210 / 261
第十章
お情け
しおりを挟む
クイーン・ゼイナル号を制圧した海魔王軍は船内から押収した貨物を次々と甲板上に運び出していた。金銀財宝。魔法アイテム。高級食材といった一般的なもの。違法薬物。条約違反の動植物。果ては奴隷として扱う予定だった少年少女といった非合法的なものまでそろっていた。
「ずいぶん見られちゃ困る物運んでたのねぇ」
新たに用意された肉料理を堪能しながらメイリスはのんきに貨物を眺めていた。
「どこの世界でもあこぎな商売はあるのね」
あらゆる暴露をさらされ、顔を真っ青にする貴族達を見た静葉は呆れかえった。得る物が多い人間ほど失う物も多いという話がある。
自分達が命がけで守った人々の黒い荷物を目の当たりにした『守護の風』の生き残りである魔法使いと僧侶の二人は困惑の表情を浮かべていた。
「二国の交流ツアーの皮をかぶった密輸…彼らはそうやって私腹を肥やしていたというわけだ」
母であり上司である海魔王からこってりと説教を受け終えたリーヴァは二人の冒険者に近寄り、そう告げた。
「哀れなものだな。何も知らず…否、何も知ることもできぬまま愚行に利用されるというのは」
新たに選抜された勇者の仲間として誇り高く活動してきた魔法使いと僧侶の二人にとって、今回の事件はあまりにもショッキングであった。知らなかったとはいえ、自分達が悪事の片棒を担がされていたこと。先ほど、仲間である勇者と武闘家の遺体が船内で発見されたこと。あらゆる衝撃の事実に言葉を失った少女二人はリーヴァの話をただ黙って聞くことしかできなかった。
「そんな人間どもの道具にされていた勇者ごときを悲しむ価値など――べぶっ!」
背後からリーヴァの股間に静葉のキックが襲い掛かった。
「何偉そうにぬかしてんのよ」
クリーンヒットをもらったリーヴァはすさまじい激痛に耐えきれずその場にうずくまった。
「ごめんね。こいつのたわごとは聞き流していいから」
「あ、あなたは…」
「魔勇者…!」
人間でありながらも平然と魔族を制する少女。僧侶は先ほどの魔族達の会話からこの少女が魔勇者であると気づいた。
「どうして…あなたが…」
「色々あってね。ま、私のことはどうでもいいわ」
股間を押さえてうずくまるリーヴァを足蹴にしながら静葉は答えた。
「あなた達がどういういきさつでこの船に乗ったかは私は知らない。でも…」
静葉は背後で魔族達に運ばれる勇者の遺体をチラ見した。
「私の見た限りでは、あの勇者は最期まで勇者していたわ。バカ正直にね」
実力はいかほどかついぞわからなかったが、忖度することなく一人でも多くの人々を海賊の魔の手から守ろうとするその姿勢は勇者の名に恥じないもの。静葉はそう考えた。
「ギルドとやらには好きに報告するといいわ。魔勇者に殺されたとかね」
そう告げた静葉は魔法使い達に背を向け、テーブルに戻ろうとした。
「ま、待って!」
「どうして…私達は見逃すの?」
「そ、そうよ!勇者を殺したってんならその仲間も――」
「……」
勇者を殺したのは武闘家の手引きによってこの船に忍び込んだ勇者殺し。しかし、場合によっては自分が勇者を殺すこととなっていたのも事実。勇者を殺したのは自分だと思われても異議はない。
ゆえに、魔法使い達の誤解を解くつもりはなかった。
「今日はもう疲れたからね。さっさと帰って着替えて寝たいのよ」
敵に背中を見せたまま静葉は答えた。
「自殺願望があるならそこの氷の海に飛び込めば?知らんけど」
疲労のせいか、だんだんと投げやりな対応になっていた。
「あきらめよ。いずれにせよ、おぬし達に勝ち目などない」
海魔王レヴィアーナが代わりに応対を始めた。
「今日のところは観念し、家に帰ってクソして寝ることじゃな。金が心配ならば少しぐらいは恵んでやってもよいぞ?」
恐ろしく余裕な態度で接する海魔王に対し、『守護の風』の二人は反論も反抗もできなかった。
「ずいぶん見られちゃ困る物運んでたのねぇ」
新たに用意された肉料理を堪能しながらメイリスはのんきに貨物を眺めていた。
「どこの世界でもあこぎな商売はあるのね」
あらゆる暴露をさらされ、顔を真っ青にする貴族達を見た静葉は呆れかえった。得る物が多い人間ほど失う物も多いという話がある。
自分達が命がけで守った人々の黒い荷物を目の当たりにした『守護の風』の生き残りである魔法使いと僧侶の二人は困惑の表情を浮かべていた。
「二国の交流ツアーの皮をかぶった密輸…彼らはそうやって私腹を肥やしていたというわけだ」
母であり上司である海魔王からこってりと説教を受け終えたリーヴァは二人の冒険者に近寄り、そう告げた。
「哀れなものだな。何も知らず…否、何も知ることもできぬまま愚行に利用されるというのは」
新たに選抜された勇者の仲間として誇り高く活動してきた魔法使いと僧侶の二人にとって、今回の事件はあまりにもショッキングであった。知らなかったとはいえ、自分達が悪事の片棒を担がされていたこと。先ほど、仲間である勇者と武闘家の遺体が船内で発見されたこと。あらゆる衝撃の事実に言葉を失った少女二人はリーヴァの話をただ黙って聞くことしかできなかった。
「そんな人間どもの道具にされていた勇者ごときを悲しむ価値など――べぶっ!」
背後からリーヴァの股間に静葉のキックが襲い掛かった。
「何偉そうにぬかしてんのよ」
クリーンヒットをもらったリーヴァはすさまじい激痛に耐えきれずその場にうずくまった。
「ごめんね。こいつのたわごとは聞き流していいから」
「あ、あなたは…」
「魔勇者…!」
人間でありながらも平然と魔族を制する少女。僧侶は先ほどの魔族達の会話からこの少女が魔勇者であると気づいた。
「どうして…あなたが…」
「色々あってね。ま、私のことはどうでもいいわ」
股間を押さえてうずくまるリーヴァを足蹴にしながら静葉は答えた。
「あなた達がどういういきさつでこの船に乗ったかは私は知らない。でも…」
静葉は背後で魔族達に運ばれる勇者の遺体をチラ見した。
「私の見た限りでは、あの勇者は最期まで勇者していたわ。バカ正直にね」
実力はいかほどかついぞわからなかったが、忖度することなく一人でも多くの人々を海賊の魔の手から守ろうとするその姿勢は勇者の名に恥じないもの。静葉はそう考えた。
「ギルドとやらには好きに報告するといいわ。魔勇者に殺されたとかね」
そう告げた静葉は魔法使い達に背を向け、テーブルに戻ろうとした。
「ま、待って!」
「どうして…私達は見逃すの?」
「そ、そうよ!勇者を殺したってんならその仲間も――」
「……」
勇者を殺したのは武闘家の手引きによってこの船に忍び込んだ勇者殺し。しかし、場合によっては自分が勇者を殺すこととなっていたのも事実。勇者を殺したのは自分だと思われても異議はない。
ゆえに、魔法使い達の誤解を解くつもりはなかった。
「今日はもう疲れたからね。さっさと帰って着替えて寝たいのよ」
敵に背中を見せたまま静葉は答えた。
「自殺願望があるならそこの氷の海に飛び込めば?知らんけど」
疲労のせいか、だんだんと投げやりな対応になっていた。
「あきらめよ。いずれにせよ、おぬし達に勝ち目などない」
海魔王レヴィアーナが代わりに応対を始めた。
「今日のところは観念し、家に帰ってクソして寝ることじゃな。金が心配ならば少しぐらいは恵んでやってもよいぞ?」
恐ろしく余裕な態度で接する海魔王に対し、『守護の風』の二人は反論も反抗もできなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる