207 / 261
第十章
勇者殺し
しおりを挟む
「はぁっ…はぁっ…」
弱まってきた黒い炎を両手にくすぶらせながら静葉は呼吸を整えた。慣れない上にぶっつけ本番のの禁断魔法の二連発はさすがに応えたようだ。
どこから来るかわからない空間を越えた攻撃。それを防ぐために相手の足を封じ、自分の全方位に攻撃をぶちかます。とっさの判断であり、正直、精彩を欠いた戦法であった。もし、突破されていれば…
「く…」
静葉が正面に目を向けると、そこには右肩の出血を左手でおさえ、苦痛の表情を浮かべるセラムの姿があった。脇腹や右足にも多少の傷があり、いくらかの手ごたえがあったようだ。
今こそ追い打ちをかけるチャンス――と言いたいところだが、身体が重い。禁断魔法の反動は思った以上に大きいものであった。しかし、いいところで動けないのは相手も同じだった。
「禁断魔法…魔勇者の称号は飾りではないようだな…」
傷を負っているにも関わらず、セラムは不敵に笑っていた。
「…もっとも、己自身をもむしばむようだがな」
「無敵のチートスキルってわけじゃないからね」
強がるように静葉も不敵に笑ってみせた。腰に巻かれた赤いマフラーは威嚇するようにうごめいている。
「それほどの力を持ちながら、なぜおまえは魔王共の奴隷に甘んじている?」
「は?」
突然の不快な質問に静葉は眉をしかめた。
「…私だって好きであんなクソに従っているわけじゃないのよ」
「…ならば何のために?富か?栄誉か?それとも愛か?」
セラムは冷ややかな表情で質問を続けた。
「…あいにく、くだらない問答に付き合ってる暇はないわ」
静葉は天井を指さした。巨大な竜巻によって開けられた穴から二つの影が飛び降りてきた。甲板から援護に駆け付けたメイリスとリーヴァだ。
「これでもまだ続けるつもり?勇者殺しさん」
「何?」
静葉の言葉を聞いたセラムは小首を傾げた。
「勇者…殺し…俺のことか…?」
「そうよ」
彼にどのような事情があるかは静葉は知らない。しかし、勇者の称号を持つ者。あるいはその力にすがる者の命を狙うその姿はまさしく勇者殺し。静葉はそう考えた。
「ふ…ふふ…」
「え?」
「はははははは!」
突如笑い出したセラムに静葉は思わず身をすくませた。
「いいだろう。俺の名はセラム・ドゥ。勇者という存在に絶望を刻む勇者殺しだ」
再び名乗りを上げたセラムは自らの真横に絶剣を振るい、空間の裂け目を作り出した。
「いい土産の礼だ。今日のところはひいてやる」
開かれた空間の裂け目の向こう側には緋色の奇妙な空間が広がっている。
「だが、覚えておけ魔勇者よ。勇者は何も救わない。救えない。救われもしない…」
そう言い残したセラムが裂け目に身を投じると、瞬く間に裂け目は閉ざされ、静葉の周囲から勇者殺しの気配が消えた。
「…ひいてくれた…」
空間の揺らめきが収まったことを確認した静葉は両腕の黒い炎をひっこめ、大きなため息をついた。
「大丈夫?」
「ええ」
両膝の力を抜いた静葉にメイリスは肩を貸した。
ああも強がりはしたが、正直ギリギリであった。あれ以上戦うことになっていれば勝ち目はなかったであろう。
「よくぞ生き延びた。魔勇者よ」
「うお!」
突如聞こえた声の方角に目を向けた静葉は、壁に大きく開けられた穴から見える海から顔を出している海竜と目が合った。
弱まってきた黒い炎を両手にくすぶらせながら静葉は呼吸を整えた。慣れない上にぶっつけ本番のの禁断魔法の二連発はさすがに応えたようだ。
どこから来るかわからない空間を越えた攻撃。それを防ぐために相手の足を封じ、自分の全方位に攻撃をぶちかます。とっさの判断であり、正直、精彩を欠いた戦法であった。もし、突破されていれば…
「く…」
静葉が正面に目を向けると、そこには右肩の出血を左手でおさえ、苦痛の表情を浮かべるセラムの姿があった。脇腹や右足にも多少の傷があり、いくらかの手ごたえがあったようだ。
今こそ追い打ちをかけるチャンス――と言いたいところだが、身体が重い。禁断魔法の反動は思った以上に大きいものであった。しかし、いいところで動けないのは相手も同じだった。
「禁断魔法…魔勇者の称号は飾りではないようだな…」
傷を負っているにも関わらず、セラムは不敵に笑っていた。
「…もっとも、己自身をもむしばむようだがな」
「無敵のチートスキルってわけじゃないからね」
強がるように静葉も不敵に笑ってみせた。腰に巻かれた赤いマフラーは威嚇するようにうごめいている。
「それほどの力を持ちながら、なぜおまえは魔王共の奴隷に甘んじている?」
「は?」
突然の不快な質問に静葉は眉をしかめた。
「…私だって好きであんなクソに従っているわけじゃないのよ」
「…ならば何のために?富か?栄誉か?それとも愛か?」
セラムは冷ややかな表情で質問を続けた。
「…あいにく、くだらない問答に付き合ってる暇はないわ」
静葉は天井を指さした。巨大な竜巻によって開けられた穴から二つの影が飛び降りてきた。甲板から援護に駆け付けたメイリスとリーヴァだ。
「これでもまだ続けるつもり?勇者殺しさん」
「何?」
静葉の言葉を聞いたセラムは小首を傾げた。
「勇者…殺し…俺のことか…?」
「そうよ」
彼にどのような事情があるかは静葉は知らない。しかし、勇者の称号を持つ者。あるいはその力にすがる者の命を狙うその姿はまさしく勇者殺し。静葉はそう考えた。
「ふ…ふふ…」
「え?」
「はははははは!」
突如笑い出したセラムに静葉は思わず身をすくませた。
「いいだろう。俺の名はセラム・ドゥ。勇者という存在に絶望を刻む勇者殺しだ」
再び名乗りを上げたセラムは自らの真横に絶剣を振るい、空間の裂け目を作り出した。
「いい土産の礼だ。今日のところはひいてやる」
開かれた空間の裂け目の向こう側には緋色の奇妙な空間が広がっている。
「だが、覚えておけ魔勇者よ。勇者は何も救わない。救えない。救われもしない…」
そう言い残したセラムが裂け目に身を投じると、瞬く間に裂け目は閉ざされ、静葉の周囲から勇者殺しの気配が消えた。
「…ひいてくれた…」
空間の揺らめきが収まったことを確認した静葉は両腕の黒い炎をひっこめ、大きなため息をついた。
「大丈夫?」
「ええ」
両膝の力を抜いた静葉にメイリスは肩を貸した。
ああも強がりはしたが、正直ギリギリであった。あれ以上戦うことになっていれば勝ち目はなかったであろう。
「よくぞ生き延びた。魔勇者よ」
「うお!」
突如聞こえた声の方角に目を向けた静葉は、壁に大きく開けられた穴から見える海から顔を出している海竜と目が合った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる