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第47話 魔王信仰
しおりを挟む「──おいッ、兵士共! お前ら邪魔だ、下がれ!」
すると、そのフィップの言葉に、隊を指揮していた、髭の兵士がその場の兵士を代表し返事を返す。
「フィップ殿!? し、しかし、そういう訳には!」
「いいから、早く行け! お前らじゃ手に余る!」
勿論だが、その間もこの敵は待ってはくれない。
どんどん大きくなり〝黒い影が集まった上半身だけの巨人〟みたいな感じになった、この〝黒影元マント〟は──此方に腕を振りかざし、攻撃してくる。
動きは比較的ゆっくりだが、腕自体が大きいので、このスピードでも広範囲で、それなりの威力はあるだろう。今現在の片腕の大きさだけでも、大型トラックぐらいの大きさがある。
俺はそれを阻止する為〝剣〟を手に取り、タイミングを計るが……
「今度は何だ!?」
ヒュンッ!! ダダダダダン!!
と、上空から何者かが〝黒影元マント〟を〝魔法〟で攻撃する。
「──アーデルハイト王国の王女様方々! ご無事ですか! 私はギルド〝第3騎士隊所属〟──フィオレ・フローリアと申します! 第3騎士隊、以下数名、微力ながら援護させて貰います!」
と、緑髪ショートの背中に白い翼のある〝鳥人族〟の女性が話かけて来る。
年は、十代半ばぐらいだろうか?
そして、そのフィオレと名乗った少女に続き──同じく背中に翼のある〝鳥人族〟が、6人程がこちらに向かってくる。
「フィオレ姉さん! 僕も負けないからね! それに、あの黒いスイセン服の人が、ヴィエラ姉さんの恩人かな?」
最初に話してきた緑髪ショートのフィオレの隣を飛ぶ、同じく〝鳥人族〟の緑髪の少年が、俺を見て何か話してるが「レオン、後にしなさい!」と怒られている。
「アリス、お前も兵士と下がれ──〝禁術〟だか、何だか知らんが、あの〝黒影元マント〟の狙いは、お前みたいだからな?」
「嫌なのです。そもそも、ここから一歩も動かなければ、お前が私を守ってくれるのでしょう? なら、私はここを動かないほうが安全なのです」
「──ッ……分かったよ。そう言われたら返す言葉も無いしな」
「おうおう、えらいお嬢に気に入られたな? それにギルドで噂になってた〝黒い女誑し〟ってのも、お前のことか?」
「おい、待て、フィップ! それ誰に聞いた!?」
「ユキマサ、フィップ、来るのです!」
「──グォォォ!!!!」
先程と同じパンチだ。
つーか、腕、また少し大きくなってないか!?
成長期にしても早すぎるぞ?
(てか、まずコイツ上半身しか無いしな……そもそも、この〝半巨人の黒影元黒マント野郎〟を成長期だとか、生物学的に見るのは間違ってるか……)
それに口から出る、黒紫の煙を吸うと〝呪い〟を受けるらしいが──あと、それとは別に、コイツの黒い身体に纏っている〝黒い煙〟みたいなのも、触れてしまえば、普通に肌荒れとかじゃ済まなそうだな。
(今の所は、相変わらず〝真っ黒な上半身のみの人形巨人お化け〟みたいな姿で、サイズは家屋ぐらいだが、これ以上に大きくなったりして、更に厄介になる前に、早めに片付けたほうがよさそうだ……)
──ヒュンッ! ザクザクザクザク! ドバンッ!
俺は〝剣〟で、迫り来る〝黒影元マント〟の、エセ巨人パンチを取り合えずは……
──斬って、斬って、斬って、斬るッ!
最後は〝魔力〟を纏った〝月夜〟を逆手に持ち、下から上に振り上げるような形で力任せに吹っ飛ばす。
ドシャーン!!
と〝黒影元マント〟は俺が振り上げた──〝魔力〟を帯びた斬撃と、風圧で体勢を崩して大きく倒れる。
「──うわッ、すっご!? 何、あれ……本当にヴィエラ姉さんの言ってた通りみたいね……」
大型トラック程度の大きさの〝黒影元マント〟の腕が、肘の辺りまで、野菜みたいにザクザクと切れるが……どうも手応えが浅い。
斬った後の腕からは、直ぐにモワモワと黒い煙があがり、その煙に包まれ、傷はすぐに治ってしまう。
「身体の何処かに〝魔力〟の核になる物がある筈なのです。それを破壊しなければ、コイツは倒せないのです!」
(……なるほど、そういうことか?)
「──敵襲!! 西より、新たに〝魔王信仰〟と見られる敵が接近中です! 数はおよそ4人です!」
空を飛び回って辺りを見ていた、第3騎士隊の緑髪の少女──フィオレが慌てた様子で知らせてくる。
(4人か……どの程度の奴かによるが、もしこの〝黒影元マント〟みたいに化けるのが4人なら面倒だな?)
「その愚か者共は、この老骨にお任せください!」
すると、ストン! と華麗に、この場に飛び降りて来たのは〝妖怪世話焼き爺〟こと──アーデルハイト王国の〝千撃〟だ。
(クシェリの踵落としといい、フィップの魔法といい、そして最後には妖怪世話焼き爺とは……今日はやたらと、空から何かが降って来る日だな)
「やっと来たのですね。ジャン、今までどこをほっつき歩いていたのですか!」
「お嬢様、ご無事な様子で何よりでございます」
(てか、アリス『どこをほっつき歩いてた』も何も、お前が、その妖怪世話焼き爺から逃げろって言って、逃げてきたんだろうが……)
「オイ、老いぼれ小僧! そっちは任せたぞ? あと兵も連れてけ──この〝禁術者〟相手じゃ、負傷者が出るだけだ!」
「かしこまりました。では、フィップ先輩は、あちらのデカブツの相手をお願いできますと言うことですかな? 呉々もお気をつけくだされ〝魔王信仰〟の者の行動は、常に常識から逸脱しておりますので」
「ハハハ、みてーだなぁ? 今、一杯食わされた所だ。こりゃ、あたしも歳を取ったか?」
(そーいや。コイツの歳はいくつ何だろうな? 吸血鬼ってのは、やっぱ長寿なのだろうか?)
「──失礼します。初めまして、私は〝第3騎士隊所属〟フィオレ・フローリアと申します」
スタッ! と、緑髪ショートの鳥人族の少女──フィオレが〝千撃〟の前に降りてくる。
「現在ギルドより〝第3騎士隊長〟及び──〝第8騎士隊長〟率いる、残りの〝第3隊〟と〝第8隊〟が此方へ向かっております! こちらは、ギルドの方で対応いたしますので〝アーデルハイト王国〟の皆様は、アリス王女を連れ、この場からお下がりください!」
(──第8隊……!? マジか……!)
やっべー、エメレアとか来るじゃん?
後、エメレアとか? エメレアとか?
物凄く面倒な予感しかしない……
「ど、どうしたのですか?」
急に『まじか……』みたいな顔をする俺を見て、頭に『?』を浮かべ、不思議そうに聞いてくるアリス。
「──要するに、あれを倒しちまえばいいんだな?」
極論。あの──上半身のみの〝黒影エセ巨人〟をさっさと倒して、この場から去ればいいんだろう?
〝触らぬエメレアに祟りなし〟だ。
──よし、急ごう!
「オイ、あれはあたしが倒すぞ?」
「んな、暇は無い!」
即答する俺に、フィップは「……」と無言でいる。
──それに少し強めの魔法も試してみたいしな?
そして俺が〝魔力〟を込め始めると……
バリバリッ! バチッ! バチッ!
俺の両手から、強めの電気の走るような音が鳴り出す──そして、その音は次第に強くなって行く。
(遊びの対人相手でも、もし殺しちまったら困るからな? だからさっきは使えなかった強めの魔法だ!)
「アリス、あれの核を潰せばいいんだよな?」
「その筈なのです。何をする気ですか?」
「そうだな。強いて言えば逃げる準備だ」
お怒りであろうエメレアからな? 九分九厘『クレハに迷惑かけるんじゃないわよ!』みたいな感じで、おブチギレになってらっしゃることだろう──
まあ、クレハには後で謝っておこう。
「お前は何から逃げるつもりなのです……?」
ズレた話をする俺に、またまた不思議そうに、アリスは『?』を頭に浮かべる。
「おい、フィオレって言ったな? 今戦ってる〝第3隊〟の奴らを退かしてもらえるか? 後は俺がやる」
このやり取りの間、第3隊の〝鳥人種〟の連中が、空から上手く〝エセ巨人の黒影元マント〟を引き付けてくれていた。
「わ、分かりました! ──皆、一度下がって!」
「「「「了解!」」」」
フィオレの一言で、直ぐ様〝第3隊〟は、その場を離れる……ちゃんと、統率されてるんだな?
そして俺は……
──バチ! バチ! ゴロゴロ!
(さて、こんな感じか?)
俺は魔法を使い、そして技名を唱える!
「──〝四鬼雷来〟!」
すると辺りが、一瞬、ピカッ! と大きく光り──
──ゴロゴロ、ドッカーンッ!!!!!!
と、落雷のような音が辺りに強く響き渡る!!
そして、その〝雷撃〟が〝黒影元マント〟を直撃すると、その〝雷撃〟が全身を焼き焦がし──
数瞬で〝元影黒マント〟を跡形も無く消し去る!
それにしても、技名を声に出してみるってのも、
──思いの外、楽しいじゃねぇか!
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