異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第五章

山を越えて

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「ヒュウ!こっち側はずいぶん晴れてるのね~!」

 ファナトスの教会を後にした三人と一匹は扉から外に出た。そこは山を登った時の吹雪が幻と思えるほどの晴天であり、雲一つない青空が広がっていた。

「あ!見てアレ!」

 リエルが指さした方角、この山のふもとの森の中心に小さな集落が見えた。
「もしかして…あれがドワーフの集落ですか?」
 額に手をかざしてアズキが聞いた。
「ペスタの国王の話が本当ならばそのはずだけど…」
 白い息を吐きながらリエルは答えた。
「でも、まだまだ距離はあるわね」
「そうね。山を下ったら川沿いに進んだほうがいいかもね」
 リエルは眼下に見える川をなぞるように指を動かした。

「でも、心配ですね…」
 アズキは不安そうな表情でつぶやいた。
「ん?何が?」
「僕達人間が急にやってきて、ドワーフ達は力を貸してくれるでしょうか?」
 ドワーフ族は人間に対して比較的友好的なこともあり、人間社会においてはエルフ族やクラッズ族と同様に広義的に『人間』としての待遇を受けている。しかし、ほんのわずかな外見や風習の違いに対して好ましくない印象を持つ人間も少なくない。そんな人間が彼らに攻撃的な態度をとる事例もいくつか確認されている。会ったことこそないが
、そういった人間の印象を彼らドワーフが抱いているかもしれない。それがアズキの懸念であった。

「…そうね。確かに不安なことはいっぱいある…私だって怖くないわけじゃない…」
 リエルは静かに語り出した。

「…でも、メイリスさんに教えてもらったの。まだ起きてもいない事で悩んでも仕方ない。そういうのは起きてから考えればいいって!」
「そういえば、そんなこと言ってたわね」
 隣で聞いていたビオラが合いの手を入れた。
「あの人にはいろいろと教えてもらったわ。戦いのコツとか、食べられる野生の果実とか…」
「ホント、博識だったわよね。あの姉さんは」
 リエルとビオラは冒険者になって間もない頃にメイリスに出会った。右も左もわからない二人を彼女は余すところなく旅のフォローをしてくれていたのだ。
「討伐対象の魔物を取り逃がしてあんたがメソメソしていた時も慰めてくれたこともあったっけね」
「もう!言わないでよ恥ずかしい!」
 顔を赤くしてリエルは友人につかみかかった。その様子を見てアズキは思わず吹き出した。
「コホン…まあ、そんなわけで、その人の遺志に応えるためにも私はどんなに怖くても前向きに進んでいこうって決めたの」
「そうだったんですか…」
 リエルは今は亡き仲間の顔を思い浮かべながらまっすぐな視線をアズキに向けた。

「大丈夫!きっとなんとかできる。まずはあの集落に行くことを考えましょう!ほら!」
 明るい表情でそう言ったリエルは我先に山道を下り始めた。

「…強いんですね。リエルさんって…」
 リエルの背中を見ながらアズキはビオラに言った。
「まぁね。なりはおとなしいけど意外と暑苦しいのよ。昔から」
 ビオラは苦笑しながら答えた。
 リエルとビオラは幼少の頃から同じ村で育った古い付き合い、いわゆる『幼馴染』である。
「アイツ、勇者になりたくて冒険者になったんだけどね。あんな調子ではりきるもんだから、フォローが大変なのよ」
 溜息交じりにビオラは愚痴をこぼした。
 力なき人々を守り、邪悪な敵を討つ誇り高き戦士の称号である『勇者』。その勇者になることを目指してリエルは冒険者の道を歩んだ。ビオラはそんな彼女の付き添いで同じく冒険者になった身である。
「ま、そのためにはでかいヤマでも踏んでどっかの国に認められなくちゃならないんだけどね」
 ビオラは肩を竦めた。
「あはは…そうですね」

「何してるの二人とも!早く行きましょう!」
 振り返ったリエルはいまだにしゃべっている二人に声をかけた。彼女の足元にはトニーがちゃっかりいる。

「あ、すみません!」
「はいはい。今行くわよー!」

 二人は信頼できるリーダーに追いつこうと早足で駆け出した。
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