く被った少女に視線を向けた。その少女はフードの下から不安な表情を覗かせた。
「あぁ、こういうことよ」
夕菜はフードを半ば強引にめくると銀色の長髪からはみ出す二本の小さな角があらわになった。
「!…お、鬼?」
遠夜は思わず買い物袋を落として腰に携えた木の棒を手に取り、抜刀に似た流れで目前の鬼の首目掛けて振りかぶった。しかし、その流れは一瞬で止められた。
「落ち着きなさい。この娘はただの客人よ」
「ね、姉さん?!でも…」
遠夜の木の棒は夕菜の右手によっていともたやすく止められていた。
「いいから木刀を下ろしなさい」
「わ、わかったよ…」
夕菜の有無を言わさぬ眼力に気圧された遠夜は木刀を腰に戻した。
「全く…敵かどうかは殺気で判断しなさいって言ったでしょうが」
「ご、ごめん。久しぶりに鬼を見たからビックリしちゃって…でもどうして?」
「まぁ…色々あってね…とりあえず着替えてくるからお茶用意しなさい」
「わかった。ここ片付けたら行くから」
焚火の消火を始める遠夜を尻目に夕菜は神社の隣に位置する家にステラを案内した。
長いあぜ道を歩き、赤い鳥居の前に立ち夕菜が振り替えるとステラが息を切らしていた。
「はぁ…はぁ…よ、ようやく…ですか?」
買い物袋を下ろし、息を整えてステラは歩いて来た道を振り返った。
「まったく、このくらいの距離で音をあげるなんて。本当鍛えてないわね。よく今まで生きてこれたものね」
夕菜は悪態をつきながら竹筒の水筒を渡した。ステラは一口もらい、喉を潤して一息ついてから言い訳を漏らした。
「そ…そんなこと言われても…こんな長い距離を歩いたことなんてありませんから……」
「歩くってのは人間の基本動作でしょ。だいたい、今までどうやって移動していたのよ?」
「その…城の外では馬車とか移動魔法とかありましたので…」
「その程度でも魔法頼りってわけ?あんたの世界の人間達は皆貧弱なのかしら?」
夕菜は毒づきながら買い物袋を拾い上げた。
鳥居から続く参道の向こう側には小さな神社が佇んでいた。石灯籠がきれいに並び、奥の拝殿には古ぼけた賽銭箱が置かれていた。敷地の外は木々に囲まれ、人の気配はまるでない。隠れ家のような寂びれた神社であった。
「ここが…ジンジャですか?」
「えぇ、ボロいところだけど中はきれいにしているつもりよ」
外見は確かにきれいとは言い難いものだったが、神を祀っていることもあってどこか神秘的な雰囲気があった。
「遠夜、帰ったわよ!」
夕菜は参道の横の広場で落ち葉をかき集め、焚火をしている巫女に声をかけた。落ち葉以外に何かを焼いているのか焚火から香ばしい匂いが昇っていた。
「姉さん、おかえり!」
遠夜と呼ばれた巫女は手を振って二人を迎えた。純白の小袖に青い袴を身に付け、その顔は夕菜に似ているが目付きは優しく、穏やかな表情であった。腰には刀に似た形状の木の棒を携えていた。夕菜のことを姉と呼ぶこの巫女はおそらく妹であろうとステラは推測した。
「うわっ、姉さんどうしたの?」
遠夜は赤く染まった夕菜の服を見て驚きの声をあげた。
「ちょっとトマトの掴み取りに失敗しちゃってね」
夕菜は肩を竦めながらおどけた。
「またこんなに汚して…洗うの大変なんだから」
遠夜は不満を漏らしながら夕菜から買い物袋を預かった。
「しょうがないでしょ。急に襲われたんだから」
「もうちょっとこう…汚さないように殺せないの?」
「頭を潰したほうが何かと楽なのよ。後ろに亡者使いとかがいたら面倒だしね」
「もう…また血糊用の石鹸買ってこなくちゃ…」
(え?えぇ…?)
和やかな雰囲気に反してその会話の内容は物騒なものだった。その様子から見るに、先程の夕菜の殺戮は珍しいことではないようだった。
「ところで姉さん、その人は?」
遠夜は白いフードを目深く被った少女に視線を向けた。その少女はフードの下から不安な表情を覗かせた。
「あぁ、こういうことよ」
夕菜はフードを半ば強引にめくると銀色の長髪からはみ出す二本の小さな角があらわになった。
「!…お、鬼?」
遠夜は思わず買い物袋を落として腰に携えた木の棒を手に取り、抜刀に似た流れで目前の鬼の首目掛けて振りかぶった。しかし、その流れは一瞬で止められた。
「落ち着きなさい。この娘はただの客人よ」
「ね、姉さん?!でも…」
遠夜の木の棒は夕菜の右手によっていともたやすく止められていた。
「いいから木刀を下ろしなさい」
「わ、わかったよ…」
夕菜の有無を言わさぬ眼力に気圧された遠夜は木刀を腰に戻した。
「全く…敵かどうかは殺気で判断しなさいって言ったでしょうが」
「ご、ごめん。久しぶりに鬼を見たからビックリしちゃって…でもどうして?」
「まぁ…色々あってね…とりあえず着替えてくるからお茶用意しなさい」
「わかった。ここ片付けたら行くから」
焚火の消火を始める遠夜を尻目に夕菜は神社の隣に位置する家にステラを案内した。
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