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番外編

幼馴染

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「いただきまーす」

 今日の一仕事を終えた私は食堂にて夕食にありついた。今日のメニューは麻婆豆腐である。向かいに座るアウルのメニューは肉野菜炒め定食である。何の肉かは知らん。

「…ぬっ!」

 二口ほど食べたアウルが何かに気づいたのか声をあげた。なんだ?

「…カルボ…今日の野菜炒め…」

 厨房で調理しているカルボに向けての言葉であった。なんか入ってた?

「…隠し味にワインでも入れた?」
「お!よくわかったね!」
 カルボが嬉しそうに声を上げた。ホントによくわかったわね。私全然わからなかったんだけど。
「いつもより味にコクがあったからね。スープの出汁も変えたかしら?」
「そうなんだよ!今日は試しにフルメタ蟹の甲羅を出汁に使ってみたんよ!どう?」
 ドヤ顔をしながらカルボは質問した。う、うぜぇ。
「思ったよりまろやかで飲みやすいわ。顔はうざいけど」
「えぇ~。そりゃないよ~」
 カルボは大げさに肩を竦めた。それにしても…

「今気づいたけど、あんた達ってずいぶん親密ね」
「そりゃあ、付き合い長いからね。ガキの頃からの付き合いさ」
 中華鍋を振るいながらカルボは語った。ガキの頃?ということは幼馴染ってヤツか。
「ただの腐れ縁というものですよ。たまたま親同士が友達だったもので、その影響ですよ」
「どっちの親も任務で忙しくてさー。よく俺が飯を作ってやったんだよ。そのおかげで料理の腕が上達したってわけよ。そういう意味では親には感謝しているかな」
 カルボは楽しげに話を続ける。口を動かしながらも手は調理を続けている。その辺はやはりプロである。
「うっかり高級肉を使っちゃっておふくろにぶん殴られたこともあったねー」
「なんかいつもよりおいしいなと思ったらそんなことがあったのね…」
 アウルが呆れながらスープをすすった。

「それにしても、昔に比べてだいぶクールになったよなーアウルって」
「え?昔からこうじゃないの?」
 クールと言っていいのか正直微妙だが、昔はこうじゃなかったのか。かなり気になる。
「あぁ、昔はフリフリの――おわっ!」
 何かを話そうとしたカルボの眉間目掛けてアウルから羽が飛んできた。カルボは身体を反らして間一髪でそれをかわした。見事なブリッジ回避だ。標的に当たり損なった羽は弾道にいた皿洗いをしているゴブリンの後頭部に命中した。
「あっぶねぇな!当たるかと思ったじゃねぇか!」
「当ててんのよ」
「当てるのは巨乳だけにしてくぬわぁ!」
 抗議の途中で放たれた羽をカルボはとっさに中華鍋でガードした。

「一体何があったのよ?昔のアウルってほわっ!」
 聞こうとした矢先に私目掛けて羽が飛んできた。マフラーが弾かなければ間違いなく私の眉間に命中していた。

「魔勇者様…あなたの下着を城内にばらまかれたくなければその先は聞かないでいただきたい」
 凄みのある顔と声でアウルは念を押してきた。
「わ…わかったわよ…」

 ていうか、なんだその脅し文句。
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