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第十章

上空からの支援

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「『シールド』!」
「『フリーズ』!」

 僧侶が展開した防御魔法によって海賊の槍は阻まれ、魔法使いが放った氷魔法が別の海賊に直撃した。前衛が防御を固め、後衛が迎撃を行う。防衛の基本布陣だ。

「へぇ…基本はできてるみたいね」

 ローストビーフの咀嚼を終えたメイリスは遠くから魔法使い達の戦いを見て感心した。勇者ともう一人の仲間であるはずの武闘家の姿がない。おそらく船内の貴族達の救助に向かったのだろう。

「ま、あっちはあっちで任せていいわよね」

 勇者一行と貴族達に関しては特に指示は受けてない。こちらの任務に支障をきたさないならば無理に干渉する必要はない。むしろ、下手に近づかない方が自分達の正体に気づかれずにすむ。そう考えたメイリスは胃の中の油を洗い流すために赤ワインを手に取った。

「…うん。やっぱりお肉には赤ワインが合うわね」

 周囲を飛び交う悲鳴をBGMにして上質な赤ワインを堪能したメイリスは正面に弓をつがえてこちらを狙う海賊を目撃した。

「ぬあぁっ!」

 回避を試みようとした途端、上空から降って来た何かが海賊の頭上に突き刺さり、一瞬で海賊を絶命させた。放たれた矢はそのままあらぬ方向へ飛んでいった。
 メイリスが足元に目をむけると、海賊の頭に刺さったものと同じ物が近くの床に突き刺さっていた。

「これは……羽?」

 その羽の形には見覚えがあった。メイリスは足元の羽を拾い上げ、羽の先端に巻かれていた紙を広げた。

『上空にて現在の状況を把握。海魔王軍へはすでに連絡済み。援軍到着まで障害を排除しながら待機されたし。なお、不測の事態に対しては臨機応変に対応すること』

 手紙を読み終えたメイリスは空を見上げた。晴天でもその姿をはっきりと目視できる距離ではなく、羽虫のように小さな点が辛うじて見えるだけである。しかし、探知できる強力な魔力とその地点から降り注ぐ羽の攻撃からその存在の正体を理解することができた。

「…オッケー!なんとかさせてもらうわ」

 メイリスは上空に向けてOKサインをかざした。それに応えるかのように再び羽が降り注ぎ、メイリスの周囲に近づいていた海賊達の息の根をことごとく止めていった。また、乗客を守るために奮闘する勇者一行の周囲にも羽はにわか雨のごとく降り注がれ、彼女達を襲う海賊達もまた犠牲になった。思わぬ援護を受けた魔法使いと僧侶は困惑の表情を浮かべていた。

「…感謝しなくちゃね。至れり尽くせりのメイドさんに」

 羽の雨によって海賊の亡骸が次々と床に転がり続ける中、メイリスは持参したタッパーに残りの肉料理をできる限り詰め込んだ。

「…さて、うちの可愛い魔勇者様はどうしているかしらね?」

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