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第五章

残されたメッセージ

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「…行っちゃったね」
「ええ…何だったのかしら…」

 トーレスと名乗った男の背中を見送ったリエル達は呆気にとられていた。

「あの人…何かを見ていったようですけど…?」
「あの石像よね?見てみましょう」
 三人はファナトスの石像に駆け寄った。トーレスが見た石像の足元に文字らしきものが刻まれていた。

「あ。何か書いてある。えーと…」

 ・・・・・

 親 なるト   ・ニ   ィ 

 どう らここが嗅ぎ付け  るのも時間の  だ。  には悪いが は一足先にここ  れる。
   陸ダ  ヴ 。あそ ならば  も追って 来れまい。  神ファナ スを信仰して    ならばかくま   れるだろう。お は各地に残  フ  メン   め、  にある  を回 して れ。あれ   に してはならない。

 それにし   な世の中になったものだ。ファナ   信仰しているだ    徒扱いされるな   歴史を調べれ   ナトスもそん  い神じゃないのに。パル   様の熱心な信  は何が何で   に関わる者を抹 したい  ろう。無事 のはおそ く俺と  だけだ。他の連中はど  ったか かめることもままならない。
 しかし、あの   は何かおかしい。邪  をただ 殺す ために動いて  ようには  ない。何かを  ている   も見える。
 とまぁ色々と  なることは  が、それは生き   た時に すとしよう。もし、    たらすぐにこのメッセ  をなんとか  してくれ。健闘を祈る。


 お前の   ームメイト、  ト・カ  ー  り

 ・・・・・

「これは…」

 年月の経過の影響かところどころの文字がかすれて読めなくなっている。

「誰かへのメッセージみたいだけど…」
「肝心の内容も書き手もわかりませんね…」
 誰にあてたものかもわからない。この文章をあの武道家は見たようだが、当の本人はすでにいない。この文章を理解したかどうか知ることもできない。
「しかし、きったねぇ字だなオイ」
「そうね。ただでさえ読みづらいってのにこれじゃ――っておわ!」
 野太い声に応答し、振り返ったビオラはいつの間にか自分の隣にいた黒豚の姿を見て驚いた。彼は石像の台座に寄りかかり、メッセージを見ていた。

「アンタ…どこにいたのよ!」
「ブヒッ。隠れていたに決まってんだろうが」
 トニーは背中の羽をピコピコと動かしながら鼻を鳴らした。
「また偉そうに…てっきり食われたのかと思ったわよ」
 そう言いながらビオラはトニーの頬をつねった。
「まあまあ、無事でよかったじゃない」
「そうですよ――ってあれ?」
 アズキはトニーの両前脚に縦長の傷がついていることに気づいた。深くこそないが、やや大きめの傷であった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ありゃ?いつの間に。いてて」
 トニーは自分の前脚の傷にようやく気づくとわざとらしい仕草で痛がった。
グレイウルフあいつらに引っかかれたのかしら?」
「その程度で済むなんて…悪運強いわね。アンタ」
 溜息をつきながらビオラは言った。
「今、治療しますね」
 アズキは鞄から軟膏と包帯を取り出し、手際よく処置を施した。
「おう。すまねぇな」
 トニーは治療を受けながら台座の文章を見た。
「何かわかるの?トニー」
 台座の文章をメモしながらリエルは尋ねた。
「うーむ。これは…」
 トニーは真剣な表情で文章を見つめている。

「……さっぱりわからん」

「なによそれ!期待させんじゃないわよ!」
 拍子抜けしたビオラはトニーの後頭部を掴み、彼の鼻を台座に押し付けた。
「プギャー!」
「もう!落ち着いてビオラ!」
 そうリエルから叱責されたビオラは手を離した。
「ブヒッ。しかし、ここの空気はどこか懐かしい。やはりここが記憶に関係している気がする」
 台座から顔を離したトニーは教会の中を見渡しながら答えた。
「…ということは、ファナトスに関わる場所に行けば何か手がかりがあるかも!」
「そうかもしれませんね。この文章からして、他の場所にもこういうメッセージがあるような気がしますし」
 リエルとアズキがそう推測する一方、ビオラは苦い表情であった。
「えー。だったらさ、こいつ一匹で行かせたほうがいいんじゃないの?わざわざあたし達が付き合う必要なんてないでしょ?」
「おいおい。こんなかわいい豚ちゃんを一人にするってのか?薄情だなオイ」
「どこがかわいいのよ。人間だったら絶対むさいおっさんでしょアンタ」
「聞き捨てならねぇな。豚公よ」
「豚はアンタでしょうが」
「あ。俺か」
 そんなやり取りをリエルは苦笑しながら見ていた。
「ま、まぁまぁ。さすがにどこにあるのかはわかんないし。私達のクエストのついでに探すって形でいいかな?」
 リエルは腰をかがめてトニーに聞いた。
「あぁ。構わねぇぜ」
「…まあ、しょうがないわね」
 ビオラは不承不承ながらもうなずいた。

「てなわけで、もうしばらくよろしく頼むぜ」
 そう言いながらトニーは不細工にウィンクした。

「…やっぱコイツ保存食にでもしたほうがいいんじゃない?」
 左手で頭を抱えながらビオラは呟いた。
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