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第九章

シスターを救うデーモン

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「なんでシスターが魔族を庇うわけ?」
 槍使いの女の冒険者は露骨に眉をしかめた。
「そうだ!パルティア様の教え通りならば魔族や魔物は邪神ファナトスが創った忌まわしい存在!そいつらを庇うなど教えに反するだろうが!」
「その通りだ!」
 武器を構えたまま信仰深い冒険者達はシスターの行動に物申した。

「この子達は武器も持たず、まだ幼い子供達です!害意もないのに一方的に狩るなど…!」

 シスターは左腕を広げ、真っ向から反論した。

「子供だろうと魔族は魔族だ!生かしておけば必ず人間われわれに災いをもたらす害悪だ!」
「そうだそうだ!」

「……」

 一歩も引かぬ冒険者達に対し、シスターはどこか悲しげな顔を見せた。

「邪魔するってんなら、いくらシスターでも――」


 ――チリン…

「ん?」

 冒険者達の頭上から透き通った鈴の音が響いた。

「『メガシェイド』」

 上級魔法の名前らしき単語が冒険者達の耳に届いた。それと同時に巨大な黒い渦が三人を取り囲み、やがて球状に彼らを覆いこんだ。

「え?」
「何が――」

 彼らの声はその身体諸共闇に包まれた。闇は瞬く間に収縮し、文字通り消滅した。

「大丈夫かい?」

 突然の出来事に茫然としたシスターの前に四枚の翼を生やした男が空から降りてきた。コボルトの二人はシスターの影に隠れ、様子を窺っている。

「あ、あなたは…?」
「俺かい?通りすがりの魔族だよ」
 軽い口調とは裏腹に男は頭を下げ、丁寧にお辞儀した。
「こんな絶景の中であんな無粋な真似されちゃ面白くないと思ってね」
 男は周囲に咲き乱れるホタルバラに手をかざした。シスターは目を丸くしたまま言葉を失っていた。

「…おっと。さすがにシスターの前で殺生はまずかったかい?だとしたら悪かったな」
 シスターの表情から何かを察した男は素直に謝罪した。
「あ…いえ、あの…」
 男の言葉に対し、シスターは返す言葉が思いつかなかった。見たこともない魔法で冒険者達を消し去ったこと。魔族であるにも関わらず人間である自分を気軽に助けたこと。いずれも理解が追い付かなかった。

「まぁでも、あんたが来てくれなかったら正直間に合わなかったかもしれねぇ。ありがとな」
 男は笑顔で礼を述べた。
「そんな…私は…」
 シスターが困惑しながら後ろを振り向くと、彼女の影に隠れていたコボルトの二人が同意するように何度もうなずいていた。

「それじゃ、そこの二人は俺が里まで送ってやる。あんたも早く帰んな」
 そう言って男はコボルト二人を両脇に抱え、どこかに飛び去って行った。シスターはその様子をただ静かに見送った。

「…私は…あんな顔をしていたんですね…」

 一人残されたシスターは、先程コボルト達を襲った冒険者達の顔を思い浮かべた。魔族の存在そのものを忌み嫌い、罪の有無にかかわらず手にかけようとするその姿勢。シスターにとって彼らの行いは決して他人事ではなかった。ゆえに、黒い翼の魔族の行いを責めることはできなかった。彼女はすでに失われた右腕にそっと手を当てた。

「…だから……私は…」

 帰る場所のないシスター――フェリシアはかつての自分を振り返りながらいずことなく歩いていった。周囲のホタルバラは何も語らずただ静かにその姿を照らしていた。
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