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第十二章

優秀なアルバイト

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「お。マジで空いてんじゃん!」
「でしょ?口コミによるとここの飯結構美味いらしいよ」
「マジで?」
 冒険者と思われる若い女性二人が来店した。

「こんにちはアヤカちゃん。この前はありがとね」
「いらっしゃいませ。こちらこそお野菜を分けていただき、ありがとうございます」
 来店した農家の中年女性にアヤカは礼を言った。

「へぇ~…結構人入んのね」
「そうね」
 三人と一匹が食事を進めている間にも何組かの客が来店していた。
 人の往来が激しい表通りとは対照的な路地裏。そこにひっそりとたたずむ隠れ家のような食堂。その存在とそこに行き着くまでのルートを知る者のみが味わうことができる料理。穴場という言葉がふさわしい場所にこんな良質な料理を出す店があったことに三人と一匹は驚いていた。
「店長はかつて、ソティ王国にある高級レストラン『セブンエンジェル』のシェフを務めていたお方なんですよ」
「セブンエンジェル!?あの貴族ごひいきの嫌味レストランで有名な?」
 アヤカの言葉を聞いたビオラは以前両親から聞いた話を思い出した。金に物を言わせた食材の買い占め。他店の実力シェフの買収。産地詐称。邪魔になりそうな店の地上げ。破壊工作。暗殺。あらゆる黒い噂だらけの悪徳レストランである。
「そんな人がどうしてこんな店に?」
「いやぁ。数年前、王国が開催する料理コンテストである小さな食堂の女シェフに惜敗してな。当時のオーナーの怒りを買っちまったのよ」
 店長は調理を続けながら自らの身の上話を始めた。
「で、あまりの言われように腹が立ってな。そいつのツラにダシをぶっかけていくつかのレシピと食材と裏金をかっぱらって国を出たのよ」
「どさくさにえらいことしてるわね」
 主力のシェフを失ったその店がどうなったか。その顛末は今の彼にはもはや無関係である。
「で、この国に流れ着いて、空き家だったここを買って店を出したってわけ」
 そう話をする間にも店長は海鮮丼の調理を終えた。
「苦労なさったんですね…」
 すでに一度その話を聞いているアヤカだが、最初に聞いた時と同じリアクションで店長を労り、お盆に海鮮丼を乗せた。
「でも、それほどの腕だったら他にいい店あったんじゃないの?こんなボロ店よりも稼げんでしょ?」
 ごもっともな疑問をビオラはぶつけた。
「色々疲れちまったからな。逆にこういうとこでのんびり飯を作りたかったのよ」 
 溜息をついた店長はサラダを作り始めた。
「もっとも、こんな優秀なアルバイトちゃんが来てくれるたぁ思わなかったがな」
「いえいえ。店長の教えの賜物です」
 かしこまりながらもアヤカは来客全員分のお茶を注ぎ終えた。
「俺は何も教えちゃいねぇよ。カレーの隠し味とか、お肉を柔らかくする裏技とか、チャーハンをパラパラにする裏技とか、野菜の鮮度を保つ保存法とか、逆に俺の方が教えられてるもんだよ」
「優秀すぎんでしょ…」
 店長の話と店内での立ち回り。このアルバイトの少女が只者ではないことは明らかであった。
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