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第二章
今の私は
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「いやーいてて。ちょっとこのフォーク洗い場に出してくるっスー」
そう言いながらヌコは頭にフォークを刺したまま席を立っていった。いや抜けよ。血が垂れているわよ。
「…ったく…」
呆れながら私は白米を口に入れた。よくもまぁ、フォークが刺さってへらへらしていられるわね。
「と…ところで…あの…シ、シズハさん…」
「ん?何?」
ようやく食事に手をつけ始めたエイルはたどたどしく私に声をかけてきた。
「その…みんなが言ってる『まゆうしゃ』って…何ですか?」
ああ、そういえば言ってなかったわね。
「それはね――」
「説明しましょう」
「うおっ!」
横からアウルがしゃしゃり出てきた。
「このお方――魔勇者シズハ様は我ら魔族の敵をかたっぱしから抹殺するために魔王様の導きによって異世界から舞い降りた我ら魔王軍の崇高で美しき最高の最終兵器なのです!」
アウルはドヤ顔で私を紹介した。なんじゃその紹介。誰がリーサルウェポンよ。
「ま、つまりは魔王に雇われた勇者ってとこね」
「ま…魔王の…勇者…?」
エイルは困惑した表情でこちらを見ていた。
「そういうことよ。色々あって仕方なく魔王のいいなりになってるわけよ」
私は溜息をもらした。
「で、でも…魔王ってことは…」
「そうよ。今の私は人間の敵よ」
私は断言した。
「黒竜の洞窟で見たでしょ?いくつかの冒険者の亡骸を…」
「じゃあ、あれは…」
「私が殺った」
そう言い切るとエイルの顔色が青くなった。実際はズワースが殺った分のほうが多いんだけどね。
「ど…どうしてそんなひどいことを…!」
「ん?ひどい?」
「そうじゃないですか!人間なのに…魔族に味方して、同じ人間を殺すなんて…!」
エイルは声を震わせて文句をつけてきた。当然っちゃあ当然の反応かしら。元の世界では人間同士の殺し合いなど当たり前のものだった。ここではどうだか知らないが、少なくとも彼にとっては人間同士の殺し合いは考えられない話のようだ。人間の敵は魔族。人間同士は仲良くするもの。そういう考えなのだろう。
「私だって好きで殺ってるわけじゃないのよ。あのクソ魔王に逆らえば問答無用で殺されるのよ」
「だからといって、そんな!人間の敵の魔族に――」
反論を続けようとするエイルの頬を何かがかすめ、細長い傷がついた。その『何か』はたまたま彼の後ろで食事をしていたホースヘッドの後頭部に突き刺さった。鳥の羽だ。
「口を慎みなさい、小僧。魔勇者様への侮辱は私が許しませんよ…」
横を向くとアウルが自らの羽を手に取り、氷のように冷たい視線と共にエイルの頭に狙いを定めていた。殺る気満々の顔だ。
「ちょ…やめなさいよ。食事中だってのに」
飯ぐらい静かに食わせなさいっての。
「…失礼しました」
アウルは思ったよりあっさりと手を引いた。冷静な変態だとは思っていたけど、結構喧嘩っ早い性格なのね。
「…この世界のことはよく知らないけど、人間だって魔族をかたっぱしから殺してるんでしょ?よく考えりゃそれと同じよ」
「で、でも…!」
まだ何か言いたげな顔をしているわねコイツ。
(ラノベの主人公みたいな甘ちゃん思考ね…)
そりゃ背中から味方に撃たれるわね。しかし、彼の言いたいことはわかる。『魔王の力』で昂ってよく覚えていないが、今日までにおそらく両手の指では足りないぐらいには殺してきただろう。最初は緊張こそしたが、すっかり慣れてしまった。今思えば不気味なものだ。そんな奴が目の前にいればドン引きするわね。
「き、きっと他に方法があるはずです…誰かに助けを求めるとか――ふごっ!」
めんどくさくなってきた私は一口サイズに切り分けられていたハンバーグをフォークに刺し、この甘ちゃんの口に突っ込んだ。問答無用の『はい、あーん』だ。
「とにかく、ご飯を食べなさい。腹減ってんでしょ?」
「ふ、ふごご…」
エイルは困惑しながら咀嚼を始めた。よく噛めよ。
「まったく…ん?」
ハンバーグを刺していたフォークをひっこめながら私はエイルの顔を見た。私の見間違いだろうか?さっきアウルの羽によってつけられたはずのかすり傷がいつの間にか消えていた。あれ?かすり傷ってこんなに早く治るものだったっけ?
「ね、ねぇ。その――」
「いやー、ちょっと目を離したスキにこんな強引なプレイをご披露とは俺得な展開っスねー」
「おわっ!」
話の途中で背後からでかい声が響いた。振り向くとそこには酒瓶片手に顔を真っ赤にしたヌコが立っていた。酒くっさ!
「またですか…この酔っ払い猫が…」
アウルはやれやれ顔で溜息をついた。どうやらよくある光景のようだ。
「コイツ、隙あらば日中でも酒を飲むんですよ。しまいにゃ他人の酒にまで――ん?」
アウルはヌコが持っている酒瓶のラベルを注視した。『魔っしぐら』と書いてあるお酒だ。
「どうっスかー少年ー!この魔勇者様のイケメンな――はぅあ!」
ウザ絡みをしてくるヌコの額に鳥の羽が三本刺さった。瞬く間に酔っ払い猫は仰向けに倒れこんだ。
「え、ええっ?」
私とエイルは何が起きたか理解できなかった。
「失礼…どうやら私がボトルキープしていた酒に手を出していたみたいですので」
そう説明しながらアウルは床に転がっている酒瓶を回収した。
「コイツは後で回収しますので、お二人は食事の続きをどうぞ」
「お、おう…」
後でって…今片付けろよ。
拾っておいてなんだけど、なんとまぁ面倒くさいことになってしまったものだ。いっそのこと見殺しにした方が良かったかしら。
「…あの黒竜あたりにでも相談してみるか…」
味噌汁をすすりながら私はそう考えた。
そう言いながらヌコは頭にフォークを刺したまま席を立っていった。いや抜けよ。血が垂れているわよ。
「…ったく…」
呆れながら私は白米を口に入れた。よくもまぁ、フォークが刺さってへらへらしていられるわね。
「と…ところで…あの…シ、シズハさん…」
「ん?何?」
ようやく食事に手をつけ始めたエイルはたどたどしく私に声をかけてきた。
「その…みんなが言ってる『まゆうしゃ』って…何ですか?」
ああ、そういえば言ってなかったわね。
「それはね――」
「説明しましょう」
「うおっ!」
横からアウルがしゃしゃり出てきた。
「このお方――魔勇者シズハ様は我ら魔族の敵をかたっぱしから抹殺するために魔王様の導きによって異世界から舞い降りた我ら魔王軍の崇高で美しき最高の最終兵器なのです!」
アウルはドヤ顔で私を紹介した。なんじゃその紹介。誰がリーサルウェポンよ。
「ま、つまりは魔王に雇われた勇者ってとこね」
「ま…魔王の…勇者…?」
エイルは困惑した表情でこちらを見ていた。
「そういうことよ。色々あって仕方なく魔王のいいなりになってるわけよ」
私は溜息をもらした。
「で、でも…魔王ってことは…」
「そうよ。今の私は人間の敵よ」
私は断言した。
「黒竜の洞窟で見たでしょ?いくつかの冒険者の亡骸を…」
「じゃあ、あれは…」
「私が殺った」
そう言い切るとエイルの顔色が青くなった。実際はズワースが殺った分のほうが多いんだけどね。
「ど…どうしてそんなひどいことを…!」
「ん?ひどい?」
「そうじゃないですか!人間なのに…魔族に味方して、同じ人間を殺すなんて…!」
エイルは声を震わせて文句をつけてきた。当然っちゃあ当然の反応かしら。元の世界では人間同士の殺し合いなど当たり前のものだった。ここではどうだか知らないが、少なくとも彼にとっては人間同士の殺し合いは考えられない話のようだ。人間の敵は魔族。人間同士は仲良くするもの。そういう考えなのだろう。
「私だって好きで殺ってるわけじゃないのよ。あのクソ魔王に逆らえば問答無用で殺されるのよ」
「だからといって、そんな!人間の敵の魔族に――」
反論を続けようとするエイルの頬を何かがかすめ、細長い傷がついた。その『何か』はたまたま彼の後ろで食事をしていたホースヘッドの後頭部に突き刺さった。鳥の羽だ。
「口を慎みなさい、小僧。魔勇者様への侮辱は私が許しませんよ…」
横を向くとアウルが自らの羽を手に取り、氷のように冷たい視線と共にエイルの頭に狙いを定めていた。殺る気満々の顔だ。
「ちょ…やめなさいよ。食事中だってのに」
飯ぐらい静かに食わせなさいっての。
「…失礼しました」
アウルは思ったよりあっさりと手を引いた。冷静な変態だとは思っていたけど、結構喧嘩っ早い性格なのね。
「…この世界のことはよく知らないけど、人間だって魔族をかたっぱしから殺してるんでしょ?よく考えりゃそれと同じよ」
「で、でも…!」
まだ何か言いたげな顔をしているわねコイツ。
(ラノベの主人公みたいな甘ちゃん思考ね…)
そりゃ背中から味方に撃たれるわね。しかし、彼の言いたいことはわかる。『魔王の力』で昂ってよく覚えていないが、今日までにおそらく両手の指では足りないぐらいには殺してきただろう。最初は緊張こそしたが、すっかり慣れてしまった。今思えば不気味なものだ。そんな奴が目の前にいればドン引きするわね。
「き、きっと他に方法があるはずです…誰かに助けを求めるとか――ふごっ!」
めんどくさくなってきた私は一口サイズに切り分けられていたハンバーグをフォークに刺し、この甘ちゃんの口に突っ込んだ。問答無用の『はい、あーん』だ。
「とにかく、ご飯を食べなさい。腹減ってんでしょ?」
「ふ、ふごご…」
エイルは困惑しながら咀嚼を始めた。よく噛めよ。
「まったく…ん?」
ハンバーグを刺していたフォークをひっこめながら私はエイルの顔を見た。私の見間違いだろうか?さっきアウルの羽によってつけられたはずのかすり傷がいつの間にか消えていた。あれ?かすり傷ってこんなに早く治るものだったっけ?
「ね、ねぇ。その――」
「いやー、ちょっと目を離したスキにこんな強引なプレイをご披露とは俺得な展開っスねー」
「おわっ!」
話の途中で背後からでかい声が響いた。振り向くとそこには酒瓶片手に顔を真っ赤にしたヌコが立っていた。酒くっさ!
「またですか…この酔っ払い猫が…」
アウルはやれやれ顔で溜息をついた。どうやらよくある光景のようだ。
「コイツ、隙あらば日中でも酒を飲むんですよ。しまいにゃ他人の酒にまで――ん?」
アウルはヌコが持っている酒瓶のラベルを注視した。『魔っしぐら』と書いてあるお酒だ。
「どうっスかー少年ー!この魔勇者様のイケメンな――はぅあ!」
ウザ絡みをしてくるヌコの額に鳥の羽が三本刺さった。瞬く間に酔っ払い猫は仰向けに倒れこんだ。
「え、ええっ?」
私とエイルは何が起きたか理解できなかった。
「失礼…どうやら私がボトルキープしていた酒に手を出していたみたいですので」
そう説明しながらアウルは床に転がっている酒瓶を回収した。
「コイツは後で回収しますので、お二人は食事の続きをどうぞ」
「お、おう…」
後でって…今片付けろよ。
拾っておいてなんだけど、なんとまぁ面倒くさいことになってしまったものだ。いっそのこと見殺しにした方が良かったかしら。
「…あの黒竜あたりにでも相談してみるか…」
味噌汁をすすりながら私はそう考えた。
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