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第二章

冒険者ギルド

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「マジかよそれ…?」

 サンユー地方のとある町にある冒険者ギルド。その中に設けられた飲食スペースにて冒険者達がざわついていた。

「あぁ、マジだよ…パーティーのほとんどがそいつに殺されたんだ!」
 パンチパーマが特徴的な弓使いの冒険者が冷や汗を流しながら周りに自分の体験を話した。彼の衣服の端は炎で焦げていた。
「ちょっと待てよ!あの洞窟には黒竜しかいないって話だろ?」
「おれだってそう思っていたよ!だけど、本当にいたんだ…大剣と炎を使う人型の魔物が!」

「人型…?オーガとかサイクロプスとかのデカブツか?」
「いや、背丈は俺達より少し小さいくらいだ。だが、墨のような黒い髪に藍色の服。そして、右の肩から赤いもう一つの腕を生やしていたんだ…」
 弓使いは腕を震わせながら話した。

「赤い腕…?そいつってルロウ地方で目撃されたヤツと似てねぇか?」
 酒を飲みながら話を聞いていた無精ひげの冒険者が顔を上げた。
「ルロウ地方?確かアゴタ山の向こう側だったよな?」
「あぁ。この前そこのギルドに立ち寄った時、腕を斬られたヤツがいてな。なんでも、ルロウの洞窟の近くでツノワタを狩りに行ったらその三本腕の魔物に襲われたらしい」
「ルロウの洞窟?バカな!あの辺りは危険度Dの楽な狩場だったはずだぞ!」
「いや、おれも聞いたことがある。そこの危険度が急に跳ね上がっておかしいとは思ったんだが…」
 危険度とはクエストやそれに関する地域に対してギルドが設定した目安である。目撃された魔物の種類や人々が被った損害に応じて危険度は変動する。冒険者は基本的に自分のランク以上の危険度のクエストの受注や地域への立ち入りは許可されない。

「それでどうすんだよ?このままではあの洞窟も危険度が上がっちまうぞ?」
「やべぇよ…そうなったら俺達のランクじゃ入ることもできねぇよ」 
 現在、黒竜の洞窟の危険度はA。ランクがA以上の者が一人以上いるパーティーに参加していればそれ以下のランクでも立ち入りは可能である。しかし、危険度がSになるといかなる条件であろうとそれ以下のランクの冒険者の立ち入りは不可能となる。
「くそっ!ここまで来てあんなお宝をあきらめてたまるかよ!」
 とんがり帽子をかぶった魔法使いの冒険者がテーブルを叩いた。金やお宝目当てで危険度を無視して行動する冒険者も少なくはない。しかし、正式な報酬がもらえない、負傷した際にギルドからの治療費がおりないなどのリスクが多い。

「こうなったらコイツを使うしかねぇな…」
 スキンヘッドの冒険者が懐から紙を取り出し、テーブルに広げた。
「ん?なんだそれは?」
 その紙には何かの設計図が載っていた。
「この前、ストロゴン工房の知り合いから試作品を貸してもらったんだ。対大型魔物戦を想定した新作の装備らしいぜ」
「こ、これは…」
 その設計図を見た魔法使いは驚愕した。
「あぁ、こいつがあればそいつ諸共黒竜を倒せる!」
「でも大丈夫か?威力が強すぎると竜の身体にダメージを与えすぎるんじゃ…」
「大丈夫だ。ギルドからの依頼はあくまで『討伐』だ。仮に竜の手足が吹っ飛んでも舌や血がある。報酬とそれを合わせればかなりの金になるぜ」
 スキンヘッドは右手で金のジェスチャーを作りながらほくそ笑んだ。
「マジかよ!儲けは山分けしてくれよ!」
 パンチパーマの弓使いは目の色を変えながらスキンヘッドに懇願した。彼の頭の中からは犠牲となった仲間のことなどすっかり抜け落ちていたようだ。
「わかってるよ!よし、前祝いだ!」
 勝利を確信した冒険者達は酒を大量に注文し、一斉に乾杯した。

「……ふん…」

 壁に寄りかかり、両腕を組んだ赤毛の男がその一連の会話をつまらなそうに聞いていた。彼は腰に奇妙な双剣を携えていた。
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