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第十章
一か八か
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「うおおおおああぁぁ!」
魔勇者の両腕に形成された黒い炎のかぎ爪が絶え間なくセラムに襲い掛かった。
「ぐっ!」
セラムは巧みなステップで攻撃をかわし続けた。この間合いとタイミングでは剣による反撃は難しい。魔勇者はそれを知って至近距離を保ちながら連続で攻撃を繰り出しているのだ。ましてや、その辺の魔物や魔族とは比べ物にならないほどの気迫と殺気。並みの冒険者ならそれを目の当たりにしただけで卒倒しているだろう。黒い炎の一撃が近くの壁に叩き付けられ、大きな穴から外の大海があらわになった。
「…だが…」
セラムは冷静に魔勇者の動きと表情に注目した。
「はぁっ…!はぁっ…!」
先ほどよりも呼吸が荒く、黒い炎の爪の攻撃も精彩を欠いている。間違いなく疲弊してきている。それを見抜いたセラムは一瞬のスキをついて自らの真横に剣を振るった。
「ぐはぁっ!」
斬撃によって生じた空間の裂け目から数人の海賊が静葉の前になだれ込んできた。その先頭には海賊の頭領であるベレーノの姿があった。
「おせぇぞ灰被り!何油売ってやがった!」
数人の部下の下敷きになっているベレーノは協力者に対して怒鳴りつけた。当の本人は目を向けもしていない。
「今、外には海竜がばぁっ!」
文句を言い続けるベレーノの頭は魔勇者の無慈悲な踏みつけによってトマトのごとく破裂した。
「ひいぃ!」
惨劇を目の前にした部下の一人が頭を上げると、鬼気迫る表情で両腕に黒い炎をたぎらせた魔勇者と目が合った。
「た、たすけばぶぁ!」
命乞いをしようと海賊が口を開いた瞬間、黒い炎で形成された獣の頭に彼の上半身は丸呑みされた。残りの海賊もまた、同じように黒い炎の餌食と化した。
「…しまった!」
思わぬ敵の援軍を喰らうことで生命力を回復することが出来た静葉だが、それがセラムの策であった。彼はどさくさに距離を取り、緋色の剣を構えている。
このままではあの予測困難な攻撃の格好の的となる。距離を詰めようにも間に合わない。
「…こうなったら…!」
一か八か。静葉は右手に魔力を集中し、足元の床に叩き付けた。
「…『ディープフリーズ』!」
放たれた氷の禁断魔法は静葉を取り囲むように無数のつららを床から形成した。そのうちの何本かは壁を貫き、砲弾ですら傷一つつかぬクイーン・ゼイナル号の装甲に風穴を開けた。
「…これは…!」
派手な目くらましか。強烈なつららと冷気に気圧されながらもセラムは警戒を続けた。姿が見えずとも魔力を捉えればウルティムスによる攻撃を当てることができる。いかに禁断魔法といえども直撃さえしなければ恐れるに値しない。そう思ったセラムは絶剣を真横に構えた。
しかし、足元に異様な冷たさを感じ、視線を下に向けると、床全体に氷の膜が張られており、両足は氷に捕らわれて動きを封じられていた。
「…『フィアーウィンド』!」
「なに!?」
風の禁断魔法。その名が対象の耳に届いた瞬間、静葉を包み込むように巨大な竜巻が発生。巻き込まれた者の心身に畏怖を刻み込む竜巻は天井を貫き、やがて甲板まで舞い上がった。
そして、巻き込まれた周囲のつららは粉々に砕け散り、大粒の氷塊は散弾のように全方位に飛び散った。
「うおおおおおお!」
足の動きを封じられたところに襲い来る分厚い氷の弾幕と強烈な竜巻。回避不可能と判断したセラムは前方に絶剣を思いきり振りかぶった。
魔勇者の両腕に形成された黒い炎のかぎ爪が絶え間なくセラムに襲い掛かった。
「ぐっ!」
セラムは巧みなステップで攻撃をかわし続けた。この間合いとタイミングでは剣による反撃は難しい。魔勇者はそれを知って至近距離を保ちながら連続で攻撃を繰り出しているのだ。ましてや、その辺の魔物や魔族とは比べ物にならないほどの気迫と殺気。並みの冒険者ならそれを目の当たりにしただけで卒倒しているだろう。黒い炎の一撃が近くの壁に叩き付けられ、大きな穴から外の大海があらわになった。
「…だが…」
セラムは冷静に魔勇者の動きと表情に注目した。
「はぁっ…!はぁっ…!」
先ほどよりも呼吸が荒く、黒い炎の爪の攻撃も精彩を欠いている。間違いなく疲弊してきている。それを見抜いたセラムは一瞬のスキをついて自らの真横に剣を振るった。
「ぐはぁっ!」
斬撃によって生じた空間の裂け目から数人の海賊が静葉の前になだれ込んできた。その先頭には海賊の頭領であるベレーノの姿があった。
「おせぇぞ灰被り!何油売ってやがった!」
数人の部下の下敷きになっているベレーノは協力者に対して怒鳴りつけた。当の本人は目を向けもしていない。
「今、外には海竜がばぁっ!」
文句を言い続けるベレーノの頭は魔勇者の無慈悲な踏みつけによってトマトのごとく破裂した。
「ひいぃ!」
惨劇を目の前にした部下の一人が頭を上げると、鬼気迫る表情で両腕に黒い炎をたぎらせた魔勇者と目が合った。
「た、たすけばぶぁ!」
命乞いをしようと海賊が口を開いた瞬間、黒い炎で形成された獣の頭に彼の上半身は丸呑みされた。残りの海賊もまた、同じように黒い炎の餌食と化した。
「…しまった!」
思わぬ敵の援軍を喰らうことで生命力を回復することが出来た静葉だが、それがセラムの策であった。彼はどさくさに距離を取り、緋色の剣を構えている。
このままではあの予測困難な攻撃の格好の的となる。距離を詰めようにも間に合わない。
「…こうなったら…!」
一か八か。静葉は右手に魔力を集中し、足元の床に叩き付けた。
「…『ディープフリーズ』!」
放たれた氷の禁断魔法は静葉を取り囲むように無数のつららを床から形成した。そのうちの何本かは壁を貫き、砲弾ですら傷一つつかぬクイーン・ゼイナル号の装甲に風穴を開けた。
「…これは…!」
派手な目くらましか。強烈なつららと冷気に気圧されながらもセラムは警戒を続けた。姿が見えずとも魔力を捉えればウルティムスによる攻撃を当てることができる。いかに禁断魔法といえども直撃さえしなければ恐れるに値しない。そう思ったセラムは絶剣を真横に構えた。
しかし、足元に異様な冷たさを感じ、視線を下に向けると、床全体に氷の膜が張られており、両足は氷に捕らわれて動きを封じられていた。
「…『フィアーウィンド』!」
「なに!?」
風の禁断魔法。その名が対象の耳に届いた瞬間、静葉を包み込むように巨大な竜巻が発生。巻き込まれた者の心身に畏怖を刻み込む竜巻は天井を貫き、やがて甲板まで舞い上がった。
そして、巻き込まれた周囲のつららは粉々に砕け散り、大粒の氷塊は散弾のように全方位に飛び散った。
「うおおおおおお!」
足の動きを封じられたところに襲い来る分厚い氷の弾幕と強烈な竜巻。回避不可能と判断したセラムは前方に絶剣を思いきり振りかぶった。
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